日本酒造りに欠かせない「酒米」を開発するプロジェクトを進めている、日本酒メーカー・沢の鶴株式会社と機械メーカー・ヤンマー株式会社。SAKETIMESでは、第一線で活躍する開発者の方々からプロジェクト発足の経緯や取り組みを、両社の経営層からプロジェクトの意義や展望を伺ってきました。

同プロジェクトの第1弾商品「沢の鶴X01(エックスゼロワン)」は4000本の数量限定で販売を開始し、早々に完売。日本酒ファンを中心に大きな反響を呼んでいます。

今回は「X01」の印象的なデザインが誕生するまでの裏側と、腕利きの寿司職人が提案する楽しみ方を紹介します。

黒を基調にした、印象的なデザイン

「X01」の特徴のひとつは、日本酒の固定観念を覆すような、洗練されたパッケージデザインです。漆黒のボトルにキラリと光るシルバーのチャーム。上質な革を思わせるラベルに浮かび上がる、沢の鶴の「※」のロゴマーク。革新的なプロジェクトをそのまま表現したようなデザインで、強烈なインパクトがあります。

沢の鶴とヤンマーによる酒米プロジェクトの第1弾商品「X01」

デザインを手がけたのは、ヤンマーのデザイン戦略室。室長の土屋さんとメインデザイナーを務めた海道さんに、デザイン誕生までの経緯を聞きました。

デザイン戦略室・室長の土屋陽太郎さん(写真右)とデザイナーの海道未奈さん(写真左)

ヤンマーのデザイン戦略室は、発足からまだ3年。デザイン性を求められることが少ない工業製品に、あえてデザインの考え方を投入することで、日本の製造業とヤンマーを活性化させたいという思いから立ち上げられました。10人に満たない少数精鋭のメンバーが、農機具・建設機械・オフィス・関連施設など、ヤンマーのあらゆるデザインを担っています。

ふたりは、これまでさまざまなプロダクトデザインを手掛けてきましたが、日本酒のパッケージをデザインしたのは「X01」が初めてでした。

「酒米プロジェクトの計画を聞いたとき、商品化の話は一切出ていませんでした。しかし、もし商品になるなら、私たちがパッケージをデザインしたいと話していたんです。まさか、こんなにも早く実現するとは思っていませんでした」(海道さん)

デザイン戦略室が初めてプロジェクトに関わったのは、2017年4月に行われた試飲会。試験的に造られた酒を飲み比べるという社内向けの試飲会でしたが、"酒米のストーリーや背景をわかってほしい"という思いから、試飲用のボトルを自作したのだとか。

ステンレスのボトルに、沢の鶴とヤンマーそれぞれのロゴをあしらった試飲用のボトル。「X01」デザインの原型になった。

「試飲会の数ヶ月後に完成した大吟醸酒が、とても美味しかったんです。これなら商品化できそうだという話になり、私たちも本格的なパッケージデザインに取り組むことになりました」(土屋さん)

デザインに宿る"男心"へのこだわり

こうして始まった「X01」のパッケージデザイン。最初に決まったのは、"日本酒業界の起爆剤"というコンセプトでした。

「私は日本酒のパッケージをデザインしたこともなければ、すごく詳しいわけでもありません。だからこそ、日本酒業界に新しい風を吹き込むものにしたいと考えました。特に、黒という色にこだわっています。一般的な瓶では、黒が緑っぽく見えてしまうので、真っ黒にしたいと瓶のメーカーさんにお願いしました。また、店頭で目立ちにくいので、黒地に黒い文字を使うことはほとんどないのですが、ブランドネームはどうしても黒で入れたかったんです」(海道さん)

ヤンマーのデザイン戦略室、海道さん

デザインに込められた、"黒"への強いこだわり。その熱意は、プロジェクトのパートナーが、銘醸地・灘にある沢の鶴だったからなのだとか。

「灘の酒は"男酒"と呼ばれているため、男らしいディティールを随所に入れたかったんです。だからこそ、瓶を黒くするのは譲れません。また、ラベルや化粧箱に本物のレザーのような風合いを持つ紙を使用することで、高級感を表現しました」(海道さん)

「この黒、我々の間では『男酒Black』と呼んでいます。今回のプロジェクトは、ヤンマーのプロジェクトリーダーである山岡や沢の鶴の西村社長をはじめ、男たちが抱いている思いが熱くて勢いがあるんです。私たちもその一員になれた気がして、楽しかったですね。プロジェクトの意義や完成した酒に共感し惚れ抜いて、その思いをパッケージで表現しました」(土屋さん)

黒の中にちらりと見える、ヤンマーのコーポレートカラーである赤。その効果で、黒がより映えて見えるだけでなく、ヤンマーの存在をさりげなくアピールしているのだとか。

「こだわったのは、このチャームです」と、少年のように目を輝かせる土屋さん。ヤンマー製の機械すべてについている、個体識別用の「製造名板」がモチーフで、ひとつひとつにシリアルナンバーが刻まれています。

「X01」に付属するチャーム(左)と、ヤンマー製の機械についている個体識別用の製造名板(右)

「チャームは男のロマンなんですよ。『飲みに行った店でボトルキープをして、自分の名前が入ったチャームをかけるのが男の夢なんだ』って、沢の鶴さんの前でもつい熱弁してしまって......自分が想像していた以上に立派なものができたと思っています」(土屋さん)

「男性って、いつまでも少年のような心をもっているじゃないですか。そんな男心をくすぐるようなデザインになっています。ただ、男性だけに向けたわけではありません。クールでスタイリッシュなものを求める女性にも注目してもらえたらうれしいですね」(海道さん)

沢の鶴は創業300年の老舗でありながら、ヤンマーという異なる業界から吹く新しい風に乗ってプロジェクトを推進し、新しい酒を誕生させました。そのデザインには、クールな大人の渋さと、少年時代に戻ったようなワクワク感が詰まっているのです。

寿司職人が語る「X01」の魅力

「X01」のデザインが誕生した経緯を伺ってきましたが、気になるのは実際の味わい。どんな飲み方が適しているのか、どんな料理が合うのか、プロからの意見を聞きましょう。

訪れたのは、大阪の梅田駅からほど近い場所に店を構える寿司店「Premium marché with 鮨なか川」。北新地にある人気の寿司店「鮨なか川」の2号店にあたり、ヤンマーが手掛ける「プレミアムマルシェ」とコラボレーションして、2017年7月にオープンしました。

ヤンマーが手掛ける飲食業態「プレミアムマルシェ」とコラボレーションした「鮨なか川」

その日の朝に仕入れた新鮮な食材を使い、寿司を中心にさまざまな海鮮料理を味わうことができます。

話を伺うのは、店主の白須賀芳孝(しらすか よしたか)さん。15歳のときから、寿司をメインに和食ひとすじで料理の腕を磨いてきました。また、きき酒師の資格を持ち、日本酒と和食のペアリング提案が高く評価されています。

鮨なか川店主の白須賀芳孝(しらすか・よしたか)さん

「X01」の味わいについて、初めて口にしたときの印象はどうだったのでしょうか。

「最初は、冷やした状態でいただきました。純米大吟醸なので強めの香りを想像していたのですが、開けた瞬間の香りは思ったよりも穏やか。冷やしても美味しいですが、冷酒よりも少し高い温度で飲むと、香りも旨味もよりいっそう豊かに感じられます。よくできた酒だなと思いました」

白須賀さんによると、香りが華やかな大吟醸酒は、一般的に柑橘系や白身の魚など、さっぱりとした料理との相性が良いのだそう。しかし、「『X01』に合わせるなら、タレの効いた照り焼きや焼き鳥がおすすめです」とのこと。芳醇な香りとともに米本来の旨味がしっかりと感じられる「X01」は、甘辛な味付けの料理と相性が良いようです。

「店で提供するときは、最初は冷やして提供します。そこから、提供する食事に合わせて温度を変えていく。どのタイミングで飲んでも美味しい酒だと思うので、味の変化を楽しみながら飲み比べてほしいですね」

白須賀さんが提案してくれたペアリングは「マグロのすき焼き風」。マグロの頭すべてを使用し、玉ねぎやゴボウといっしょに、醤油・砂糖・みりんなどで炊き上げた一品です。

マグロのすき焼き風。グツグツと煮え立ち、食欲をそそられる

「数量限定の商品なので、ここでしか食べられないプレミアム感のあるものと一緒に提供したいと思いました。マグロは身近な食材ですが、頭部を食べる機会はあまりないはず。その違いを感じてもらえればと思います」

すき焼き風ということで、溶いた卵をたっぷりつけていただきます。脂が乗ったマグロの頭は、身がしっとりとしていて甘辛の味付けにぴったり。やわらかい頬や、ぷるぷるとした目のまわりのコラーゲン部分、甘味がある目の奥の赤身部分など、食べるごとにさまざまな食感を楽しむことができます。

希少なマグロ料理に舌鼓を打ちながら、「X01」をひと口。常温に近い温度でいただくと、たしかに豊かな香りとふくらみのある味わいがさらに増幅したように感じられます。マグロの脂と舌の上で絶妙に混ざり合い、贅沢な旨味が口の中に広がっていきました。

洗練された確かな腕前で、料理と「X01」とのペアリングを見事に表現した白須賀さん。長年飲食業に携わってきた身として、また日本酒を愛するひとりとして、今回の酒米プロジェクトへ寄せる期待も大きいのだそう。

「最近は日本酒ブームといわれていますが、ブームだけで終わってしまうと、それまで酒米を作ってきた農家さんへの影響はとても大きくなります。酒米プロジェクトでできた新しい米を使って、沢の鶴さんのような大手メーカーが日本酒を消費者に提供し続ければ、一時的ではなく継続した人気に繋がっていくはず。飲食の業界にも良い影響が出てくると思います。日本酒の新しい歴史を刻んでいってほしいですね」

"造り手"の思いが"飲み手"に届いた「X01」

開発者インタビューで語られた「既成概念にとらわれず、新しい可能性を追求する」という冒険心は、これまでの日本酒のイメージをがらりと変えるようなパッケージに、きちんと表現されていました。

そして、プロジェクトのトップ対談で熱弁された「メーカー、農家、消費者の『三方よし』」というビジョンは、消費者に近い飲食業の視点からも賛同の声が上がっています。今回の取材で、それぞれの造り手たちが「X01」に込めた思いが、飲み手のもとへ着実に届いていることを実感できました。

メーカー出荷として限定販売の4000本がすでに完売しているため、現在「X01」が楽しめるのは「Premium marché with 鮨なか川」と、隣接するグリル料理レストラン「RISTORANTE con fuoco(リストランテ コン・フォーコ)」のみ。また、4月下旬から購入できるお店として、取り扱い店舗は限られますが「ロフト」があります。5月3日(木)、4日(金)には「銀座ロフト」にて有料試飲即売会が開催されます。スタイリッシュなパッケージデザインと、プレミアムな味わいを体感しに、ぜひ足を運んでみてください。

(取材・文/芳賀直美)

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