城と名水で知られた久留里の酒蔵
房総半島中部にある千葉県君津市。そのなかでも、藤平酒造が位置する久留里は、江戸時代に徳川譜代が藩主を務めた城下町でした。立派な久留里城が同地区のシンボルです。
同蔵は享保元年(1716年)に創業という歴史のある蔵で、現在9代目。かつての屋号は「藤崎屋」で「藤久盛(とうきゅうざかり)」という銘柄を醸していました。現在の銘柄「福祝(ふくいわい)」は昭和55年(1980年)、先代蔵元が「七福神」から"福"の字を採り、めでたさが重なるという意味をこめて命名しました。
久留里の町は、平成の名水百選に選ばれた「久留里の名水」が湧き出る地として知られています。「庭を掘れば水が湧く」と言われるほどで、明治時代から伝わる「上総掘り」という井戸堀りの技術を使って地下数百メートルから湧き出てくる清水は人々の生活の源。県内外からこの水を求めて人が集まるのだとか。
「福祝」もこの名水を仕込み水として使用しています。この水は中硬水で、発酵力が強く酸が出にくいため、マイルドな酒質になりやすいのだそう。
蔵元の3兄弟による、手造りの小仕込み
現在は、蔵元の3兄弟がすべての仕込みを行っています。蔵にいた南部杜氏から酒造りを学び、平成12年から兄弟での酒造りをスタートしました。「酒造りは、洗いに始まり洗いに終わる」をモットーに、洗米は掛米・麹米ともにすべて手洗い。麹を中心とした原料処理に細心の注意とこだわりを持って、すべて手作業で仕込んでいます。たった3人で醸すため、石高300石の少量生産です。酒米は雄町や山田錦、五百万石、愛山などを使用していますが、将来的には米作りからの工程をすべて自社で行う、"一貫造り"を目指しています。
米の旨味を生かした濃醇旨口酒の傑作
こちらの特別純米酒は兵庫県産山田錦を55%まで磨き、1回火入れを行った蔵のスタンダード酒。はちみつレモンを思わせる穏やかな香りを感じます。口に含むと、山田錦らしい旨味や甘味、そしてジューシーさが全面に出てきました。凝縮した味わいが口いっぱいに広がる濃醇旨口のお酒ですが、甘辛酸のバランスが絶妙で品の良さを感じます。
1回火入れなので、生酒らしいフレッシュ感やトロッとした食感も生きていて、呑み疲れることはありません。冷やして、常温で、燗で......どんな温度帯でも美味しく呑むことができ、温度帯によって味わいが変化するのもおもしろいですね。
濃いめのおつまみなら、どんなものとも相性が良いでしょう。すき焼きや照り焼き、ステーキなどの肉料理だけでなく、ブルーチーズや中華料理にも合いそうです。鰻の蒲焼きや白焼きも最高ではないでしょうか。吟醸クラスの造りながらも、一升瓶で2,808円(税込)。味わいを考えると、コスパは抜群ですね。名前も縁起が良く、ハレの日に呑むのも一興です。