日本のポップカルチャーがフランスで再注目され始めたのは、今から15年ほど前のこと。
2000年にパリで初めて開催された、日本文化の総合博覧会である『JAPAN EXPO(ジャパンエキスポ)』や、アニメ・漫画の人気に続き、2008年にはJ-POPミュージシャンが数多く来仏するなど、日本の音楽人気にもブームの兆しがありました。
ところが、10年以上前から、日本の音楽カルチャーをフランスに広める仕事をしている現地企業「Closslight(クロスライト)」のグザビエ代表は、近年の、若者のライブ離れを懸念していました。
「新たなミュージシャンを世に送り出し、ファンを獲得するためには、今までにない新たな発想をしていかなければなりません。今の若者は“モノ消費”よりも“コト消費”を大切にします。音楽を聴くだけでなく、何か特別な経験ができる、そんなライブイベントが出来れば、きっと多くの人が興味を持ってくれるのでは」
新たなイベントを構想していたところ、グザビエ氏はパリで日本酒の普及活動をしている方と知り合いました。
音楽ファンに日本酒を、日本酒ファンに音楽を
「レストランで日本酒をたしなむ現地フランス人は、主に年配の富裕層です。日本酒イベントを催しても、来場者は年配の方が大多数。将来的にメインターゲットとなる若者に日本酒をアピールするために、若者が集まるクラブで日本酒を提供したら面白いのでは」
全く別の業界で働いている2人でしたが、"若年層に日本酒を広めたい"という思いと、"固定ファン以外の幅広い層に日本の音楽を広めたい"という思い、別々の業界がコラボレーションすることで新たな可能性が開けると確信したグザビエ氏。音楽と日本酒をかけわせた、新感覚のイベントを開催することを決めたのです。
一般的なライブイベントの参加者は、主に20代~30代。一方、日本酒イベントの来場者は30代~40代以上が中心。お互いに、新たなファンを獲得するために、音楽・日本酒、それぞれのファンが集まる場を設けました。
日本での公式デビューを前に来仏した新鋭ジャズ・ファンクバンド「 Basementピ(ベースメントピ)」と、フランス在住のアーティスト「Michel Michina」とともに、音楽と日本酒をプロモーションすることが決定しました。
取り揃えたお酒は、ライブ会場で取扱いのあるビールやカクテルに加え、4種類の日本酒をはじめとする以下7種。
- 松竹梅 白壁蔵 スパークリング清酒 澪(みお)
- 松竹梅 白壁蔵 生酛純米(きもとじゅんまい)
- 松竹梅 白壁蔵 大吟醸 無濾過原酒
- 松竹梅 にごり酒
- 宝酒造 生姜梅酒
- 宝酒造 柚子のきもち。
- 宝酒造 焼酎「JAPAN」
イベントでお酒を提供するスタッフには、お客様のニーズに合った商品が出せるように、事前に日本酒セミナーも実施しました。日本酒はお米から造られる醸造酒であること、米を磨く割合や、甘口から辛口まで幅広い味わいが楽しめることなどレクチャーします。 普段からお酒を扱うバースタッフの方々でさえも、日本酒を蒸留酒であると勘違いしている方が多く、驚きの声をあげていたのが印象的でした。
セーヌ川に浮かぶ船の上で…
そうして、セーヌ川に浮かぶ船上クラブ『La Dame de Canton』にて、2016年9月27日、「33° : Music & Saké」は開催されました。
「KANPAI」の音頭で、いよいよイベントがスタート!
グザビエ氏の思惑通り、音楽ファンと日本酒ファンが押し寄せ、会場は大変な熱気に包まれました。
「日本酒を飲んだことがない」という若者が日本酒で乾杯し「生演奏を聴くなんて久しぶり」という人々が音楽に酔いしれます。
予想を超える100名もの来場者を迎え、イベントは大盛況に終わりました。
来場者に一番人気だった日本酒は?
大成功で幕を閉じたイベント。この夜、一番飲まれた日本酒は、スパークリング清酒「澪(みお)」でした。
フルーティーで甘い香りと、ほどよい酸味が特徴のお酒です。アルコール5%の優しい味わいは、日本酒を飲んだことのないフランス人の若者たちに大好評でした。
バンドメンバーにインタビュー
今回、イベントで演奏した「Basementピ」の方々に、イベント感想を聞いてみました。
音楽と日本酒のコラボレーションイベントでの演奏はいかがでしたか?----お酒好きのメンバーにとっては、嬉しいコラボレーション。とても盛り上がってハッピーなイベントでした。「日本発」の価値を世界に広めるという点で”日本酒”同様に、我々の音楽にもジャンルを超えた日本らしさがあると思っていますので、それをフランスの方々にも感じてもらえていたら最高です。
「日本酒×音楽」、今後の可能性についてお聞かせ下さい。----新たな日本酒ファン、音楽ファンを創出する場として、日本でもこうしたイベントを、ぜひともやりたいですね。何度か酒蔵でライブイベントをした事があるのですが、日常と非日常がクロスオーバーする場としての雰囲気がとてもよかったです。酒も音楽も、地域との関わりの中で発展するものだと思っているので、きっと相性がいいんですね。
”日本酒”単体ではなく、”日本文化”とともに届ける
日本酒だけを紹介するのではなく、日本文化と組み合わせながらファンを獲得することにより、可能性は大きく広がりそうです。欧州での日本酒ブーム創出に向け、人々の挑戦は続きます。
(文/SAKERINA)
写真提供/ The photographer
情報提供 / 33 Degrees (producer of 33° : Music & Saké)