「ボトルのまま飲む」という新しい日本酒のスタイルを提案した、神戸・灘の酒造メーカーである沢の鶴株式会社の「SHUSHU(シュシュ)」が、今秋に「SHUSHU Light(シュシュ ライト)」としてリニューアル新発売されます。

"Light"の名前のとおり、これまでよりもさらに飲みやすくなり、軽やかな口当たりが特徴。パッケージデザインも刷新され、まったく違う印象のお酒として生まれ変わりました。

リニューアル新発売の実施にはどのような背景があり、どのような思いが込められているのでしょうか。「SHUSHU」のマーケティング担当者と、パッケージデザインに携わったデザイナーの2人に話をうかがいました。

「見た目に対して、意外としっかりしたお酒だった」

2017年3月に発売を開始した「SHUSHU」は、180mlの小容量サイズとアルコール度数がワインより低めの10.5度という飲みやすさから、ふだん日本酒を飲まない人たちからの人気を集めた純米酒です。

リニューアルに向けて動き出したのは、発売からおよそ2年半が経った2019年の秋ごろでした。それまで順調に売上を伸ばしていた「SHUSHU」ですが、この頃から伸び悩みをみせていたといいます。

沢の鶴 マーケティング室 主任 青木崇史さん

沢の鶴 マーケティング室 主任 青木崇史さん

社内ヒアリングで明らかになった「SHUSHU」の課題を、沢の鶴マーケティング室の青木崇史さんは、次のように語ります。

「『SHUSHU』は、デザインも含め斬新なコンセプトで、今までにない沢の鶴のイメージを広げられた商品です。一方で、デザインについてはポジティブな言葉をもらうことが多いものの、『中身とデザインのギャップがある』という声が多く上がっていました。

アルコール度数10.5度と一般的な日本酒と比べると低めですが、日本酒らしい味わいを出すために麹を通常の倍以上使っていたので、麹の香りが強く出すぎてしまっていたんです。そのため、飲んだ人に『見た目に対して、意外としっかりしたお酒だ』という印象を与えていました」(青木さん)

より飲みやすいお酒を目指して、すぐに「SHUSHU」のリニューアル検討に着手しました。

まずは酒質の方向性を決めるため、現行品の良いところ・悪いところを社内の営業担当者にヒアリングし、酒質の候補を試作。商品のメインターゲットである20~30代の若年層を中心に、社内外でのテイスティングを繰り返していきました。

テイスティングで多くの評価を得た吟醸系酵母を使用し、味わいはよりフルーティーに。アルコール度数は現行品の10.5%から8.5%と、さらに低く設定しました。こうして決まった新たな酒質について、青木さんは「純米酒という点は変わらず、味わいはまったく違うものになりました」と評します。

「アルコール度数を抑えようとすると、水で薄めたような、味わいが伴わないものになってしまいがちです。麹の香りを抑えつつ、しっかりとした味わいを残し、甘みのある香りをより引き立たせるのに苦労しました。酵母やアルコール度数を変えるだけでなく、仕込みの方法自体に工夫を重ね、研究開発の担当者に何度も試験醸造をしてもらい、新たな酒質にようやく辿り着きました」(青木さん)

日常に彩りを与える"光の三原色"のデザイン

酒質が大きく変わる以上、それに合わせてパッケージデザインも変更する必要があります。

青木さんは、デザインを担当する兵庫県小野市のデザインスタジオ「シーラカンス食堂」代表の小林新也さんと、酒質が最終決定する以前から密に連絡を取り合い、リニューアルに向けて動き出していました。小林さんは「SHUSHU」の現行品パッケージや販促物のデザインも担当しています

シーラカンス食堂代表兼デザイナーの小林新也さん

「シーラカンス食堂」代表兼デザイナーの小林新也さん

新しく生まれ変わった「SHUSHU Light」のキャッチコピーは「暮らしに彩りを。」。コロナ禍という不安定な時代に寄り添うために打ち出した、沢の鶴からのメッセージです。

「今回のデザイン変更にあたっては、やはりコロナ禍の影響が大きかったと思います。外食するのも難しい状況でしたから、日常にあるものを豊かに思えるような心を持たないと過ごしていけない。社会が大きく変化して、人も大きく変化せざるを得ない状況で『SHUSHU Light』の在り方をどのように表現するかは、時間をかけて考えましたね」(小林さん)

沢の鶴「SHUSHU」

リニューアル前の「SHUSHU」

発売当初から好評だった鮮やかな赤・白・黒を基調とした現行品のデザインは、「SHUSHU」のイメージとして充分に定着していたため、「これまでのイメージから大きく変えることに、最初は抵抗がありました」と振り返る小林さん。

ですが、「SHUSHU」から「SHUSHU Light」が新しく生まれると考えたことで、新商品のデザインの方向性が見えてきたといいます。

「暮らしに彩りを。」という「SHUSHU Light」のコンセプトに合わせて、小林さんが考えたのは色の使い方です。これを念頭にデザインの方向性を決めていくなかで、最終的に"光の三原色"を表現したデザインに決まりました。

「光の三原色は、それぞれ重なることでさまざまな色に変化します。『SHUSHU Light』もそれと同じように、人それぞれの香味の感じ方、心境、ライフスタイルに応じて彩りを添えられたらと考えました」(小林さん)

赤・緑・青の3色を使っていますが、いずれも淡い色合いです。それは「ゆっくりとリラックスしながらも、明るい気持ちで家飲みしてほしい」という願いから。テーブルの上にあってもあまり主張しない、空間に溶け込むようなデザインです。

