埼玉県にある石井酒造。8代目となる石井誠さんは、20代の若さで蔵を継ぎ、常識にとらわれない発想で日本酒業界を盛り上げてきました。企画・製造・デザイン・プロモーションまで”オール20代の日本酒造り”をうたった「二才の醸」は、クラウドファンディングで200万円を超える資金調達に成功。さらに、埼玉県内の2蔵が同じ米・同じ精米歩合で酒を造り、美味しさを競う「埼玉SAKEダービー」も話題となり、2年連続で開催しています。

そんな石井酒造が次に挑んだのは「未知の温度」。大手電機メーカー・シャープをパートナーに、「-2℃で楽しむ日本酒『冬単衣(ふゆひとえ)』」を生み出したのです。今までにない日本酒体験を提供する本プロジェクトの全容と、石井酒造の想いをご紹介します。

シャープの技術で実現させた、氷点下「-2℃」の新しい日本酒体験

-2℃で味わう雪どけ酒「冬単衣」。日本酒業界で類を見ない挑戦を続ける石井酒造と、液晶テレビなどに活用される特殊な蓄熱技術を持つシャープがタッグを組むことで生まれる純米吟醸酒です。クラウドファンディングサービス「Makuake」のプロジェクトとして、資金調達を開始。なんと、公開からわずか3日で500万円を超える支援が集まっています。

本プロジェクトの特徴は、石井酒造の日本酒と、シャープの保冷バッグがセットになっているところ。保冷バッグには、シャープの長年の研究が生かされた蓄冷材料が使われています。この蓄冷材料は、-24℃~+28℃の温度領域の特定の温度(※1)で蓄冷(※2)する優れもの。
※1 開発中の温度帯のものを含みます。
※2 「蓄冷材料」は特定の温度で融け、固体から液体に変化します。この時、周囲の熱を吸収することにより、材料そのものだけでなく、その周囲の空気や触れている対象物を特定の温度で保持する機能を有します。保持できる温度や時間は、材料の使用量や使用条件によって異なります。

この保冷バッグで日本酒を「-2℃」にキープすることで、ただの冷酒でもなく、凍らせるわけでもない、「氷点下の味わい」というまったく新しい体験を生み出したのです。

もちろん日本酒は、石井酒造がプロジェクトのために開発したもの。含んだ瞬間のキリッとした味わい、口の中に広がるフルーツのような甘い香り、飲み込んだ後に感じる米本来の上品な甘み…。体温の変化に合わせて3段階の味わいを楽しめるさまが、まるで雪がとけてゆくような感覚であることから、”雪どけ酒”と銘打ちました。

それにしても、老舗酒蔵と大手メーカーというのはなんとも不思議な組み合わせ。なぜ石井酒造がシャープと共にプロジェクトを立ち上げることになったのでしょうか?

老舗酒蔵と大手電機メーカー、異例のコラボレーション

石井酒造とシャープを結びつけたのは、クラウドファンディングサービス「Makuake」です。シャープが液晶材料の研究で培った技術をベースに開発した、程よい低温をキープできる高度な蓄熱技術を別の分野でも活用できないかと思案していたところに、Makuakeが「日本酒とのコラボレーション」を提案。そこで白羽の矢が立ったのが石井酒造です。埼玉県内の2蔵が同条件のもと酒造りを行い、出来た酒の美味しさを競う「埼玉SAKEダービー」のプロジェクトでMakuakeを利用しており、その発想力と実績が評価されていました。

「シャープさんという大企業と、うちのような小さな酒蔵では釣り合わないのではないかと、最初は少し悩みました。よければ他の蔵を紹介しますよ、と話していたくらいです。ただ、Makuakeさんとシャープさんから『石井酒造とぜひ仕事がしたい』とご要望いただけたのと、大手メーカーと小さな酒蔵なんてこんなにユニークな組み合わせはないな、と思い直して参加を決めました。」

そう語るのは、若くして石井酒造の8代目となった、石井誠さんです。「-2℃で楽しむ日本酒」というプロジェクトのコンセプトは、石井さんが提案したもの。

「日本酒って、どうしても夏は動きが鈍くなってしまうんです。石井酒造に限らず、おそらく日本酒業界全体の課題です。そこで蓄冷技術を使って、暑い日にキンと冷えた日本酒を楽しむ文化が広まれば、新しい市場が拓けるのではと考えました」

