兵庫県の酒造メーカー・沢の鶴と、プロダクト共創プラットフォームを運営するTRINUSの共同開発によって誕生した「100人の唎酒師(ききざけし)」。

100人の唎酒師

2020年3月末に実施されたクラウドファンディングでは、150人を超える日本酒ファンからの応援を受け、目標を大幅に超える支援金額を達成しました。大きな期待を寄せられたお酒が、いよいよ9月から全国で一般販売されます。

「100人の唎酒師」というインパクトのある商品名は、唎酒師の資格を持つ従業員が、沢の鶴に100人以上も在籍していることに由来しています。同社の「人」の魅力に注目した商品で、パッケージには実際に100人のイラストが描かれています。

100人の唎酒師

今回はその「100人の唎酒師」の中から、マーケティング、製造、営業に携わる方々に話をうかがいました。それぞれのフィールドで活躍する3人の唎酒師の素顔を覗いてみましょう。

マーケティング担当 青木崇史さん「一番の強みは"人柄"」

1人目は、2011年に入社し、現在は神戸にある沢の鶴本社でマーケティング室の副主任を務めている青木崇史さん。

商品開発が主な業務で、資料作成などの営業支援、イベントの企画運営なども行っています。学生時代に写真研究部に入っていた経験を活かし、広報用に使用する写真撮影なども担当しているのだそう。

マーケティング室 副主任の青木崇史さん

マーケティング室 副主任の青木崇史さん

「『100人の唎酒師』は、ほどよい新しさと日本酒らしさがあるお酒だと思います。生原酒と聞くと、少し重たい飲み口かと思われるかもしれませんが、冷酒で飲むと生酒特有のフレッシュ感があるので、食事にも合わせやすいんです。唎酒師が100人描かれているパッケージもユニークなので、オンライン飲み会などで注目を浴びるきっかけになってほしいですね」

青木さんが唎酒師の資格を取ったのは、入社1年目の営業に配属されていたころ。沢の鶴では従業員へ唎酒師の資格取得を推奨していて、特に営業に関しては取得が義務付けられています。名刺にも唎酒師の肩書きが記載されるため、イベントや商談で名刺交換をする時に会話が弾むといいます。

マーケティング室 副主任の青木崇史さん

子どものころから料理が好きで、一時は料理人を目指していたという青木さん。高校生のときに初めて行ったニュージーランドでの海外研修で世界の広さを知り、「もっと自分の知見を広めたい」と、大学は国際学科に進学しました。

それでも食への高い関心は消えず、食品業界を中心に就職活動をしていました。そんなときに見つけたのが、沢の鶴の採用案内でした。「もともとお酒は好きだったし、日本酒は日本の伝統文化。一度きりの人生だから、日本にしかない伝統産業に携わってみたい」と、沢の鶴への応募を決めたといいます。

東日本支店で4年間、営業職を務めたのち、本社のマーケティング室へ異動。今年で入社9年目を迎えた青木さんは、沢の鶴の魅力を次のように話します。

「入社前も入社後も"人が良い"という印象は変わっていません。採用面接を受けたときも人柄や人間性を重視していると感じて、『温かい会社だな』と思ったのが印象に残っています。

それは今も変わっていなくて、沢の鶴で働く人たちは、優しくて面倒見のいい人が多いですね。年齢や役職に関係なく相談しやすいですし、みんな常に仕事に一生懸命。もちろん300年以上の歴史や米へのこだわりなど、企業としての特徴はたくさんありますが、一番の強みといえばやはり"人柄"だと思っています」

マーケティング室 副主任の青木崇史さん

信頼する仲間たちと協力しながら商品を完成させたときや、イベントなどで消費者からの感想を直接もらえるときに、仕事のやりがいを感じるという青木さん。

一方、新型コロナウイルスの影響でお酒のイベントが相次いで中止となり、直接商品の魅力を伝える機会が減少しました。やりきれない思いを抱えながらも、仕事への意識が改めて高まったと語ります。

「コロナ禍で改めて感じたのが、"ブランド力のある企業は強い"ということ。今回のような想定外の事態に陥ったとき、コアなファンが多ければ多いほど、企業の受けるダメージは抑えられると感じました。

私が沢の鶴に入社したのは、創業300年以上という歴史ある企業に携われることにロマンを感じたからだと思います。ですが、その歴史に甘えていてもいけない。沢の鶴のブランド力を高めながら、その魅力がより伝わる形で今後も発信していきたいと思っています」

製造担当 松下敬一さん「働きやすい環境を整えることが私の仕事」

続いてお話をうかがったのは、製造部製品課主任の松下敬一さん。

沢の鶴 日の出工場で2号機ライン長を務め、お酒の瓶詰めや温度管理などの業務を行っています。神戸生まれ・神戸育ちの32歳、すでに社歴14年のベテラン社員です。

製造部製品課 主任の松下敬一さん

製造部製品課 主任の松下敬一さん

「沢の鶴は社内の意見交換が活発で、働きやすいです。祖父がもともと神戸市内で小さな酒屋を営んでいました。今はもう閉めてしまいましたが、子どものころから店に遊びに行くことが多かったので、なんとなくお酒のことは身近に感じながら育ちましたね。

また、人と接するよりは工場でものづくりをする方が自分の性格に合っていると思っていたので、製造の仕事に就きたいという思いがありました」

沢の鶴に就職したのは、高校生のときに体験した工場見学がきっかけだったという松下さん。そのときに先輩社員が優しく案内してくれたことが印象に残り、青木さんと同様に、仕事の内容よりも人柄に惹かれて、入社を決めたと話します。

その後、高校卒業とともに沢の鶴に入社。20歳になってすぐのタイミングで、松下さんは唎酒師の資格を取得しました。

「私の仕事の内容から見ると、唎酒師の資格はそこまで重要ではありません。ですが、知識があると自分たちの部署だけではなく、製造部全体で話がしやすくなると思ったんです。

他部署から『今からこういうお酒がそちらに行きます』『このお酒はこのタンクに入れてください』といった指示が日常的にある中で、自分が扱っているお酒はどんなお酒なのかがわかっていると、仕事もしやすくなりますね」

日々いろいろなお酒を扱う松下さんに「100人の唎酒師」の印象をうかがいました。

「山田錦100%の純米生原酒で、米にこだわる沢の鶴らしい良いお酒。家族が集まったときに飲むお酒としてもおすすめです」

ちなみに松下さん自身はお酒に強いわけではなく、お猪口一杯でも十分満足できるのだそう。

製造部製品課 主任の松下敬一さん

2年前に主任として多くの後輩を指導する立場になり、仕事への意識も変わってきたと話す松下さん。工場内は固いバルブの操作や熱湯を扱うことも多く、従業員が怪我をすることのないよう、常に注意を払っておくことが大切です。

先輩社員とともに安心安全のための5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)活動を推進し、現場全体を見回しながら、みんなが働きやすい環境を作るためにはどうすればいいか、と考えている時間にやりがいを感じているそう。

穏やかな語り口の松下さんですが、先輩社員に普段の働きぶりをうかがうと、仕事への熱意が高く評価されていることがわかります。

「『現場を良くしよう』という気持ちが人一倍強い。誰よりも消費者目線を持っていて、周りの人間がハッと気づかされるようなアイデアを積極的に出してくれる」

松下さんは少しはにかみながらも、一緒に働いている人とのコミュニケーションを大切にして、ライン長として責任感を持って働いていることを話してくれました。

製造部製品課 主任の松下敬一さん

そんな松下さんにとって仕事のモチベーションとなっているのは『家族』。特に最近は新型コロナウイルスの影響で外出が減ったこともあり、休日には家の隣にある畑を耕して奥様と一緒に野菜づくりをするなど、ご家族との時間を楽しんでいるといいます。

仕事では現場を指揮するライン長、プライベートは家庭を大事にする一家の主。メリハリを持って働く松下さんもまた、沢の鶴の「100人の唎酒師」の一人です。

営業担当 柏木美紗さん「家族や友人と一緒に飲みたい」

「フルーティーさもありつつ料理に合わせやすい味わいで、名前の通り、沢の鶴で働く人たちみんなの思いが詰まった集大成のような商品。自信を持って『おいしいお酒です』とおすすめできます」

