「大吟醸酒」と聞くと、美味しい日本酒を想像する一方、高級酒や贈答用のお酒など、どこかハードルの高さを感じる人もいるかもしれません。

2021年8月に白鶴酒造から発売された「雫花(しずか)」は、そんな大吟醸酒を日常的に楽しんでほしいとの思いから開発された新商品。特に日本酒を飲み慣れていない方が感じやすいネガティブな要素を取り除いた大吟醸酒です。

この新しい大吟醸酒「雫花」は、どのようにして誕生したのでしょうか。白鶴酒造 マーケティング本部の大森茂雄さんに話をうかがいました。

「大吟醸酒」のイメージを更新するために

「商品開発にあたって、何よりこだわったのは『大吟醸酒』であることです」

「雫花」が、大吟醸酒として開発された理由について、次のように話してくれました。

「日本酒のいろいろなカテゴリーのなかで、『大吟醸酒』は特に認知度が高く、ネガティブな印象が少ないんです。日本酒をあまり知らない人でも、大吟醸酒と聞くと、なんとなく"良いお酒"をイメージする傾向があります」

白鶴酒造マーケティング本部・大森茂雄さん

白鶴酒造 マーケティング本部・大森茂雄さん

大吟醸酒にこだわった理由のひとつは、消費者の目が向きやすく、興味を持ってもらいやすいというマーケティング戦略によるもの。もうひとつは、白鶴酒造における大吟醸酒の役割をあらためて捉え直すことでした。

白鶴酒造では、これまでに数多くの大吟醸酒を商品化してきました。

1997年に発売した「超特撰 白鶴 大吟醸」は、木箱入りで1万円を超える価格であることから、ギフトとして人気の商品。また、2010年には、大吟醸酒を日常的に飲んでいただくことを目指した、四合瓶サイズで価格が1,000円台の「白鶴 大吟醸」を発売しています。

1997年に発売した「超特撰 白鶴 大吟醸」(左)と2010年に発売した「白鶴 大吟醸」(右)

1997年に発売した「超特撰 白鶴 大吟醸」(左)と2010年に発売した「白鶴 大吟醸」(右)

「『白鶴 大吟醸』の発売から10年以上経ちますが、日本酒ビギナーの方にとっては、まだまだ手が出しづらい雰囲気があるのではないかと考えました。飲み手の意識も変わってきたので、大吟醸酒の役割をもっと広げて、よりカジュアルで日常的に飲んでいただける、日本酒の入口となるポジションの商品が必要だと考えたのです」

大吟醸」とは、特定名称酒という分類のなかのひとつで、「精米歩合が50%以下で、醸造アルコールを添加して造られた日本酒」を指します。

よく磨いた米を低温でじっくりと発酵させることで生まれる、華やかな吟醸香と雑味のないクリアな味わいが、大吟醸酒の特徴。品質管理に特に気を使うことから、造り手の技術が問われるハイスペックな日本酒と位置づけられています。しかし、それゆえに、手の届かないお酒と捉えられていたのも事実です。

いつしか大吟醸酒は「価値のある美味しいお酒」というポジティブなイメージと、「気軽に手に取りにくいお酒」というネガティブなイメージのふたつが拮抗しあう、複雑な存在になっていたのかもしれません。

日本酒ビギナーも、従来の日本酒ファンも楽しめるお酒

日本酒の消費量は、1973年をピークに減り続けています。特に若者の間では顕著で、「日本酒離れ」という言葉も聞かれるようになりました。大森さんは次のように分析します。

「生活スタイルや食事の変化、健康志向の高まりなどが影響していると思います。さらに、『アルコール度数が高すぎる』『どんな料理に合わせたらいいかわからない』『内容量が多くて飲みきれない』などと、これまでの商品設計が時代に合わなくなってきたのかもしれません」

白鶴酒造「雫花 大吟醸」

「雫花 大吟醸」は、飲みやすさを考慮したアルコール分9%

このような日本酒に対するネガティブな意見に対して徹底的に向き合うことから、「雫花」の開発は始まりました。

最初に目を向けたのは、味わいです。従来の日本酒によくある重たい甘みやアルコールの苦味は、特に日本酒にあまり馴染みのない方にとってはマイナスの要素となっていました。裏を返せば、アルコール感を抑え、飲みやすくすっきりとした酒質であれば好まれる可能性があるということ。

「新しい酒質を開発するためには、新しい酵母の育種が不可欠でした。低アルコールの発酵を可能にしながら、香りをたくさん出すような酵母が欲しかったんです。ですが、なかなかうまくいかず、途中で開発を断念したこともありました。結果、理想の酵母ができるまでに、3年の月日がかかりました」