ただ、異例のお酒ということは、石井さんにとっても初挑戦ということを意味します。凍らせるわけでも、氷を入れて冷やすわけでもない、-2℃という絶妙な温度。今までに提供したことのない温度を想像して日本酒を造ることになります。3段階の”雪どけ”が本当に感じられるかどうか、実験を繰り返しました。

さらに石井さんが最後までこだわったのがネーミングです。この日本酒のためだけに開発される保冷バッグには、「使い捨てではなく、何度も繰り返し使ってほしい」というシャープの願いがありました。その想いが、保冷バッグを「纏わせる」というイメージにつながり、数え切れないほどの案の中から、石井さんをはじめとするプロジェクトメンバーで「冬単衣(ふゆひとえ)」というネーミングを導き出しました。この名前によって自ずとバッグのデザインも決まったといいます。和服の単衣(ひとえ)のように酒を包み込み、蓄冷材料を纏わせたままサーブできる、使い勝手の良い保冷バッグが誕生したのです。

冬はお燗、夏は"お寒"!日本酒はもっと自由に楽しめる

「冬単衣」の楽しみ方はシンプル。冷凍庫に一晩(約6時間)ほど入れた蓄冷材料を保冷バッグにセットし、そこに冷やした日本酒を入れるだけ。およそ30分ほどで-2℃の雪どけ酒の完成です。食事の準備を始める時や、ホームパーティに出かける時に保冷バッグに入れておけば、ちょうど良いタイミングで味わうことができます。(※周囲の環境により保冷時間は変わります)

「冬単衣」は、一口飲んで三段階の味わいが楽しめます。実は、日本酒の味は冷やすと感じづらくなります。それでも味の変化をしっかり伝えられるよう、辛口、古酒、フルーティーとさまざまなジャンルのお酒を試し、その中で選び抜いたのが、コクがあって芳醇なタイプ。上品ながら、しっかりと香りと甘みを感じられる味わいです。

もうひとつの特長は、夏の新酒であるということ。「冷たさを楽しむなら、飲みやすい新酒がぴったりではないか」という考えから、通常の冬仕込みではなく、異例の夏の新酒造りを決めました。ワインでいうところのボジョレーヌーボーのように、熟成させないフレッシュなお酒です。


50℃が「熱燗」、20〜25℃が「冷や」、5℃が「雪冷え」と、日本酒は飲用温度によって呼び方が変わります。しかし、これらは氷がない時代に生まれた呼び名ですから、氷点下の名称はありません。そこで今回、石井さんは—2℃を「雪どけ」と提案し、これまでの慣習に一石を投じました。

「お酒の楽しみ方に決まりはありません。『冷たくておいしい!』と言ってもらえる日本酒があってもいいと思うんです。冬はお燗、夏は『お寒』にすれば、もっと日本酒のシーンが広がるでしょう」

蓄冷材料を入れて2時間ほどは冷たい状態が続くそうなので、夏のキャンプに冷たい日本酒を持って行くのも良さそうです。蓄冷材料は繰り返し使えますから、他のお酒に入れ替えてもOK。これまでお燗しかしてこなかったお酒を「お寒」してみると、新しい味わいが見つかるかもしれません。

石井酒造の“挑戦する姿勢”が新しい市場を創る

老舗酒蔵と大手電機メーカーという異例の組み合わせは、日本酒業界に新しい歴史をつくることになりそうです。「二才の醸」も「埼玉SAKEダービー」も、業界の常識から考えれば「ありえない」と言われるような取り組みでした。しかし、石井さんはためらいません。

「日本酒はもっと自由でいい。同世代にあたる20〜30代にもっと日本酒を飲んでもらいたい」と語る石井さん。挑戦を恐れず、自由な発想で日本酒と向き合う石井酒造の姿勢が、必ず新しいファン、新しい市場を創っていくことでしょう。

(取材・文/藪内久美子)

sponsored by 石井酒造株式会社

 

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