「可能性の見本市」をキーワードに、日本酒の新しい価値を提案しようとする人にフォーカスする連載「SAKEの時代を生きる」。第4弾は、アイディーテンジャパン株式会社の澤田且成(さわだ・かつなり)さんをご紹介します。

日本の「ものづくり」の魅力を海外の視点から定義しなおし、世界の人々に選ばれる仕組みを構築するプロジェクトの一環として、日本酒の越境EC事業「Japanpage:Sake」に挑む澤田さん。ブランディングという観点から、日本酒の展望についてお話を伺いました。

日本酒は地域と職⼈の⼒が融合した芸術品

伝統的な技術と職人の感性が光る日本のものづくり。澤田さんは、日本酒やお茶、伝統工芸品など、日本のものづくりから生まれるものを「作品」としてとらえ、世界市場での評価を高めるための「Japanpage:プロジェクト」に取り組んでいます。

「Japanpage:Sake」は、Japanpage:プロジェクトの中で日本酒を世界に直接届けることに特化した物語・EC・国際配送の一気通貫したサービスです。取り扱う日本酒は国内で酒蔵から買い取り、商品価格は世界一律、小口配送で日本酒1本から輸出ができます。

「Japanpage:Sake」のイメージ画像

キーワードは「ブランド×ビジネス」。ブランドとしての価値観を高めるだけではなく、流通や販売における課題を解決し、実際に「売れる」仕組みを構築するというプロジェクトです。

そんな革新的な取り組みを行う澤田さんは、20代・30代は日本酒が好きというわけではなかったのだそう。マーケット調査企業、ブランディング企業での経験を経て、日本各地の伝統工芸品のブランディング事業に取り組む中で、地域産品の代表格としての日本酒の可能性と魅力に目覚めたといいます。

アイディーテンジャパン株式会社 澤田且成さん

アイディーテンジャパン株式会社 澤田且成さん

「工芸品は一度買うと、次に買うのはもしかしたら100年後になってしまうかもしれません。一方、日本酒は嗜好品なので消費のスピードも早く、種類がたくさんあって、流通の観点から見ても運びやすいという利点があります」

たとえば、輸出に関していえば、工芸品はHSコード(貿易のために必要な品目番号)が原材料によって異なるため、流通に際して膨大なデータを管理しなければなりませんが、日本酒はたった1種類で済むという点も大きなアドバンテージになります。

澤田さんが掲げるビジョンは、「⽇本独自の"地域⼒"と"職⼈⼒"の価値をグローバル市場で定義すること」。日本酒は、まさに"地域⼒"と"職⼈⼒"の融合した芸術品であり、All Japanで日本の「ものづくり」を世界に広めていくための先行部隊になると信じているのです。

自分たちの造る酒の強みを見つけてほしい

2001年に世界最大のブランディング企業・インターブランドに入社し、ブランディングプランナーとして多数の有名企業のプロジェクトを手掛けてきた澤田さんは、ブランディングというアプローチに強い誇りを持っています。

「ブランディングとは、『もの』の位置付けを変えること。あるものとあるものの違いを見つけ、魅力を掘り下げ、エッジのあるメッセージにして伝えるというアプローチです。

海外の視点から見たとき、日本酒のように手を込めてつくったものはなかなか見つけ出すことはできません。海外市場は、酒蔵による消費者の先入観がなく、ゼロから自分の魅力を見つけ出すことができる場所だと思っています」

日本国内では斜陽産業と言われ、悲観的な意見も聞こえてくる日本酒。しかし、各地の酒蔵には「他蔵と比較するのではなく、世界の中で自蔵が造る酒の独自のポジションを見つけてほしい」と話します。

イベントの様子

イベントの様子

とはいえ、当初は、日本酒に対する知識がまったくない状態での新規参入でした。酒業界での経験の少なさから、うまくいかないことは少なくなかったそうです。「蔵元さんから信頼され、お酒を扱わせていただくにはどうすればよいだろう」と、澤田さんが選んだ解決策は、自分自身をブランディングすることでした。

「ブランディングでは、自分がどうありたいかといった発信する側の視点だけでなく、受けとる側の視点に立って考えます。自分はどう見られたいのか、相手から信じてもらえる裏付けはなにか、なぜそうしたいのか、といった『What』と『Why』を繰り返すことが必要です。

そのプロセスを通して自問し、自分を骨太にして、取るべきアクションを考えて実行していきました。思考→行動→失敗→思考の繰り返しの中で、日本酒業界での『自分という役割』を考えていったんです」

知識面では、国際唎酒師の資格を取得し、WSET SAKE Level3に挑戦。さまざまなイベントへ参加し、勉強やコミュニケーションを重ねながら、徐々に蔵元からの信頼を獲得していきました。

受け取る側の視点に立って情報を整理する

ブランディングの観点から日本酒の現状を見たとき、澤田さんが筆頭に挙げる課題は「ネーミング」です。

たとえば、ある酒蔵の商品ラベルには「ブランド名・特定名称・原料米・原酒」という順番で書かれている一方で、別の酒蔵のラベルには「特定名称・原酒・ブランド名・原料米」の順になっているなど、日本酒の名称や表記は、メーカーや取扱店によってバラバラです。

日本酒に詳しくない飲み手や、海外の人々には「それぞれの単語はなにを表しているの?」と混乱を招いてしまいます。

澤田且成さん

「ブランディングは『識別』から始まる。商品名を見たときに、受け取る側が頭の中でカテゴライズできることが重要なんです。造り手側のこだわりだけを主張するだけではなく、受け取る側の視点に立って情報を整理してあげなければなりません」

