使用するお米や酵母、造り方の違いによって多種多様に変化する日本酒。技術研究も盛んに行われるようになった現代では、これまでにない味わいのお酒が生まれるようになりました。
秋田県の銘酒としておなじみの「高清水」を手がける秋田酒類製造株式会社が、2015年に発売を開始した「高清水 デザート純吟」もそのひとつです。独特の上品な甘さと酸味がデザートワインのようであることから、この名前が付けられました。
家庭や飲食店で気軽に飲める"いつもの酒"として愛されてきた「高清水」が挑んだ画期的な商品開発の裏側と、一流シェフが提案する「高清水 デザート純吟」のペアリングをご紹介します。
「アイスワインのような甘口の日本酒を」
日本屈指の米どころとして知られる秋田県は、江戸時代より酒造業が盛んに行われ、最盛期には数百軒の酒蔵がひしめいていたほどの"美酒王国"。秋田酒類製造株式会社は、県内で酒造業を営んでいた12軒の蔵が完全企業合同を行い、昭和19年(1944年)に発足した酒造会社です。
代表銘柄の「高清水」は、米の旨みがしっかりした飽きのこない味わいで、晩酌の定番酒としての地位を確立。現在は普段の食卓からハレの日の宴席まで、幅広いラインナップで飲み手の心を掴んでいます。
「貴腐ワインやアイスワインのような、甘口の日本酒を造れないだろうか」
「デザート純吟」プロジェクトは、そんなアイデアから始まりました。企画が始動した2013年ごろは、日本酒の市場に甘口の発泡酒が少しずつ出回り始めた時期。それでも明確に"デザートのような味わい"を打ち出したお酒はなく、もし実現すれば女性にもアピールできる新しい商品になるのではという思いがありました。
開発担当として白羽の矢が立ったのは、すべて手作業で酒造りを行う仙人蔵の副杜氏を務める冨岡浩子さんと、製造部の田松由奈さん。冨岡さんは、女性で初めて秋田県横手市山内に由来を持つ「山内杜氏」に合格した実績の持ち主。田松さんは分析などを専門に行うスペシャリストです。
当時、冨岡さんと田松さんは同じ研究室で働く先輩後輩の関係でした。入社して数年目の大きすぎる使命に戸惑いつつも、「そんなお酒を自分たちも飲んでみたい!」と前向きな気持ちに背中を押されたと話します。
「日本酒メーカーで働いていながらも、友人におすすめできるお酒がないと以前から感じていたんです。デザートワインのような甘酸っぱいお酒なら、日本酒が苦手な女性にも手に取りやすいのではと思いました」(田松さん)
「白麹」を使って試行錯誤を重ねる日々
とはいえ、当初は何から始めて良いのかわからず手探り状態。試験醸造を繰り返すなかで見つけた手がかりは「白麹」でした。
白麹といえば、一般的には焼酎を造る際に使う麹菌です。近年では日本酒でも用いる蔵が増え、クエン酸由来のさわやかな酸味を感じるお酒に仕上がります。
主に冨岡さんがフラスコを使ってサンプルを造り、それを田松さんが分析するという二人三脚での開発を進めます。しかし、白麹での造りは味のバランスを取るのが難しく、なかなかおいしいと思えるものにはならなかったそう。
「ただ甘いだけ、酸っぱいだけになってしまう失敗も多かったですね。デザートワインを目指しながらも日本酒らしさが残っていないと私たちが造る意味はないと試作中も常に意識していました」(冨岡さん)
「このお酒をきっかけに、おいしい日本酒に出会う人が増えたら」。そんなふたりの思いが研究を推し進める原動力だったのかもしれません。冨岡さんが見せてくれたノートには試験醸造ごとの醪の温度経過や分析結果などが細かく記され、試行錯誤の様子が伝わってきます。
できるだけゆっくりと発酵させることで、酸味の中に甘みを引き出していく「デザート純吟」の造りは、通常の日本酒以上に気を遣うため、ベースができあがるまでに1年を要したといいます。
「浩子さんがていねいにノートを付けてくれたおかげで、こうすればこういう味になるという変化がよくわかるので、研究も進めやすかったですね」(田松さん)
「試験醸造したお酒は最初に由奈さんに飲んでもらっていました。的確に味がこうだと言ってくれるので、彼女の感想を頼りに造っていけたのが幸いでしたね。一緒に走ってくれる人がいたのが本当に心強かったです」(冨岡さん)
そういって微笑み合うふたりからは、良いコンビであることが伝わってきます。正解もゴールもわからないまま、がむしゃらに研究に没頭した日々。お互いに信頼しあうふたりの関係があってこそ「高清水 デザート純吟」は誕生しました。
完成したサンプルは社内でも驚きの声が挙がるほどの出来栄えで、その後すぐに商品化が決定。蔵での製造オペレーションを確立するのにさらに1年を経て、2015年にようやくお披露目となりました。
