埼玉県で初めての女性杜氏となった佐藤酒造店の佐藤麻里子さんが、みずからのこだわりを極めるための新ブランド「中田屋」を立ち上げました。
主力銘柄の「越生梅林(おごせばいりん)」に加えて、特約店のみで販売する新銘柄をつくったねらいとその思いについて、麻里子さんに話をうかがいます。
女性にも飲んでもらえる酒を造りたい
大学卒業後に酒造りを学び、2015年から女性杜氏として醸造に取り組んでいる麻里子さん。就任当初は思うようにいかないことも多くあったそうですが、3シーズン目の造りを終えて、ある程度納得できるお酒をブレることなく造れるようになってきました。
主力銘柄「越生梅林」を以前から支えてくれているファンが離れていかないように必死だったようですが、最近「昔よりも美味しくなったよ」という評判を聞くようになり、ホッとしているのだとか。
しかし、ファンのことを考えると、思い切ったコンセプトの変更ができないのも事実。そんななか、麻里子さんは「これまでのファンはもちろん、日本酒初心者や女性の方々にも飲んでもらえるような新しいお酒を造りたい。それ以外にも、いろいろな挑戦がしたい」と考えるようになりました。
原料米の異なる、5種類の「中田屋」
そこで麻里子さんは、酒販店との共同開発で、新しいブランドを立ち上げることにします。
新銘柄の名前は佐藤酒造店の屋号である「中田屋」。ラベルのデザインは麻里子さん自身が手がけました。「中田屋」の文字をデフォルメし、梅の花をあしらったデザインは、パッと目を引くチャーミングなもの。きっと、日本酒を飲み慣れていない女性でも手に取りやすいでしょう。
現在、「中田屋」として販売しているのは5種類。米の品種によって、ラベルの色を分けています。
- 黒ラベル(純米大吟醸):山田錦
- 青ラベル(純米吟醸):五百万石
- 赤ラベル(純米吟醸):美山錦
- 桃ラベル(純米吟醸):美山錦・五百万石・彩のきずな・こしひかり
- 橙ラベル(純米吟醸):さけ武蔵
いずれも少量で仕込み、きめ細やかな温度管理をすることによって、繊細な酒質を目指しています。
麻里子さんの好むお酒が「ほどよく香りがあって、後味がスッキリしているもの」ということもあって、いずれも香りは抑えめ。旨味が主役になる味わいで、キレを重視した仕上がりになっています。
「米の特徴を生かし、安定した酒質を目指した酒造りを心がけています」と、麻里子さん。今後、米をあまり磨かない酒や山廃の酒などにも挑戦していきたいと考えているようです。
「私の酒造りと同じように、階段を一段ずつ登るように『中田屋』というブランドを大事に育てていきたい。料理に合うのはもちろん、人生の喜怒哀楽にそっと寄り添って、やさしく包んであげられるようなお酒を造っていきたいです」と、目を輝かせていました。
若き女性杜氏・佐藤麻里子さんの酒造りがこれからも楽しみです。
(取材・文/空太郎)