沢の鶴「SHUSHU Light」の飲用シーン

「色を主体にしたデザインというのは結構難しくて、"なんとなくおしゃれならOK"というわけにはいきません。そのなかでも、"光の三原色"というコンセプトをしっかりと立てることができました。淡くやさしい色合いが飲みやすくなった酒質と合っていて、リニューアル前の課題だった"中身とデザインのギャップ"もクリアできました。他にもいくつかのデザイン案がありましたが、自分のなかでは、密かに第一候補として考えていた案です」(小林さん)

ただでさえ印刷で表現するのが難しい、繊細な色合いの三原色。コロナ禍で印刷の現場に立ち会うことができなかったため、印刷工場とオンラインで繋げて微調整を何度も繰り返し、ようやく理想的な色合いを表現できたといいます。

ボトルを傾けると「SHUSHU」の文字が読める横向きの商品ロゴ

ボトルを傾けると「SHUSHU」の文字が読める横向きの商品ロゴ

「SHUSHU」のデザインから大きく変わった点が、商品ロゴの向きです。日本酒のシーンの幅を広げる「ボトルのまま飲む」というスタイルは継続して打ち出していきたいと考えていたため、それを象徴するデザインとして商品ロゴを横向きに変えました。

「現行品のときは、販促物として商品と同じカラーリングのお猪口を作ったりもしましたが、今回はあらためて、『ボトルのまま飲む』というスタイルを提案しています。

家で食事をするときや、大切な人と過ごすとき、家事や仕事から解放されて一人でのんびりと疲れを癒したいとき、そんなさまざまなシーンで『SHUSHU Light』を飲んでもらえたらと思います」(青木さん)

守りに徹さず攻めるのが「SHUSHU」らしさ

発売から4年を経て、確実にファンを増やしていた「SHUSHU」を大きくリニューアルすることに迷いはなかったのでしょうか。

沢の鶴 マーケティング室 副主任 青木崇史さん

「求められるニーズに応えるためには、守りに入ることも必要かもしれません。ですが、『SHUSHU』は新しいニーズを作り出すブランドであり、日本酒の新しいスタイル、新しい価値を切り拓いていく商品だと思います。リニューアルすることを悩んだ部分も正直ありますが、守りに徹するのではなく、攻めるのが"SHUSHUらしさ"と思ったので、ここまで進めることができました」(青木さん)

青木さんをはじめ、沢の鶴の人たちがリニューアルに向けて積極的に動けたのも、「SHUSHU」の斬新なコンセプトとデザインによって、社内の雰囲気を少しずつ変えていけたことがひとつの要因だといいます。

「展示会などで『SHUSHU』を紹介すると、今までにない業種や業態の方から声をかけていただくことが増えました。たとえば、酒販店ではない全国展開している大手雑貨店での取り扱い、クラブイベントなどで提供するドリンクや結婚式での引き出物など、今までこちらが関わりたくてもチャンスがなかった場です。

このような機会が増えることは開発に関わった社員にとっても自信になりますし、まだ見ぬ日本酒の可能性を肌で感じられます。これは『SHUSHU』にしかできなかったことだと思いますし、やはりデザインの持つ力は大きいんだなと実感しています」(青木さん)

「デザインのリニューアルを頼むなら、シーラカンス食堂の小林さん以外ありえませんでした」と、小林さんの仕事ぶりに全幅の信頼を寄せている青木さん。小林さんも「リニューアルに向けた動きを、自分ごとのように考えていた」と語り、両者の深い絆を感じさせます。

沢の鶴の青木さんとシーラカンス食堂の小林さん

「デザインを考えている間も、『なんか違う』『作ってみたけど変えてもいいですか?』と、小林さんが思考の流れをすべて共有してくれたので、いっしょにリニューアルを進めていった感覚があります。言うなれば『SHUSHU Light』は、沢の鶴とシーラカンス食堂の共同作品ですね」(青木さん)

「青木さんとは年齢も近く、話していても言葉の向こうに同じイメージを描いているのが感じられるんです。コミュニケーションが取りやすくて、話が早い。そして、とても前向きな人だと思います」(小林さん)

日々の暮らしの彩りを、より鮮やかに、より豊かに

沢の鶴「SHUSHU Light」の飲用シーン

両者の想いのこもった「SHUSHU Light」が、まもなく発売されます。現在の気持ちをお二人に聞くと、それぞれ期待感に満ちた表情で答えてくれました。

「日本酒をもっとカジュアルに楽しんでもらうために、『SHUSHU Light』を通じて日本酒の新しいシーンや飲み方を提案したいです。

たとえば、休日の昼下がりに『ちょっと一杯』飲みたい時に、軽食やお菓子といっしょに楽しむのもいいと思います。まだ日本酒を飲んだことのない方や日本酒への苦手意識がある方に、『はじめての日本酒』として飲んでいただきたいです。

とはいえ、もっと肩ひじ張らずに、飲む人それぞれのスタイル、それぞれのシチュエーション、それぞれの気持ちで、『SHUSHU Light』を手に取ってもらえたらうれしいですね」(青木さん)

「若い人が日本酒を飲まないと、これから先、日本酒を好きになる人が増えていかないですよね。20歳になって初めて出会うお酒のポジションはとても大事です。そのときに選ばれるお酒が『SHUSHU Light』だったらうれしいし、それがきっかけで10年後には日本酒の大ファンになっているかもしれない。そう考えるとすごくワクワクするなと思います」(小林さん)

日本酒の可能性を広げ、日々の暮らしの彩りをより鮮やかに、より豊かなものするという願いが込められた「SHUSHU Light」は、スーパーマーケットやドラッグストアなどの量販店を中心に今秋発売です。

(取材・文:芳賀直美/編集:SAKETIMES)

◎商品情報

sponsored by 沢の鶴株式会社

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます