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コンビニやスーパーに並ぶ黄金色の缶入り日本酒「ふなぐち」でおなじみの菊水酒造。新潟県新発田市にある本社には、ある施設が併設されています。その名は「菊水日本酒文化研究所」。日本酒の奥深さを追求していくため、同社が法人設立50周年(創業125年)を迎えるにあたり、2004年に設立したものです。

当初は研究施設として、社内や一部関係者のみの利用に限定していましたが、2018年10月から一般公開を始めました。菊水日本酒文化研究所は、いったいどのような施設なのでしょうか。2018年12月、一般公開を記念したオープニングイベントにて行われた、研究所ツアーの様子をレポートします。

酒蔵が「文化研究」を行う理由

ツアーへ参加する前に、まずは菊水日本酒文化研究所の成り立ちを紐解いてみましょう。そもそも、酒蔵が「文化」の研究を行うことに、どのような意味があるのでしょうか。

菊水酒造の外観写真

菊水酒造では、2005年より「コトづくり」という考えを大切にしています。「モノづくり」は昔からよく聞く言葉ですが、「コトづくり」は、当時はまだ珍しいフレーズでした。

菊水酒造にとって、かつては「旨い酒」という「モノ」を追求することが酒蔵として最大の使命でした。しかし、技術の進歩によって、どの蔵も安定的に品質の良い酒を造ることができるようになり、「モノづくり」だけで競争に勝てる時代ではなくなってきました。

そこで菊水酒造が目指したのが、「コトづくり」です。日本酒を通じて、暮らしの楽しいこと、おもしろいことを増やそうという"コト"まで伝える必要があると考えるようになりました。その「コトづくり」の一環として誕生したのが、菊水日本酒文化研究所です。日本酒の歴史や文化を追求し、そこから新たな「コト」を生み出す。それが研究所のテーマなのです。

地域との「共生」を目指す

ツアーの時間が近づいてきたので、研究所へ向かいましょう。

木々に囲まれた中に建つ美しい建物は「有機・自然との共存」をテーマに設計されています。環境や健康を害する資材は使っておらず、防腐剤なども不使用。やがて自然に還ることができる構造になっています。また、景観を損ねないための配慮として、1階のみが地上にあり、あとは地下に建てられています。木々の緑に溶け込むようにして建つ研究所は、自然と、ひいてはこの地域と共生していきたいという菊水酒造の想いが表れています。

研究所には、有機空間を持った蔵として日本で最初の認証を受けた「節五郎蔵」という小仕込み蔵と、収蔵品を展示している「酒文化情報資料室」、2つの施設から成ります。見学ツアーでは、この両施設を菊水酒造のスタッフが案内してくれます。

さあ、いよいよ研究所内に入ってみましょう。

3万点を超える収蔵品

研究所最大の見どころは、日本酒にまつわる収蔵品です。全国から集められた酒や食文化に関する書籍・専門書、酒器など3万点にも及ぶ資料が収蔵されており、ここで酒の歴史や文化の研究がすすめられています。

展示エリアは大きく2つのコーナーに分かれていて、酒器コーナーと図書コーナーがあります。3万点のうち、展示されているのはごく一部。時期によって展示物の入れ替えも行うそうなので、何度訪れても新しい発見がありそうです。

日本酒文化研究所 内観

まずは酒器コーナーから見学してみましょう。さまざまな器がところ狭しと並んでいます。昔の人が日本酒を楽しんでいた徳利やお猪口、お花見のときにお弁当を詰めたお重……。用途を聞いていくうちに、昔の人がどのように日本酒を楽しんでいたのか、どんな暮らしをしていたのかが、鮮明に浮かび上がってきます。

展示方法にも工夫がされています。江戸時代に親しまれていた、注ぐと音がなる「うぐいす徳利」の音色を実際に聞くことができたり、浮世絵に描かれている酒器を実物と比較して見ることができたり、体験しながら文化に親しむことができます。

