旅に出かけたら、その土地の銘酒を味わうのも楽しいですよね。

訪れた証に、"御朱印"ならぬ"御酒飲"を。ということで、今回は奈良県宇陀市の宇陀松山への旅で訪れた酒蔵を紹介します。

重要伝統的建造物群保存地区に選定された町並み

宇陀松山の町並み

近鉄榛原駅からバスで約15分、江戸時代にタイムスリップしたような町家が続く、宇陀松山に着きました。町家というと、"うなぎの寝床"に例えられるような、間口が狭く奥行きのある建物を思い浮かべがちですが、この地区では間口も奥行きも広い町家がほとんど。町をつくるときに、近隣の有力な商人を集めて税金を免除したからなのだそう。

松山城西口関門

宇陀松山の歴史は、戦国時代に秋山氏が築いた秋山城の城下町として始まり、1615年には宇陀松山藩が置かれ、織田家の支配下になります。1694年、江戸幕府の天領になると、以後、商業地として発展していきました。17世紀の初期に建築されたといわれる松山城西口関門は、国の史跡です。

森野吉野葛本舗の外観

こちらは「吉野本葛」で有名な、森野吉野葛本舗。初代・森野藤助が採取した薬草を自宅の裏山に植え替えて造った薬園は、東京の小石川薬園と並ぶ、日本最古の薬草園といわれています。

森野吉野葛本舗の作業場

吉野葛をつくる水槽です。葛の根を晩秋に掘り起こして、根を砕きます。ほぐした後、水洗い・攪拌・沈殿を真冬に何度も繰り返し不純物を取り除く「吉野晒し(よしのさらし)」という手法を用いて、"白いダイヤ"と呼ばれる吉野本葛ができあがります。昭和天皇が最後に口にされたのは、森野吉野葛本舗の吉野本葛なのだとか。

創業300年超の久保本家酒造

久保本家酒造のショップ外観

歴史ある町並みの一角にあるのが、久保本家酒造。初代が吉野から宇陀松山に移り住んで酒造りを始めたのは、1702年のこと。300年余りの歴史がある蔵なんですね。

蔵を大改修して、2004年から本格的に生酛造りを始め、「初霞」「睡龍」「生酛のどぶ」などの銘柄を醸しています。『夏子の酒』を執筆した尾瀬あきら氏が何度か造りに参加したことがあるそうで、著作『蔵人 クロード』には、しばしば久保本家酒造の様子が描かれているのだそう。

松山自動車商会のボンネットバス

1917年には、8代目が松山自動車商会を設立し、奈良県内で初めての乗り合いバスを松山~桜井間で運行し始めました。その後、乗り合いバスの事業は奈良交通バスに引き継がれます。2017年に行われた「奈良のバス創業100周年フェスタ」では、ボンネットバスが宇陀松山の町中を走りました。

久保本家酒造のショップ

街道沿いに面して、母屋を改修したショップがあり、日本酒や酒粕のほか、お猪口や前掛けなどのグッズが販売されています。

久保本家酒造のカフェ内観

創業時の蔵をリノベーションしたカフェもありました。カフェですが、もちろん蔵自慢のお酒を飲むことができます。酒粕や糀を使ったスイーツやドリンクも人気です。

濃厚な旨味とキレの良さ「生酛のどぶ」

久保本家酒造の飲み比べセット

今回の御酒飲は「生酛のどぶ」「初霞 生酛純米」「初霞 純米大吟醸」という3種類のきき酒セットです。

「生酛のどぶ」は、トロリとしたにごり酒で、醪のつぶ感が残っています。キレが良く、思わずおかわりしたくなってしまう酒です。「初霞 生酛純米」は、5年以上熟成させている酒。飲み終えた後の余韻が心地良く、燗酒でも味わってみたくなりました。「初霞 純米大吟醸」は口当たりがやさしく、スッキリとした味わいです。

芳村酒造

また、久保本家酒造のすぐ近くには芳村酒造があります。黒漆喰の壁と立派な"うだつ"(隣家との間にある防火壁)が目を引きます。創業は1868年で、代表銘柄は「千代の松」「稲戸屋」。古代米を使って醸した酒や、蔵主兼杜氏が「面倒やけど道楽で造ってるんや」と語る八段仕込みの酒など、個性豊かな商品が多数あります。

江戸時代の風情が残る宇陀松山の町並みを散策した後、趣ある蔵で"御酒飲"をしてみてはいかがでしょうか。

(文/天田知之)

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