福岡県北九州市から特急に乗り、1時間弱の位置にある大分県宇佐市に、一度廃業したものの、復活して新たに酒造りを始めた酒蔵があります。

その蔵は、株式会社小松酒造場。創業は1868年です。1960年代後半には、大手企業の下請けなどもあり、およそ1500石の生産量を誇りました。ですが、昭和63年に当時酒造りを支えていたの杜氏が事故にあってしまい、そのまま酒造りを休止します。製造を委託しつつ、酒蔵としての営業を続けていたところ、平成20年に6代目蔵元の小松潤平さんが蔵に戻り、20年ぶりに酒造りを再開しました。現在は250石の生産量があり、毎年10%程度生産量を増やしています。

6代目蔵元・小松潤平さんに聞く蔵復活までの道のり

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なんといっても一度酒造りを20年休止した蔵。再開には大変な苦労があったと思い、小松酒造場6代目蔵元の小松潤平さんにお話を伺いました。

― 一度休止した蔵ですが、なぜ復活させようと思ったのでしょうか。
やはり自分の酒造りをしたかったんですね。生まれたときから酒造りがあるのが日常で、その道に進むのが当然のように思っていました。ですから、進学先は醸造を学べる東京農業大学を選びましたし、卒業後は各蔵で働きに出ました。この頃は蔵を復活させるための当てが何もない状態でしたが、とりあえず今の自分にできる事をやろうと、酒造りを学びました。

― 酒造りの修行はどちらでされたのでしょう。
東京農業大学醸造学科で学んだのちに、滋賀県の「池本酒造」で2年、高知県の「仙頭酒造」で1年。それから高知県の「酔鯨酒造」で4年間蔵人として働きました。ありがたいことに酔鯨酒造から正社員として誘いがありましたが、自分で造りたいという思いがあり、お断りさせていただき蔵に戻りました。

― 蔵に戻り、自ら酒造りをはじめていかがでしたか。
初年度の酒造りは、修行先の酔鯨酒造と同じ造り方で行ってみました。でもまったく違う結果になりました(苦笑)。水や環境が違うと、ここまで変わるかという感じでしたね。うちの仕込み水は敷地内の井戸からくみ上げた中硬水です。高知と違い、何もしないでも勝手に発酵してしまうので、水に合わせていろいろと造り方を変える必要がありました。そこから工夫を重ねて、今の味に落ち着きました。造りは父親とほぼ二人で行っています。蔵人は増やしたいですが、まだこれからですね。

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― 設備面でも苦労はあったと思います。
再開する前の2年間、新たな設備の準備をしました。蔵に昔の設備はありましたが使えないものも多く、借金をしながら新しく機器を買ったり、蔵を直して設備を整えたりしました。これは新しく買った、洗米の道具です。

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蔵は2階建てですが、1階にすべての設備を集めています。昔は2階でも造りをしていたそうですが、現在は規模が小さいので、すべて1階で作業が完結できるようにしています。

― 復活した蔵として、他の蔵との違いはあるでしょうか。
飲酒人口の多い地域を意識して酒造りをしているところでしょうか。20年ぶりの復活蔵ですから、新規顧客がほとんどです。実際に、地元・東京・大阪・福岡で同じくらいの割合で売れています。復活当時は、東京・大阪を優先して出荷することにしていましたが、その後は徐々に地元にも力を入れています。

― 熊本地震の影響はありましたか。
蔵の壁の一部が壊れたりしましたが、とりわけ大きな人的・商品的な被害はありませんでした。地震直後に京都の日本酒イベントに参加した際には、たくさんのお客様から心配していただき、大変ありがたかったです。

目指すは"大分ならでは"の酒造り

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― お酒の特徴を教えてください。
大分県のお酒は甘くて旨味のしっかりとしたものが多いですが、私たちはしっかり旨味を感じさせながらも、スッキリ飲める食中酒を造りたいと思っています鱧、牡蠣、城下カレイが地元宇佐の名物ですので、合わせて飲んでいただきたいですね。

一方、季節ものの限定酒は新しい試みを取り入れています。おりがらみは協会11号酵母を使い、酸味を高めて一杯目に飲んでもらえるような味に仕上げています。焼酎麹のお酒も面白そうですので造ってみたいですね。また、現在の造り方は味の安定しやすい速醸酛です。生酛や山廃を試すのはまだまだこれからです。

― 大分の酒米にこだわられているそうですね。
仕込みに使う酒米の7割は地元で栽培されたもの。大分県固有の酒米の「大分三井」と「吟のさと」も使っています。「大分三井」は、「神力」と「愛国」を親に持ち、近年評価が高い「松山三井」を子に持つ酒米です。大粒で栽培が難しい事から昭和40年代に姿を消しました。しかし、このお米を使い大分でしかできないお酒を造りたいと思い、一握りの種籾から復活へ取り組み、ようやくお酒を仕込めるだけの量を収穫する事ができました。「吟のさと」は、山田錦の改良品種で、山田錦よりも倒れにくく、心白も多いのが特徴です。こちらはおりがらみに使っています。

― どんな方に飲んでほしいでしょうか。
若い女性に飲んでほしいですね。若い人に飲んでもらえるよう、いろいろな日本酒イベントに参加しています。特に「特別純米おりがらみ」は人気で、用意したお酒が早めに無くなってしまうこともあります。見かけたらぜひ飲んでみてください!

また、宇佐市には焼酎も含め、8つの酒蔵があります。これらの蔵開きを合同でやれると面白いですよね。継続して開催することで、大分のお酒をアピールすることもできると思います。

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お話を伺いながら、「豊潤」を数種類試飲させていただきました。「特別純米 おりがらみ」は甘酸っぱさがあり、食前酒としていただきたい味わいでした。「純米吟醸 大分三井」はふんわりとした甘さ、「純米吟醸 山田錦」は旨味と酸味がバランス良くまとまっています。そして、どのお酒も芯の太さを感じました。

東京の飲食店で初めて「豊潤」と出会い、こんなにしっかりとしたお酒を造るのはどんな方なのだろうと思い、小松酒造場を訪ねました。日本酒のことになると言葉を選びながら真剣に将来のことを語る小松さん。酒を造ることが日常であり、心から好きなのでしょう。「美味しい」と言っていただけるとき、そして自分で納得できる酒ができたときが嬉しいと、気さくに語ります。これからも進化し続ける小松酒造場に注目です。

株式会社小松酒造場

  • 所在地:〒872-0001/大分県宇佐市大字長洲3341
  • TEL:0978-38-0036
  • FAX:0978-38-1113

(取材・文/鈴木将之)