浮世絵に描かれている赤く囲われた酒器。展示物が、江戸時代に実際に使われていた様子を垣間見ることができます。

図書コーナーには、専門書、雑誌、江戸時代から明治・大正時代に作られた「引札」とよばれるチラシまで、幅広い書物が揃っています。実際に手に取り、時間をかけてじっくりと眺めることもできます。

江戸時代の献立表や引札からは、当時の庶民の文化を知ることができます。今も昔も、美味しいものや楽しいことが好きだという人の根本は変わっていないのかもしれません。

引札

許可があれば、酒器や図書に触れることもできます。

「節五郎蔵」で酒造りを学ぶ

研究所の奥には「節五郎蔵」があります。ここは酒造りを追求するために建てられた、小さな酒蔵です。製造量は、菊水酒造全体のわずか1%。実験的な酒造りをする場所です。

この日、節五郎蔵を案内してくれたのは取締役の若月仁さんでした。かつては杜氏で、現在は新潟清酒学校の講師も務めている若月さんの解説は、初心者にもわかりやすいもの。「日本酒の定義とは」「精米歩合とは」「日本酒の保管法とは」など、日本酒のいろはを学ぶことができます。ツアー参加者からは、驚きや感心の声が聞こえました。

菊水酒造株式会社 若月仁 取締役

麹室や仕込みタンク、絞りの様子など、酒造りの工程をガラス越しに見学していきます。タイミングがよければ、実際に蔵人が作業をしている様子を見ることもできますよ。また、蔵を奥まで進むと、幻の熟成酒が眠る部屋も覗くことができます。

数々の熟成酒が地下に眠る

15年熟成酒も!充実の試飲コーナー

最後のお楽しみは、試飲コーナーです。この日はイベントということもあり、いつもよりも広い試飲スペースが用意されていました。

「ふなぐち」は、定番品に加え「新米」「熟成」「薫香」と4種類。ロングセラーの「菊水の辛口」や「無冠帝」ばかりでなく、焼酎や梅酒、リキュールもありました。さらにこの日は、15年以上寝かせたという熟成酒まで試飲することができました。

女性に人気の「十六穀でつくった麹あま酒」、酒粕を乳酸菌により発酵させた"スーパー酒粕"「さかすけ」など、ノンアルコールで楽しめるものも充実しているので、車で来場される方も安心です。試飲できるお酒はその時期によって異なるので、何が飲めるかは訪れてからのお楽しみです。

「北越後の魅力も発信していく」菊水酒造の新たな意思

2004年から続く研究所を、なぜ今、公開に踏み切ったのでしょうか。髙澤大介社長は「菊水酒造という酒蔵が、地域に何をすべきなのかを考えるようになった」と話します。

菊水酒蔵株式会社 髙澤大介 社長

「菊水日本酒文化研究所の設立から十数年が経ちますが、研究所の役割が変化してきました。最初は研究開発の施設でしたが、これからはもっと外へ開き、文化と、この地域に関する発信をしていきたいと思っています。

我々酒蔵は、地域の恵みを醸しています。そして、地域の方々に可愛がっていただいています。それならば、自社の酒だけでなく、この地域の魅力も発信する必要があると思うのです。この研究所を通じて、北越後という地域をもっとアピールしていきたい。その結果として『日本酒って面白い』と感じてほしい」

菊水酒造の菰だる

髙澤社長は「まだ内緒だけれど、面白い企画をたくさん考えているのでお楽しみに」と話していました。日本酒文化だけではなく、地域の文化や魅力を発信する企業へと変革していく菊水酒造。酒蔵見学とは一味違った楽しみ方のできる菊水日本酒文化研究所で、その奥深い魅力をぜひ、体験してください。

(取材・文/藪内久美子)

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菊水日本酒文化研究所

  • 見学料:無料
  • 申し込み:要予約
  • 問い合わせ:菊水酒造株式会社 お客様相談室
  • TEL:0120-23-0101(平日10時〜17時 祝祭日、お盆、年始を除く)
  • FAX:0120-23-5254
  • Mail:お問い合わせ

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