醸造方法は、通常の三段仕込みにさらにひと手間加え、甘口の日本酒を造る際によく使われる四段仕込みを採用。これにより、アルコール度数を低く抑えながらも、柔らかで奥行きのある味わいが実現しました。

洋食やチーズなど、さまざまな料理やおつまみに合わせやすいオールマイティな酒質としたことで、「日本酒に何を合わせれば良いかわからない」といった意見にも対応。普段使いの日本酒として楽しめるものになっています。

「量が多い」「価格が高い」という声には、ひとり飲みはもちろん、ふたりでシェアして楽しむことを想定して500mlサイズに。その結果、700円(参考小売価格)という手軽に買える価格も実現しました。ラベルにはカラフルな花のイラストをあしらい、女性も気軽に手に取れるかわいらしいデザインとなっています。

白鶴酒造マーケティング本部・大森茂雄さん

「雫花」というネーミングは、50個ほどの候補の中から、大森さんを中心に商品開発のメンバーが酒質のイメージに合わせて選んだものです。

「澄んだ一滴が食卓に花を咲かせる、そんな香り豊かな日本酒をイメージして名付けました。名前を聞いた時に美味しそうに感じられて、明るく華やかな印象もあるもの。人の名前のような響きにしたのも、親しみやすさを感じてほしいという思いからです。また、文字にした際の美しさや海外の方にも発音しやすいという点も意識したところです」

あくまで間口は広く、しかし、従来の日本酒ファンにも納得してもらえる、大吟醸酒の名に恥じない本格的な味わい。一見、真逆とも思えるアプローチですが、それを可能にしたのは、白鶴酒造が長年培ってきた技術力と緻密なデータ分析によるものです。

「大吟醸酒」の進化系が、日本酒を楽しくする

日本酒にまつわるさまざまな課題をひとつひとつ解決して完成した「雫花」は、いわば大吟醸酒の進化系。現代に求められる日本酒の最適解のひとつと言えるでしょう。

白鶴酒造「雫花 大吟醸」

「『雫花』のキャッチコピーは『きっと大吟醸が好きになる』としました。日本酒をこれから初めて飲む方や、これまで大吟醸酒に馴染みのなかった日本酒ファンにも手にとってほしいという思いを込めています。とはいえ、中身は白鶴酒造の技術で造り上げたものなので、妥協は一切ありません」

そういって胸を張る大森さん。しかし、商品化の過程の中で、思い描いたものをどのように表現するか、とても頭を悩ませたそうです。

「私たちが開発当初から大切にしてきたのは、カジュアルにリラックスして飲めるお酒。ただ、カジュアルといっても、人によって思い浮かべるものはさまざまです。あまりにポップで着崩したものになってしまうと、日本酒からかけ離れていってしまうのではと感じていました。白鶴の名を背負って出すからには本格的な日本酒の世界観はなくてはならないもの。パッと見て日本酒だとわからない商品にはしたくありませんでした」

「雫花」の発売の先に、大森さんは新たなビジョンを見据えています。

「『雫花』に近しいジャンルの商品は、おそらく他社にもあるでしょう。そのような新しいジャンルの商品が一緒になって流れをつくり、新しい日本酒ファンを育てていけたら、より裾野は広がっていくと思います。『雫花』が業界全体の呼び水になれたら良いですね」

日本酒産業が厳しい状況に置かれている中で、どうしたら商品を手にとってもらえるか。酒蔵にとって大きな課題となっています。しかし、飲み手に寄り添うあまり、日本酒のアイデンティティを放棄してしまっては本末転倒。

「大吟醸酒に流れる、造りのこだわりや品の良さ、そして背筋を伸ばすような緊張感ともいえる独特の空気を大切にしたい」

白鶴酒造が「大吟醸酒」というフィールドで新しく勝負することを決めた背景には、そんな思いがありました。酒蔵のプライドと大吟醸酒の可能性を背負って誕生した新商品「雫花」を、ぜひ手にとってみてください。

(取材・文/渡部あきこ・編集/SAKETIMES)

◎商品概要

  • 商品名:「白鶴 雫花(しずか) 大吟醸」
  • アルコール分:9%以上10%未満
  • 原材料名:米(国産)、米こうじ(国産)、醸造アルコール
  • 精米歩合:50%
  • 価格:700円(参考小売価格/税抜)
  • 内容量:500ml

sponsored by 白鶴酒造株式会社

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます