兵庫県・灘の酒造メーカー「沢の鶴」。純米酒の売上No.1(※)を誇る沢の鶴は、「米だけの酒」や若い世代が手に取りやすい純米酒「SHUSHU」、機械メーカー・ヤンマーと協同で進めている「酒米プロジェクト」など、業界をリードする動きが注目されています。

そんな沢の鶴が創業300周年を迎えた2017年、実に33年ぶりとなる社長交代が行われました。今回は、15代目の代表取締役社長に就任した西村隆さんにインタビューを敢行。現在の日本酒業界が抱えている課題や、それに対する沢の鶴の取り組み、そして次世代のリーダーとしての意気込みや今後の展望について、たっぷりと話を伺いました。

(※)純米酒の売上No.1:インテージSRI調べ純米酒(特別純米酒含む)2017年4月~2018年3月累計販売金額(全国スーパーマーケット/CVS/酒DS計)

いま必要なのは、"正しい情報を伝える"こと

若年層への広がりや地酒に対する注目度の高まりなど、にわかに騒がれるようになった"日本酒ブーム"。この盛り上がりについて、老舗酒蔵の代表として、西村社長はどのように考えているのでしょうか。

「ワイン・焼酎・ハイボールなど、アルコール飲料はブームを繰り返しながら発展してきました。日本酒ブームについては、メディアに取り上げられたり、注目されたりする機会が増えているのはうれしいことだと、ポジティブに捉えています」

創業300年を迎えた2017年に社長に就任した、沢の鶴15代目代表取締役社長、西村隆さん

ブームを定着させるために「日本酒に関する正しい情報を、タイムリーに、わかりやすく伝えることが必要」だと語る西村社長。これまで、日本酒への評価に悪い影響を与えてしまうような情報が氾濫していたことに、悩まされてきたようです。

「『日本酒』をネットで検索すると、実にさまざまな情報があふれていますよね。お酒は嗜好品なので、"好き・嫌い"の基準で語られることが多いですが、それが、"良い・悪い"と混同されてしまうのはよくありません。酒蔵が技術を注ぎ込んで造ったお酒は、"好き・嫌い"とは違う軸で、正しく評価されるべきだと考えています」

消費者とのコミュニケーションの新しい形

正しい情報を伝えるために、沢の鶴はイベントなどを通して、消費者と接する機会を増やしてきました。特に、消費者と双方向のコミュニケーションができるFacebookやInstagramなどのSNSに力を入れています。「時代に合わせて、アプローチの方法は変えていかなければいけません」と、高い意欲を示しています。

一方で、消費者とのコミュニケーションにおける、もっとも重要なツールは"商品"です。沢の鶴は、日本酒の魅力を若い世代に発信する取り組みとして、新商品「SHUSHU」を2017年に発売しました。

「若い世代が気軽に飲めるように『小容量(180ml)』『低アルコール(10.5度)』『カジュアルで手に取りやすいデザイン』の商品にしました。"米にこだわった純米酒"という沢の鶴らしさを守りつつ、これからの飲み手となる若いお客様が日本酒を飲むときの心理的なハードルを下げるための商品です」

「沢の鶴だからこそできることを」

「SHUSHU」のようにキャッチーな商品を手掛ける一方で、「米だけの酒」をはじめとするレギュラー商品についても、安定した生産を続けている沢の鶴。西村社長は、今後どのような商品展開を考えているのでしょうか。

「大事なのは、お客様のニーズを考えること。『米だけの酒』は『日常的なパック酒でも、ちょっと良いお酒を飲みたい』という声を受けて、ワンランク上の純米酒を飲んでいただきたいというコンセプトで創った商品です。純米酒を得意とし、幅広いラインアップをそろえている沢の鶴だからこそ、商品に付加価値をつけて、さまざまなユーザーにお応えしていきたいと考えています」

創業300年を迎えた2017年に社長に就任した、沢の鶴15代目代表取締役社長、西村隆さん。時折笑顔を見せながら、お客様への熱い思いを語ってくれた。

「沢の鶴だからこそできることを」という思いは、順調に輸出量を伸ばしている海外への展開にも通じています。日本食の人気が高まっていることもあって、沢の鶴のお酒はアメリカやヨーロッパ、アジア諸国などに拡大中。今後は、国ごとのニーズに合わせた商品の提案を考えているのだとか。

