八海醸造は、2020年8月に新商品「大吟醸 八海山」と「純米大吟醸 八海山」を発売しました。商品のコンセプトは「少し特別な日に愉しめる、少し高級な日本酒」です。

これまで日常酒の高品質化に取り組んできた八海醸造は、新型コロナウイルスの影響で人々の生活スタイルが大きく変化するなか、この新商品にどのような想いを込めているのでしょうか。来たる八海醸造の創立100周年に向けての展望とあわせて、代表取締役の南雲二郎氏に話をうかがいました。

日常の食卓に並ぶ日本酒「八海山」

新潟を代表する銘酒として全国的に知られている「八海山」。とりわけ、「いい酒をより多くの人へ」を実現した「清酒 八海山」は、軽やかな米のうまみと後口のキレ、バランスのとれた味わいが多くのファンに支持されている人気銘柄です。

新潟県南魚沼市を拠点に「八海山」を醸す八海醸造は、この30年来、徹底して「日常酒の高品質化」に尽力し、その技術の粋を結集した酒造りに取り組んできました。

そこには「日本酒を『嗜好品』ではなく『日用品』に」という、南雲氏の明確なねらいがあります。

八海醸造 代表取締役の南雲二郎氏

八海醸造 代表取締役の南雲二郎氏

「日本酒は『手に届かないもの』ではなく、当たり前のように飲まれなければ、業界全体として衰退してしまいます。お客様に求められる酒をいつでもどこでもリーズナブルに手に入れられるように、会社の社会的責任として品質を高めながら安定的に供給することに取り組んできました」

その言葉通り、「八海山」はスーパーやコンビニなどにも販路を広げ、売上はこの30年でおよそ4倍に。「日常の食卓に並ぶ日本酒」として、着実に広く浸透してきました。

近年、吟醸酒や純米酒などの特定名称酒を中心に、さまざまな銘柄に光が当たるようになりましたが、そういった流れとは一線を画す八海醸造の戦略。そこには日本酒を「日常の食中酒」と位置づけ、その品質を進化させることで存在価値を高めようという強い意志があります。

「さまざまな酒蔵さんが個性豊かな酒を出していらっしゃる。それはそれで面白いじゃないですか。私たちが目指すのは日常の食事に寄り添う酒。酒を飲んで語り合い、心を開く時間に価値を置いてゆったりと飲み続けられる酒を造ろうと。その想いを貫いてきたんです」

「食事に寄り添う酒」のその先へ

八海山大吟醸・純米大吟醸

(左から)「大吟醸 八海山」と「純米大吟醸 八海山」

そんな八海醸造が、2020年8月に新商品として発表したのが「大吟醸 八海山」と「純米大吟醸 八海山」。「少し特別な日に愉しめる、少し高級な日本酒」をコンセプトとして新たに発売したお酒です。

1990年の発売以来、根強いファンがいた「吟醸 八海山」と「純米吟醸 八海山」を終売し、新たな商品を発表したことに驚いた方は多いでしょう。「日常酒の高品質化に取り組んできた八海山が、ついに高級路線へ?」と懸念された方もいるかもしれません。南雲氏は新商品のねらいについて、次のように話します。

八海醸造 代表取締役の南雲二郎氏

「30年前だったら、吟醸酒や純米吟醸酒はまさに"少し高級な日本酒"でしたが、時代の変化につれ、大吟醸酒や純米大吟醸酒をご自宅で楽しむ方も多くなってきました。私たちも会社全体として常に品質向上に取り組んできましたが、今こそ大きく進化すべき時だろうと。

この30年で技術を意識的に進化させて、人も育ててきたわけです。そういった会社の成長を踏まえて、お客様にワンランク上の新たな日本酒を提案できるのではないかと考えました」

きめ細やかなまろやかさとほのかな米のうまみ、きれいな味わいの「大吟醸 八海山」と、純米酒ならではの透明感とふわっと広がる香り、それでいてキレのある「純米大吟醸 八海山」。いずれもあくまで食事を引き立て、食中酒として飽きの来ない上品な味わいとなっています。

「酒蔵によってどんな酒にするのか、その味わいの方向性や品質は異なりますが、私たちにとっては『いつの間にか飲んでしまう』というのが理想。いつも『このままでいいのか?』と自分たちに問いかけているんです。

ほかの酒蔵のお酒も進化して、多様な楽しみ方ができるようになってきた今だからこそ、私たちの志向する『日々の食事に寄り添う酒』を定番の高級酒として改めて表現して、本当にいい酒を造ろうと考えたのです」

コロナ禍で感じた、新たな展開の必要性

八海醸造にとって30年振りの大きなリニューアルとなった「大吟醸 八海山」と「純米大吟醸 八海山」の発売ですが、会社としてはコロナ禍の影響は否めません。

八海山アルコール

5月には高濃度エタノール製品「エタノール 77%」を緊急製造し、地元医療機関や介護施設などに手指消毒用エタノールの代替品として寄贈するなど、いち早く地域貢献に取り組みました。しかしながら、経営者としては難しい判断を余儀なくされていると、南雲氏は率直に明かします。

「人間は、ものの移動で成り立っています。食料も衣料も人が運ぶし、旅行や出張などで人が動けばお金も動く。それを『動くな』と言われたわけですから、経済は縮小して当然です。日常的に人の生活に制約があるなか、経済が破綻すれば人間社会そのものが不幸になる。早く特効薬かワクチンが開発されないことには、正直打つ手がありません。

おそらく、仮に数年で新型コロナウイルスが収束したとしても、人の意識はおそらく変わるでしょう。これまでなら仕事が終わって、『ちょっと一杯飲みに行こうか』となっていたのが、通勤がなくなって大人数では集まれない。『飲まなきゃ飲まないでもいいな』と思う人も出てきているでしょう。人の価値観が変わる、ということです」