「Japanpage:Sake」で取り扱う商品は、「ブランド名・お米の名前・特定名称・原酒……」とネーミングのルールを統一しています。取扱分をすべて買い取ることで、酒蔵に在庫を持ってもらう負担を減らし、こうした名称やラベル表記、価格のルールを徹底することが可能になります。

「Japanpage:Sakeは、たとえるならプラットホームとして場貸しをする『楽天市場』形式ではなく、すべて買い取る『ZOZOTOWN』形式。正当な理由で名前や価格を変えるには、自分たちの商品として扱わなければならないからです。

私が日本酒業界で取り組むべきブランディングの役割は、ビジュアル面の磨き上げ以上に、日本酒のグローバルにおける新しい価値を生み出すためのルールづくりや、ビジネスモデルそのものをつくり上げることだと自分に言い聞かせています」

澤田さん曰く、こうした細かいルールづくりの積み重ねは、日本酒業界に必要なブランディングの一環だと言います。

海外輸出の機会を増やす小口配送

「Japanpage:Sake」の最大の特徴は、小口配送で海外への輸出ができることです。酒蔵にとって、海外進出は魅力的である一方、リスクも大きいもの。中小規模の酒蔵の輸出のハードルを下げるこのアイデアが注目され、澤田さんは国税庁の「日本酒のグローバルなブランド戦略に関する検討会」に有識者ヒアリングとして招かれました。

「生産量が限られている小さな蔵が、海外をどう活用して売上を作り出し、ブランディングしていくか。この問題の解決のために切っても切れないのが小口配送です。アイデアとして思いついても、具体的な事業として実現できていないテーマなので、検討会ではその可能性についてお話ししました」

海外流通業界に新風を吹き込むプロジェクトですが、澤田さんは、決して既存の流通業界のプレイヤーのビジネスを奪うものではないと話します。

「酒蔵さんには、国ごとにそれぞれの商品を販売してよいかどうかをヒアリングします。すでに取引先がある国の場合はサイト上で商品を非表示にして購入できないようにすることもできますし、発注があった場合に、売上の一部が現地パートナーにも入るという仕組みもあります。既存のチャネルを壊さず、それらがカバーできていない小さなところをカバーして、業界全体の底上げをするというイメージです」

小口配送

小口配送は、これまでグローバル化に興味がありながらも、事業規模などから挑戦を諦めていた酒蔵に海外進出の道を開きました。

「いくらブランディングを語っても、実際に日本酒を運べなければ意味がありません。ブランディングを専門としている自分が配送に携わっている理由はそこにあります。事業として回すためには、想いだけではなく仕組みが必要。そのための環境を作るのが私たちなんです」

「絶対に乗り越えられない壁はない」

2020年9月現在で50カ国への配送実績を持ち、150カ国への配送が可能であると想定する「Japanpage:Sake」。澤田さんの目標は、酒蔵の窓口として全世界にお酒を送ることだと言います。

「もともと、ブランディングの会社でずっと働くつもりだったんです。ブランディングとは、人それぞれに必ず魅力があると信じ、発掘して表現する仕事。すばらしい仕事であり、とても尊敬しています」

「絶対に乗り越えられない壁はない」という人生哲学を掲げる澤田さん。かつて国連で働くことを目指していたものの、青年海外協力隊の道を諦めなければならなかった経験、また、ブランディングの専門家として知識と経験を磨いていこうとした中での寿退社の経験から来ているのだそう。

その思想は、誰にでもブランドになる要素は必ずあると信じ、小さな酒蔵が海外へ進出するための仕組みづくりを行う、現在の事業に結びついています。

アイディーテンジャパン澤田さん

「海外に意識がある酒蔵が、海外へ簡単に自蔵のお酒を送ることができ、世界の市場で評価をしてもらえる未来を実現する。そして、日本酒を造り出す地域の多様な要素・知恵・哲学・姿勢を世界中に伝えたいと思っています」

2020年秋には、日本酒の資格を持つ国内外の日本酒の専門家を対象にした「Sakeアンバサダープログラム」の募集を開始。2020年10月26日からは、AI技術を活かしてユーザーに適した日本酒をアプリが提供する「SakeYours」の参加酒蔵の公募が開始されます(酒蔵・銘柄登録は無料)。さらに、2021年1月には「Japanpage:Sake」がリニューアルされ、同時に「SakeYours」もリリース予定とのこと。

「SakeYours」のイメージ画像

登録無料で誰でも使える「SakeYours」。カメラで日本酒のラベルを読み込むだけで、そのお酒の詳細情報が多言語で表示されるほか、飲めるお店や買えるお店などの情報を入手でき、海外流通における真贋担保やトレーサビリティ機能なども備えています。

先日、「JAPANブランド育成支援等事業(特別枠)支援型」の結果が発表され、SakeYoursは数少ない補助事業のひとつとして採択。行政のバックアップも受けながら、日本酒業界の輸出促進を開始します。

「世界における日本酒の可能性を信じている」と語る澤田さん。市場調査員やブランディングプランナーとして世界30カ国以上を見つめてきたその瞳は、日本酒が向かう壮大な未来を見つめています。

◎アイディーテンジャパン株式会社では、第2期Sakeアンバサダー/Sakeアンバサダー業務への希望者を募集中です。

(取材・文/Saki Kimura)

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