そう話すのは、東日本支店販売課の柏木美紗さん。首都圏のスーパー、コンビニ、百貨店を中心に、商品の提案や売場の陳列改装などの営業業務を担当しています。

東日本支店 販売課の柏木美紗さん

東日本支店 販売課の柏木美紗さん

「唎酒師の講習会に参加してテキストをきちんと復習していれば、知識として理解することは決して難しくはなかったですが、最初はテイスティングに苦戦しました。日本酒はもともと好きでしたが、香りを嗅いで『果物の香り』『穀物の香り』と言われても、初めはうまく理解できなかったですね。

講習会の会場でテイスティングの授業を受けたり、すでに資格を持っている社内の先輩に教えてもらったりして、何回か繰り返しながら体に覚え込ませました。

唎酒師の資格を取ってからは、営業先で料理とのペアリングを提案する機会が増えましたし、プライベートでは『日本酒の選び方がわからない』という友人におすすめを教えられるようになったので、資格を取ってよかったなと感じています」

「自分の提案が営業先で受け入れられて、店頭での売り上げに反映されることにやりがいを感じる」と話す柏木さん。柏木さんの熱意に押されて、お店全体で「沢の鶴を盛り上げよう」と意欲的に取り組んでくれた時は非常にうれしかったといいます。

東日本支店 販売課の柏木美紗さん

一方で、今のやり方では商品の魅力を伝えきれていないのではないかと常に自問自答し、ブラッシュアップを重ねているそうです。

「やはり『日本酒=地酒がおいしい』というイメージを持っている方が多いと感じるので、『灘の酒蔵もこんなにおいしいお酒を造っているんだぞ!』ときちんと伝えていきたいです。

もっと良いやり方はないかといつも模索していて、ほかの営業担当者とは常に意見交換が絶えません。自分も入社6年目になり、若手社員のほうが消費者のみなさんに近い目線を持っています。後輩たちの意見を吸い上げて、自分も意見を出しながら上司へ報告や相談するのが自分の今の役割だと感じています」

沢の鶴の職場環境は、「上下関係がフラットで相談や意見交換がしやすい」のが社内の共通認識のよう。柏木さんも、やはり社員の人柄の良さに魅力を感じているといいます。

「自分の意見を汲み取ってもらえるし、一人で困っていると、誰かが『一緒にやろうか?』『こうすればいいよ』と手を差し伸べてもらえる。協力して一緒に解決しようとしてくれる人が多いです」

東日本支店 販売課の柏木美紗さん

そんな沢の鶴で働く人々の思いがこもった「100人の唎酒師」は、大切な人と一緒に飲んでほしいと語る柏木さん。柏木さん自身も関西に住む家族や友人と一緒に飲みたいと考えていましたが、今年は新型コロナウイルスの影響で、ゴールデンウィークもお盆も帰省を控えたそうです。

「大阪に住む両親とはしばらく会えていませんが、『沢の鶴のお酒が売ってたから買ったよ』と報告してくれます。その気持ちがありがたいですね。

この商品は沢の鶴が「おいしい日本酒を届けたい」という思いを込めて造ったお酒ですし、私も"100人の唎酒師"のうちの一人なので、私からのプレゼントのような気持ちも抱いています。やっぱり、両親や祖父母にも飲んでほしい。状況が落ち着いたら、まずは家族や友達に会いに行って、一緒にお酒を飲みたいです」

お話をうかがった3人のインタビューからは、誇りを持って仕事に取り組む姿勢、家族や友人を大切にする温かさ、一緒に働く人たちを信頼、尊重する気持ちがひしひしと伝わってきました。

常温流通でもフレッシュな味わいを実現

「100人の唎酒師」は「限外濾過」という高度な濾過技術を用い、酒に含まれる酵素のほとんどを除去。酒質の変化を抑えて豊かな風味をキープし、常温流通でもしぼりたての生酒本来のフレッシュなおいしさと香りを実現しています。

また、唎酒師が100人描かれたユニークなパッケージは、一人一人の表情の違いを楽しめて、会話が弾むきっかけにもなりそうです。

100人の唎酒師

沢の鶴の唎酒師たちが自信を持って送り出す「100人の唎酒師」。9月中旬から全国の酒類取扱店で店頭販売がスタートします。大切な人と過ごすひとときに、思いのこもった日本酒を楽しんでみてはいかがでしょうか。

◎商品概要

  • 商品名:100人の唎酒師
  • 精米歩合:70%
  • アルコール分:18.5%
  • 日本酒度:+2.5
  • 価格:720ml/1,250円(税別)

(取材・文/芳賀直美)

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