女性限定で行われた試飲会では「日本酒じゃないみたい」「洋食にも合いそう」と大好評。足掛け2年に及ぶ開発プロジェクトを振り返り、ふたりはこう語ります。
「今なら違うアプローチもできたな、とやり残した気持ちもありますが、飲んでくれたお客さんの反応を見て"日本酒の入り口になる"という役目は果たせたのかなと思っています」(冨岡さん)
「女性向けと謳ってはいますが、意外と甘党の男性にも好評なんですよ。まだ私たちも気づいていない可能性がこのお酒にはあるのかもしれません」(田松さん)
遊び心を加えてフレンチと合わせる
新しい日本酒の登場に反応したのは飲み手だけではありません。お酒を提供する飲食店もまた、その味わいに魅了されました。横浜・山手に店を構えるフレンチ懐石「此のみち」のシェフ・梅澤智さんもそのひとりです。
フランス・パリの名門料理学校「ル・コルドンブルー」東京校で学び、東京校とパリ校でそれぞれ講師を務めたのち、各地のレストランで料理長として腕をふるってきた梅澤さん。
「此のみち」ではかつての料亭の雰囲気を活かし、和食器で食べるフレンチをテーマに、ランチ、ディナーともに1日1組限定でお客さんを迎えています。
そんな梅澤さんが「高清水 デザート純吟」に出会ったのは、2017年のこと。知人の紹介で秋田酒類製造の平川社長が店を訪れ、フレンチに合うお酒を提案してくれたなかのひとつに「デザート純吟」がありました。
「口に含んだ時にピンときました。それまではあまり日本酒を飲んだことがなかったのですが、私のイメージしている日本酒とはまったく違う味わいで、おもしろいお酒だなと感じました」
普段から料理とワインとのマリアージュを意識し、コースを仕立てるという梅澤さんは、この時あることをひらめきます。
「コースの最後に出すなら、セオリー通りそのままデザートと合わせるだけではつまらない。世界観を崩さないように、ほんのちょっと遊び心を加えてみよう」
そして、お酒を注いだグラスに軽くつぶしたブラックペッパーを浮かべてみると、甘酸っぱくライトな味わいにほんのりスパイシーな余韻が加わり、大人の雰囲気に早変わり。シェフならではの遊び心が、「デザート純吟」の新しい楽しみ方を見つけた瞬間でした。
また、梅澤さんは今回の取材のために、「デザート純吟」を使った特別なメニューを用意してくれました。
たとえば「干し柿のグラタン デザート吟醸風味」は、クリームチーズを「デザート純吟」で乳化させ、干し柿に詰めて焼き上げた一品です。
「いぶりがっこのチーズ和え デザート純吟の生チョコソース」は、「デザート純吟」で生チョコを作り、チーズの酸味といぶりがっこのスモーキーな香りにお酒の甘さとカカオの苦みを加えるという、意外な組み合わせが光ります。
「梅干しのデザート純吟ゼリー 綿飴掛け」は、「デザート純吟」に漬けた甘漬け梅干しをゼリーで固めたもの。仕上げに「デザート純吟」を煮詰めたアメ細工をまとわせるという華やかさです。
ペアリングのポイントを、「お酒の風味をなるべく落とさず、アルコール感だけを飛ばし、食材として感じていただけるように考えました。香り付けや風味だけではなく、『デザート純吟』が主役のひとつになるように組み立てたレシピです」と梅澤さん。
しっかりした味わいを持ち温度帯を変えても楽しめる「デザート純吟」のポテンシャルが、存分に引き出されたメニューとなっていました。
「『高清水』はバラエティに富んでいて、それぞれに個性がありますね。そこがワイン党も虜にする魅力だと感じます。合う料理の幅の広さをを考えても、ワイン以上の可能性を秘めていると思います。日本酒は今や海外の三ツ星レストランでも取り扱っているほど注目度が高く、今後ますます存在感は強まっていくでしょう」
そんな日本酒の未来を「料理人としてはチャンス」と語る梅澤さん。今後は「『デザート純吟』の提供方法もますますブラッシュアップしていきたい」と笑顔を見せてくれました。
ふたりの女性社員から生まれた「高清水 デザート純吟」は、日本酒の楽しみ方を広げる画期的な商品であると同時に、時代の先を読み、時に大胆なチャレンジを仕掛ける「高清水」の姿勢を、多方面に印象付けることにもなりました。
しかし、「此のみち」の梅澤さんがペアリングメニューで示してくれたように、日本酒の飲用シーンが多様化するなかで、「デザート純吟」の持つ可能性はまだまだ未知数。新たな飲み方やペアリングを提案するのは、次にこのお酒を手にするあなたかもしれません。
◎商品概要
- 商品名:「高清水 デザート純吟」
- アルコール度数:12.5%
- 価格:【500ml】1,080円(税込)/【180ml】410円(税込)
◎取材協力
(取材・文/渡部あきこ)
sponsored by 秋田酒類製造株式会社