新潟県を代表する銘酒「久保田」。キレのある淡麗辛口の味わいは料理の魅力を引き立てる酒として、長く支持されてきました。

25年ぶりの通年商品として、2018年4月に発売された「久保田 純米大吟醸」は、久保田らしいキレや透明感を充分に残しながらも、華やかな香りという新たな方向性で、従来のファンを驚かせました。発売開始から1年、「久保田 純米大吟醸」は、どのように受け入れられているのでしょうか。

朝日酒造が25年ぶりに通年商品として発売したのが「久保田 純米大吟醸」

在庫が一瞬で完売した「久保田」

1985年に誕生した久保田は、食に対する嗜好性の変化にいち早く対応し、キレのある淡麗辛口の価値を世に広めました。当時の人気は地酒ブームの立役者と言って過言ではないほど。久保田を取り扱う酒販店には、我先にと買い求めるお客さんが集まりました。

横浜君嶋屋の外観

横浜君嶋屋の店舗外観

発売以来、久保田の正規販売店として、朝日酒造と関わり続けてきたのが明治25年創業の横浜君嶋屋です。現在の代表取締役社長・君嶋哲至さんが1983年に家業を継ぎ、地酒の取り扱いやワインなどの輸入を開始。品質本位の店づくりを推進してきました。

朝日酒造との付き合いが始まったのは、ちょうど久保田が発売されたころ。「主要銘柄の『朝日山』に通じるような米の旨味がありながら、やわらかく流れるような口当たりが印象的だった。これから間違いなく伸びていくと思ったんです」と哲至さんは語ります。

その後、久保田は一大ブームを巻き起こし、新潟清酒の美味しさを世に知らしめる礎となりました。哲至さんのご子息で取締役の君嶋一哲さんは、当時の勢いを話します。

横浜君嶋屋・店長の君嶋一哲さん

横浜君嶋屋・取締役の君嶋一哲さん

「物心ついたころ、久保田の人気はすでに確かなものでした。倉庫の奥に一升瓶の箱が何段も積み上げられ、それが一気になくなってしまう。制限をかけていても、すぐに売り切れるくらいで......。幼心に『すごいお酒なんだ』と思っていました」

一哲さんは、2013年に横浜君嶋屋へ入社。銀座の店舗に配属されたのち、2016年からは本社で取締役専務を務めています。

「入社直後、もっと酒のことを勉強しなければならないと手にとったのが『久保田 千寿』でした。店でも多くの在庫を確保していたので、『これだけあるということは売れ筋なんだろうな』と。久保田は味にブレがなく、安定的に入荷することができる。酒屋としては、お客様に安心しておすすめできる銘柄なんです」

久保田は一哲さん自身にとっても、思い入れのある日本酒のようです。

「久保田」らしさに香りをまとう

発売以来、順調に売り上げを伸ばしてきた久保田ですが、2000年代に入ると、各地の酒蔵がこぞって特定名称酒に力を入れるようになり、ライバルが増えてきました。

「ブランドのイメージが定まってきたことで、久保田をご存知の方もそうでない方も『あえて今、飲まなくてもいいよね』と、なんとなく選択肢から外してしまったのかもしれません」

そう話すのは、朝日酒造の営業本部国内事業部部長を務める中山良二さん。

朝日酒造 営業本部国内事業部 部長の中山良二さん

朝日酒造 営業本部国内事業部 部長の中山良二さん

「私たちも久保田をどのように提案していきたいのか、充分に伝えきれていないところがありました。あらためて、今のお客様にきちんと届けられるような酒をご用意しなければならないと感じていました」

一哲さんもまた、久保田が直面する危機意識を感じ取っていたひとりでした。

「久保田のイメージが固定化したことで、『飲んだことあるからいいかな』というお客様もいらっしゃいました。特に若いお客様の好みとしては、香りの高いものや甘酸っぱいものなど、モダンでワインのような味わいの日本酒が求められるようになってきたので、どうしても久保田が選択肢から外れてしまう。なかなか厳しい現状でした」

「久保田 30周年記念酒 純米大吟醸」のボトル

「久保田 30周年記念酒 純米大吟醸」

逆風のなか、「久保田 30周年記念酒 純米大吟醸」が2015年に発売されます。ブランド誕生から30年の節目に発売されたその酒は、久保田らしからぬ華やかな香りをまとっていました。

その味わいに、一哲さんは変化の兆しを感じたといいます。

「培ってきた久保田というブランドも、ただなんとなく受け継がれてきたものではないはず。日本酒は"変わらない"ために、少しずつブラッシュアップしなければならない世界。そのうえで、これまでとまったく違うイメージのものを出してきた。強い思いを感じました」

そしてその華やかな香りと味わいの方向性を踏襲しつつ、2017年の限定発売を経て、2018年4月にまったく新しい商品として発売されたのが「久保田 純米大吟醸」。一哲さんは初めて口にしたときの率直な印象を語ります。

横浜君嶋屋・店長の君嶋一哲さん

「開けた瞬間に香りが立って、フレッシュでキレがあった。ただ、頭のなかで『これは久保田ではない』という思いもあったんです。けれども、繰り返し飲んでいるうちに『このバランス感覚はやっぱり久保田だ』と思うようになりました。華やかな香りでも、きちんと"久保田らしさ"が残っているのです。『やっぱり久保田だ』と思わせるすごさがありますね」

その言葉に、中山さんも安堵の表情を浮かべます。

「新しい酒を造るといっても、"久保田らしさ"は絶対に失ってはならないもの。久保田のファンを裏切るようなものであってはなりません。かなり苦心した部分もありますが、久保田に共通する"キレ"をしっかりと表現し、香りがありながらも、杯を重ねられるようなバランスや透明感を意識しました」

信頼される酒としての責任

『香る、久保田』のコピーも印象的な「久保田 純米大吟醸」は、発売開始とともに着実にお客さんからの支持を集めるようになったと一哲さんは語ります。

「銀座店と恵比寿店は特に若いお客様が多く、スタッフも若いメンバーが多いんです。彼らには"自分たちの売りたいもの"を売ってもらうようにしていて、『久保田 純米大吟醸』はなかでもよく売れています。日本酒になじみのない方にも受け入れられやすい味わいですし、もともと久保田が好きな方にも楽しんでいただいているようです」

横浜君嶋屋・店長の君嶋一哲さん(写真左)と朝日酒造 営業本部国内事業部 部長の中山良二さん(写真右)

そしてもうひとつ見逃せないのは、特別な日に飲む酒として長年信頼されてきた久保田のブランド力だといいます。

「毎年の年末に来られて、『これじゃないと年が越せない』と必ず『久保田 萬寿』を購入されるお客様が大勢いらっしゃいます。『お世話になった方に贈りたい』とお買い求めになる方も。そのなかで『久保田 純米大吟醸』という購入しやすい価格帯がラインナップに加わったことで、久保田を選ぶお客様がより増えました。

私たちにとって久保田は店の骨格となるような商品で、長年、店を支えてきてくれました。そして、また『久保田 純米大吟醸』がもうひとつの柱となってくれるんだろうと思いますね」

その言葉に、中山さんも感謝の意を表します。

「2018年の年末に恵比寿店のスペースをお借りして、スタッフのみなさんと一緒に久保田を販売させてもらいました。そのときに『久保田は君嶋屋にとって大切な商品なんですよ』とおっしゃっていただいて、本当に胸が熱くなりました。

久保田を大切に思ってくださる方々を裏切ることなく、いかに新しいお客様にも久保田を知っていただくか。もともと朝日酒造にあったチャレンジ精神を発揮して、お客様にしっかりと届けていきたい。君嶋屋さんをはじめ、全国の正規販売店のご協力をいただきながら、新しい久保田を提案していきたいですね」

変わらないために、変わる。

「久保田 純米大吟醸」の通年発売から1年を経て、確かに浸透しつつある『香る、久保田』という新たな選択肢。来たる2020年、久保田の誕生35周年に向けて、朝日酒造はたゆまぬ変化を続けています。

(文/大矢幸世)

sponsored by 朝日酒造株式会社

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