「たとえば、アメリカにはアメリカの文化・嗜好がありますよね。商品のラベルだけをみても、アメリカと中国では、ウケの良いものが異なるので、それぞれに合わせた提案が必要だと思っています。そのなかで、"Made in Japan"である意味や、アイデンティティを大事にしていきたい。米屋から始まって、米にこだわった酒造りをしているという沢の鶴のストーリーを、いっしょに輸出したいですね」

次の100年に、バトンを受け継いでいく

2017年、33年ぶりの社長交代が行われた沢の鶴。奇しくも同年、灘の老舗酒蔵のいくつかでも社長が代替わりし、企業としての若返りが進みました。「タイミングが重なったのは偶然でもあり、必然なのかもしれない。いま、日本酒の過渡期だからこそ、変わらなければいけないという思いがどの蔵にもあるのでしょう」と、西村社長は分析します。もうすぐ41歳を迎える若きリーダーは、創業300年を超える酒蔵をどのように背負っていくのでしょうか。

「米にこだわるという沢の鶴の方針はこれからも変わらないし、さらに追求していきたいと思っています。同時に、変化する時代に対して、アプローチの方法を変えていかなければいけませんね。SNSを活用するなど、商品の提案・発信のやり方を積極的に変えていこうと思っています」

"米を生かし、米を吟味し、米にこだわる。"を理念とし、「※」のマークを掲げる沢の鶴

歴史を踏襲しながらも時代の変化に順応し、新しい価値観を重要視する西村社長の柔軟さこそ、これからの日本酒業界に必要なのかもしれません。

「異業種とお付き合いすることも大事ですね。ヤンマーさんとの『酒米プロジェクト』を進めるなかで、日本酒業界の優れているところや、逆に遅れているところを如実に実感しています。社員にとっても、良い刺激になっているのではないでしょうか。業界に関係なく、さまざまな人とコミュニケーションをとることで、アドバイスをいただいたり、ヒントが浮かんだり......意見を交換し合うのは、とても楽しいですね」

さまざまな業界で生きる人たちとの切磋琢磨を繰り返して培われてきた、広い視野。西村社長はそのまなざしで、次の100年を見据えています。

ヤンマーと共同開発している「酒米プロジェクト」の第一弾商品「X01」の記者発表会でプレエゼンテーションを行う沢の鶴の西村隆社長

ヤンマーと共同開発した「酒米プロジェクト」の第1弾商品「X01」の記者発表会でプレゼンテーションを行う沢の鶴の西村隆社長

「沢の鶴は歴史が長いぶん、良くも悪くも安定的になりがちなので、次の100年に向けて新しいチャレンジを続けていく土壌をさらに醸成していきたい。失敗することもあると思いますが、挑戦しなければ進歩はありません。大事なのは、失敗したときに何を学ぶか。その積み重ねで、300年間、酒造りをしてきました。

社員はきっと、みんなそれぞれの夢をもって、沢の鶴で働いているはずです。その夢を叶えるために『沢の鶴だから挑戦できた』と思ってもらえる存在でいたいですね。それが、バトンを受け継いだ私の使命です。100年後に芽が出て花が咲くように、いまからたくさんの種を蒔いておきたいと思います」

創業300年を迎えた2017年に社長に就任した、沢の鶴15代目代表取締役社長、西村隆さん

300年の歴史をもつ沢の鶴の新たなリーダーが語ったのは、近い将来ではなく、100年後の未来。そのスケールの大きさに、壮大な伝統を感じつつ、新しい風を吹き込む西村社長の頼もしい姿に心打たれるインタビューでした。

西村社長は、ブームに惑わされることなく、文化としての日本酒を広めるために、沢の鶴、そして日本酒業界を未来的な視点で見つめています。次の100年に向けて挑戦を続ける沢の鶴の今後に、これからも注目していきましょう。

(取材・文/芳賀直美)

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