酒蔵にとっては死活問題と言えるこの状況のなかで、南雲氏はそれでも前を向いています。

「価値観が変わるのは恐ろしいことではあるけど、チャンスでもあります。ちょうど娘が4月に新卒である会社に入って、リモートで研修をして、同期とも一度しか会っていない状況でした。それでもその期間中、週末ごとにオンライン飲み会をやっているんですよ。同期たちと0時を回るほど深夜まで盛り上がっていて。

何が面白いの?と思っていたのですが、私と同世代の人たちも、それこそ海外とつないでリモートで盛り上がったという話も聞きました。

これほど世界中がひとつの課題に直面することはそうそうないけど、こうしてつながることができるんだなぁと感慨深かった。私たちも生活を提案する会社として、酒を飲むシーンをリアルでもリモートでも提案できるように取り組んでいかなければならないと考えています」

「魚沼の里」の風景

「魚沼の里」の風景

南魚沼市にある本社周辺で商業施設「魚沼の里」を運営し、「発酵のある暮らし」を提案している八海醸造。「八海山」を造る第二浩和蔵に、クラフトビール「ライディーンビール」を造る猿倉山ビール醸造所、カフェやベーカリー、雑貨店を通じて、日本酒だけにとどまらないライフスタイルを発信し、その存在価値を高めています。

自由に行き来できない時代だからこそ、リアルの場でしか体験できなかったことをいかにリモートで展開できるかがこれからの課題です。8月29日には「バーチャル酒蔵見学」さながらに、「八海山」を飲みながら八海醸造の酒造りを知ってもらうオンラインイベントを開催しました。

オンラインイベントの様子

オンラインイベントの様子(画像提供:株式会社ビッグベン)

「リモートなら、地元にいながら北は北海道から南は沖縄県まで、地場の酒とおいしいつまみを一緒に楽しむこともできる。ただのお取り寄せではなく、オンラインで一堂に会するライブ感が面白いんですよね。私たちもそういうふうに酒を飲む場を演出するような展開も考えていく必要があると思っています」

次の100年に向けてなにができるか

「八海山」の菰樽

八海醸造は来たる2022年、創業100周年を迎えようとしています。創業数百年の酒蔵も珍しくない酒造業界のなかで、「果敢に市場を開拓し、現在に続く礎を築いてきたベンチャー気質の会社だ」と、南雲氏は語ります。

先代である父・南雲和雄氏が1960年頃に蔵を継いだときには、資産よりも借金のほうが大きかったという八海醸造。土地を担保に設備投資を進め、品質の向上に努めてきました。

「1980年ごろから新潟の地酒に注目が集まって、各社が志高い酒造りを志向していきました。その一部は品質を維持するために希少性を高めていきましたが、私たちは高品質でありながら、より多くの方に手に取っていただける日常酒を造って、市場を広げていかなければならないと信じていたんです。それが世の中のニーズとも合致したんだと思います。そういう意味では、運が良かったと言えますね」

クラフトビール「ライディーンビール」

クラフトビール「ライディーンビール」

1997年に南雲氏が代表に就任してからは、クラフトビールや焼酎の製造をはじめ、コンセプトショップ「千年こうじや」を立ち上げるなど、積極的に事業の多角化を推進します。

なんと、2020年末には、北海道・ニセコにウイスキーの蒸留所を開設予定。新たな挑戦も進行中です。

八海醸造 代表取締役の南雲二郎氏

「日本酒を造ることで培ってきた発酵の技術は、ビールやウイスキー、甘酒や麹漬け、あるいは化粧品など、さまざまなものに応用できる。それだけ日本酒を造るための技術は複雑で、高度であるということです。

しかも、私たちが酒を造る魚沼には、この地に降り積もった大量の雪が溶け出し、豊富な伏流水となって湧き出る『雷電様の清水』という清らかな水があった。それはまさに神様がくれたものです。この水と米と技術を組み合わせて、どういう酒を造るのか、どんなものを新たに提案するのか。それは我々自身が決めなければなりません」

「よりよい酒を、より多くの人に」という思想のもと、日本酒のある暮らしを提案してきた八海醸造は、次の100年に向けてどんなビジョンを打ち出し、具現化していくのでしょうか。

「私自身としては日本酒を愛しているけど、もしかしたら100年後、日本酒の会社ではなくなっているかもしれない。社会の中で役割を果たし続けるため、お客様に求められ続けるために、我々がこれまで培ってきた技術をいかに活用し、新たな提案ができるかがより重要になってくるでしょう。

これから創業100周年という節目を迎えるにあたって、会社として次の100年を迎えるためになにができるのか。真剣に考えなければなりません」

八海醸造の「大吟醸 八海山」と「純米大吟醸 八海山」

これからの100年に向けて、決意を新たにする南雲氏と八海醸造。その想いと技術を感じられる「大吟醸 八海山」と「純米大吟醸 八海山」を味わいながら、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

(文/大矢幸世)

◎商品概要

  • 商品名:「大吟醸 八海山
  • 原材料:米(国産)、米こうじ(国産米)、醸造アルコール
  • 精米歩合:45%
  • アルコール分:15.5度
  • 価格:
    【1.8l】 3,650円(税別・箱代込)
    【720ml】 1,880円(税別・箱代込)
    【300ml】 810円(税別)
    【180ml】 520円(税別)
  • 商品名:「純米大吟醸 八海山
  • 原材料:米(国産)、米こうじ(国産米)
  • 精米歩合:45%
  • アルコール分:15.5度
  • 価格:
    【1.8l】 4,000円(税別・箱代込)
    【720ml】 2,060円(税別・箱代込)
    【300ml】 920円(税別)
    【180ml】 600円(税別)

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます