山梨県富士川町で、この春120年ぶりに復活した銘酒があります。

それは、萬屋醸造店が醸す「本菱(ほんびし)」

今回は「本菱」復活プロジェクトを推進した、東京都内でブランディング業などに取り組む、むすび株式会社代表取締役の深澤了さんに話を聞きました。

復活のきっかけは、納屋から見つかった図面と刻印

深澤さんの故郷はプロジェクトの舞台である山梨県富士川町。深澤さんが当時働いていた会社からの独立を決意したころ、「家の納屋で酒蔵の刻印と図面が見つかった」と父から話がありました。

納屋から見つかった刻印

実家がかつて造り酒屋だったことは幼い頃から聞いていたものの、それは深澤さんが生まれるずっと前のことだったので、それほど深く考えたことはなかったのだとか。

しかし、独立しようと決意したタイミングで当時の資料が見つかったことに深い縁を感じ、他人事ではいられなくなった深澤さんは、自分の故郷をお酒で元気にできないか、と考えるようになります。

納屋から見つかった蔵の図面

町の役場に勤める同級生を訪ね、このプロジェクトについて相談すると、「若者がみずからやりたくなるような農業」をモットーに活動している、富士川町の酒米農家・名執雅之さんを紹介してくれました。

さらに名執さんから町内の酒蔵を紹介してもらい、プロジェクトに協力してもらえることに。「本菱」の復活がより具体的になっていきました。

協力してくれたのは萬屋醸造店。富士川町に唯一残る、創業1790年の酒蔵です。長年、山梨県を代表する銘柄「春鶯囀(しゅんのうてん)」を醸してきました。

ご縁の賜物か、トントン拍子に話が進んでいきます。

「まちいくふじかわプロジェクト」始動

山梨県富士川町はその昔、宿場町として栄えた場所。長野や山梨から米が集まり、この町から富士川を下って静岡へ運ばれていきました。

米の集まる町には、たくさんの造り酒屋と、地域に親しまれたお酒があるもの。深澤さんの実家はその造り酒屋のひとつでした。しかし、時代の流れとともに活気は薄れ、今では過疎化が深刻な問題になっています。

プロジェクトの目的は、ただ「本菱」を復活させることだけではありません。「本菱」の復活をきっかけに、富士川町が元気になってくれることなのです。

そこで今回の企画を「まちいくふじかわプロジェクト」と名付け、「本菱」が完成するまでのプロセスをともに考え、汗を流してくれるメンバーをチラシやSNSなどを使った情報発信で募りました。

結果、町内の人々をはじめ、県内外から約30人のメンバーが活動に参加してくれました。日本酒好きの人、日本酒を造ってみたい人、ブランディングに興味のある人など、興味をもったきっかけも年齢もさまざまなメンバーです。

こうして、2017年4月までの1年間、米作りから始まる酒造りのプロジェクトが動き出しました。

120年前と今をつなぐ、1,000本の日本酒

酒蔵の図面は見つかったものの、残念ながら120年前の仕込みのレシピは残されていませんでした。しかし「それが良かったのだと思います」と深澤さんは語ります。制約がないぶん、新しい発想でお酒を造ることができました。

今回は、お酒好きな大人の女性が好む、フルーティーで豊かな香りがありつつも、のどごしがキリッとした味わいを目指して造ったのだとか。協会1901号酵母を使い、メロンやバナナに似た華やかな香りを実現しました。酒米は、全国的にも珍しい富士川町産の「玉栄」を使っています。

「お酒好きの女性は、甘口のお酒をあまり好まないイメージがありました。だから、のどごしのキリッとしたタイプが良いかなと思ったんです。今回の『本菱』は冷やして飲むと、本当に美味しいんですよ!」と深澤さん。

たくさんの縁で復活した「本菱」。その"ご縁"を表現したいということで、ラベルは5パターンあります。富士川町が大きなにぎわいを見せていたころ、町内には多くの呉服店があったことから、着物をモチーフにしたデザインにしました。

  • 赤:「赤い糸」という言葉からご縁の象徴。ご縁に感謝したいときに。
  • 白:混じりけのない純粋な色。まっすぐな思いを伝えたいときに。
  • 紺:夜桜の雰囲気は昼と違って神秘的。じっくりと語り合いたいときに。
  • 青:青空に咲き誇る桜の美しさ。爽やかな気分で飲み交わすときに。
  • 黄:黄金に染まる空を眺め、明るく、楽しい気分を分かち合いたいときに。

本菱は、販売後わずか4ヶ月で完売となりました。今年度のプロジェクトもすでに進行していて、来年の予約は年明けからとなるそうです。プロジェクトへの途中加入も可能。今度はあなた自身が「本菱」の造り手になってみませんか?

まちいくふじかわプロジェクト「純米大吟醸 本菱」

  • 原料:米(山梨県産)、米こうじ(山梨県産米) ※富士川町産玉栄を使用
  • 精米歩合:50%
  • 日本酒度:-2
  • 酸度:1.5
  • アミノ酸:1.2
  • アルコール度数:17度
  • 内容量 3,980円 (720ml・税込)

(文/堀内麻美)

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