毎週日曜日に配信されているラジオ番組「J-WAVE SELECTION」。5月26日の回で取り上げられたのは、日本酒の魅力を通じて地域の魅力を伝える「TSUMUGU SAKE PROJECT」です。地域の文化や風土と密接につながる酒蔵を通じて地域の魅力に触れることで、地酒および地域のファンを増やしていくプロジェクトです。

本特集は「酒蔵を訪ねて、日本酒の魅力をラジオで伝えよう」というアイディアから実現しました。番組内で語られたのは、福島県白河市・大谷忠吉本店の魅力。モデル・女優として活躍する浦浜アリサさんが実際に蔵を訪問し、『今日もひとり酒場』を出版するほどのお酒好きとして知られるミュージシャン・小宮山雄飛さんに向けてレポートする形で番組は進みました。

今回は番組内で語られた大谷忠吉本店の魅力についてお伝えします。

大谷忠吉本店と地元・白河市のつながり

東京から新幹線で1時間ほどの距離にある福島県白河市。浦浜さんは地域における蔵のルーツをたどるため、地元で創業105年を誇る酒販店・いせや君島商店を訪れ、50年以上の付き合いになるという大谷忠吉本店の日本酒について、3代目当主・君島正信さんにお聞きしました。

浦浜さんといせや君島商店の3代目当主・君島正信さん

「大谷忠吉本店で製造しているのは『白陽(はくよう)』と『登龍(とりゅう)』の2銘柄。『白陽』は、昭和時代から町のシンボル的なお酒で、『登龍』は店に並んでいる日本酒のなかでも特に味のボリュームが強いお酒ですね」

大谷忠吉本店で製造している『白陽(はくよう)』と『登龍(とりゅう)』

『白陽(はくよう)』と『登龍(とりゅう)』

店内には、君島さんがひとつひとつ手書きしたポップがびっしりと。日本酒に対する深い愛が感じられ、そんな君島さんに選ばれる大谷忠吉本店の日本酒が、地元を代表する日本酒であることがうかがえました。

続いて訪れたのは、大谷忠吉本店から100メートルほどの距離にあるコミュニティ・カフェ「EMANON」です。店主を務める青砥和希さんに大谷忠吉本店についてうかがいました。

浦浜さんと「EMANON」の外観

浦浜さんは店内に入ると「古民家のようなあたたかい雰囲気で、初めて来たとは思えない懐かしい感じがした」のだそう。地元の白河高校を卒業後、東京に就職した青砥さんは「地元へ戻ってくるたびに帰りたいと思える場所、高校生のような若い人が集まれる場所が少ない」と感じていたことから、地元にUターンして「EMANON」を開いたそうです。

しかし、実家は白河市から1時間くらい離れた場所にあった青砥さん。白河市でカフェを開くと決めた時、商店街に誰も知り合いがいなかったようですが、真っ先に声をかけてくれたのが大谷忠吉本店の蔵元・大谷たかおさんだったそうです。

「大谷さんとは出身高校がいっしょでした。かつて男子校だった白河高校では、生徒を『登龍健児』と呼んでいたんです。そこから名前を取った銘柄『登龍』を手土産として持っていくと、僕のプロフィール代わりになるので、初対面の方とも話が弾むんですよ」

「白陽」「登龍」のこだわりに迫る

いよいよ、大谷忠吉本店を訪問します。

浦浜さんを出迎えてくれたのは、まだ40代前半の若手杜氏である兄・大木英伸さんと弟・大木裕史さん兄弟。20代半ばでアルバイトとして採用された2人は、正社員になってから福島県清酒アカデミーで酒造りを学び、杜氏を任されるまでになりました。

浦浜さんと大木英伸さんと大木裕史さん兄弟

弟・大木裕史さん(左)と兄・大木英伸さん(中央)

蔵元・大谷さんの印象をうかがうと、英伸さんは「社長は私たちのやりたいようにやらせてくれる。懐が深くて、見守ってくれています」と話し、裕史さんは「厳しいといった印象はあまりないですね。しかし自由にやらせてくれる反面、完成した酒は私たちの責任になるので、同時にプレッシャーも感じます」と語りました。

もともと、「登龍」は2人がプライベートブランドとして15年ほど前に造り始めた日本酒でした。中身はもちろん、ラベルデザインも手がけた「登龍」の味わいは、万人に愛される酒を目指す「白陽」と比べると、個性的な酒質とのこと。

裕史さんによれば、「戻りカツオが好きなので、それに合わせる美味しい酒を造りたかったんです。淡麗辛口では脂がのっているカツオに負けてしまうので、味のしっかりした酒になっている」のだとか。

「やっぱり、飲む人が一番ですよ」

蔵を継いで23年目になる大谷さん。大学進学を機に地元を離れましたが、東京の問屋で修行をしていた時に先代が急逝し、地元に戻ることを決めました。先代の造りを小さい頃から目にしてきたものの、経営についてはほとんどわからなかったため、いちから取り組むことになりました。

そんななか、蔵を継いだ時から守っているのが、先代から伝えられた言葉です。

浦浜さんと大谷忠吉本店の蔵元・大谷さん

「親父からは『むやみに蔵を大きくするもんじゃない。蔵は町とつながっているからこそ商売ができる』とずっと言われてきました。実際に戻ってきて、親父が言っていることは正しかったんだと強く感じましたね。酒蔵の経営はひとりよがりでできることではない」

「蔵を継いだばかりの自分を、地元の人たちが助けてくれた」と語る大谷さんは、恩返しをしたいと強く胸に刻み、経営に取り組んできたのです。

これからどんな日本酒を造っていくのかうかがうと、「特別に何かを変えるのではなく、周りのお客さんの反応に常にアンテナを張って、それに応じて変えていきたい。やっぱり、飲む人が一番ですよ」と語りました。

浦浜さんと大谷忠吉本店の外観

浦浜さんは「実際に訪問したことで、大谷忠吉本店の日本酒を飲むと蔵の情景が思い浮かぶようになりました。リスナーの方も想像を膨らませながら楽しんでほしいですね」と呼びかけました。

地元の日本酒には、地元の料理を

ラジオの収録後、小宮山さんと浦浜さんに話をうかがいました。

─ 現地に足を運んだことで、浦浜さんの日本酒に対するイメージは変わりましたか。

浦浜:日本酒がもっている、歴史や土地などの背景がより濃く感じられるようになりました。また、東京オリンピックの開催にあわせて海外からの観光客が増えると思うので、あえて足を伸ばして地方で楽しめる地酒の良さを海外に発信できたら素敵だと思いました。

─ 都会にはない地方の魅力はどんなところだと感じますか。

小宮山:地方では気候や空気もその土地のものだから、そこで味わう地元の日本酒と料理は、東京で味わうよりも美味しく感じられると思います。以前訪問した酒蔵では「同じ気候で同じ状況で育っているから、地元の料理が合う」と教えていただきました。これは地方ならではの魅力ですよね。

浦浜:日本酒と料理のペアリングもその土地に行ってこそ。その土地に根付いたものを楽しんでいきたいですね。

小宮山さんと浦浜さん

終始笑顔で収録を行った2人。その様子は同ラジオ番組「radiko」にて6月2日まで配信予定です。

また、6月13日には都内で大谷忠吉本店の蔵元・大谷さんを囲むイベントが開催されます。ラジオを聴いて興味をもった方や、実際に大谷忠吉本店の日本酒を飲んでみたい方は、ぜひ足を運んでみてください。

(文/乃木 章)

◎イベント概要

  • イベント名:東北の地酒と料理が楽しめる!〜大谷忠吉本店 蔵元さんを囲む会〜
  • 日時:6月13日(木) 19:30〜22:00
  • 場所:東北酒場 トレジオンポート(東京都港区赤坂3-12-18 第8荒井ビル2F)
  • 参加費:5,000円
  • 申し込み方法:下記3点を記載のうえ、下記連絡先までご連絡ください
    ・代表者氏名
    ・参加人数
    ・当日連絡の取れる電話番号
  • 連絡先:hi@naorai.co (担当:山花)

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