岐阜県の中央・東濃地方。NHK連続テレビ小説『半分、青い。』の舞台としても人気が集まる恵那市岩村町には、岩村城という城があります。このお膝元で1787年に創業し200年以上続く老舗酒蔵が、岩村醸造です。

今回は「大ナゴヤツアーズ」とのコラボで企画された酒蔵ツアーに参加してきました。「大ナゴヤツアーズ」は、東海エリアの良いヒト・モノ・コトを集めた、「好き」「美味しい」「おもしろい」などの驚きや発見、感動を体験できるプログラム。地元をよく知るエキスパートたちによる案内が魅力です。

岩村醸造の社長・渡會充晃さん

今回のツアーでは、岩村醸造の社長・渡會充晃さんがガイド役となって、酒蔵はもちろんのこと、生まれ育った岩村町を案内してくれました。

岩村町ってどんなところ?

恵那市岩村町は、名古屋から電車でおよそ90分。恵那山を始めとした自然が美しい長閑な土地で、約800年前から続く岩村城の城下町です。

岩村城は織田信長の叔母である"おつやの方"が女城主として治めていた城で、日本100名城のひとつにも選ばれています。現在残っているのは城跡のみですが、城下町そのものが重要伝統的建造物群保存地区になっているのです。

明和鉄道を走る「半分、青い。」のラッピング電車

最近は、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』の舞台としても有名で、町内にはラッピング電車が通っています。

お出迎えは岩村社長自ら

岩村駅に到着すると、今回のガイドである渡會さんがお出迎え。地元の人しか知らないルートを通りつつ、岩村町を案内してくれます。

産業遺産として今も残っている「腕木式信号機」

まずは岩村駅の駅構内。今では珍しい「腕木式信号機」が産業遺産として残っています。なかなか見られない貴重なものだそう。

豊かな自然が広がる岩村駅周辺

線路を越えて、駅裏の川沿いを歩きます。

7話のロケで使われた川

この場所、朝ドラのファンならわかるでしょうか。『半分、青い。』の第7話で主人公が渡っていた飛び石です。

参加者のなかには朝ドラをしっかりと見ている人が多く、渡會さんの解説に大盛り上がり。涼しげな川を眺めながら、ぶらぶらと散歩するのは、気持ちの良いものですね。

ドラマの雰囲気そのままの商店街

たどり着いたのは、岩村城まで続く商店街です。

朝ドラのイメージでも強いフクロウ商店街の顔はめパネル

朝ドラのイメージそのままの街並みで、ふくろう商店街の看板もありました。撮影時は美術スタッフの方々が町を装飾したそうですが、その後も商店街の方々がよく似た装飾をして、ドラマの雰囲気を残してくれています。

商店街の中腹には、岩村醸造の本家がありました。もともと旅籠を営んでいたそうですが、約230年前に分家し、日本酒の醸造を始めたという歴史があります。本家からもう少し商店街を進むと、現在の岩村醸造にたどり着きました。

トロッコの通る細長い蔵は、まさに"うなぎの寝床"

「女城主」醸造元・岩村醸造の外観

蔵に入ると、かなりの奥行きがありました。かつては、間口の大きさによって税金が設定されていたため、その対策として"うなぎの寝床"のようなつくりになっているのだとか。

充実の販売・試飲コーナー

販売・試飲コーナーの奥には、瓶詰め場や仕込み部屋がありました。

作業をしている岩村醸造の蔵人

この日は瓶詰めの作業中。テンポの良い音が蔵の中に響きます。

お酒を運ぶトロッコのレール

細長いの建物では、日本酒を運ぶのがたいへんでしょう。そこで活躍するのがトロッコ。

建物の中には、トロッコの走るレールが敷かれていました。以前はこのトロッコを使って、店頭までお酒を運んでいたそうです。効率的に仕事をするための知恵ですね。

にごり酒にフォアグラ!?

蔵を案内していただいた後は、お待ちかねの試飲タイム。岩村醸造のお酒がたくさん並びました。

岩村醸造の試飲

左から順に「女城主 純米大吟醸」「女城主 純米吟醸 生」「ゑなのほまれ しぼりたて原酒 生酒 特別本醸造」「女城主 辛口 純米酒」「女城主 生 にごり酒」の5種類。

これらの日本酒とともに提供されたのが、「おつまみとのマリアージュを楽しんでほしい」ということで用意された、渡會さんの奥様が手づくりした料理。参加者から歓声があがります。

お酒に合わせるつまみ

それぞれの食べ合わせを解説してもらいながら、蔵イチオシのお酒をいただきました。

「女城主 純米大吟醸」

純米大吟醸酒らしい豊かでフルーティーな味わい。しっかりとした甘味があるため、ジューシーなメロンと相性が良いのだそう。純米大吟醸酒の甘味とメロンの甘味による相乗効果で、日本酒が苦手な人でも楽しめそうです。

「女城主 純米吟醸 生」

店頭での人気ナンバーワンを誇る一品。岐阜県の酒造好適米「ひだほまれ」を使ったお酒です。これに合わせるのは生ハム。塩気があるので、お酒のフルーティーな味わいが際立ちます。

「ゑなのほまれ しぼりたて原酒 生酒 特別本醸造」

パンチの効いたアルコール感と後味のキレが印象的。通年販売の火入れタイプとは異なる味わいが楽しめる生原酒です。マスカットの爽やかさがアルコール感をほどよく和らげてくれるので、スッキリといただけます。

「女城主 辛口 純米酒」

「ひだほまれ」を使った、ドライさのなかに米の旨味を感じる純米酒。ローストビーフを合わせても、その旨味は負けません。

「女城 生 にごり酒」

岩村醸造のなかでも大人気のにごり酒。キレの良いスッキリとした生酒で、開栓時にはプシュッと良い音がしました。こちらと合わせるのは、なんとフォアグラ!薄く切ったバゲットに塗って食べると、フォアグラの濃厚な味とにごり酒の甘味が好相性です。

そのまま飲んでも美味しいお酒ばかりですが、そのポテンシャルをおつまみとのマリアージュがさらに引き出してくれているのがよくわかりました。参加者のみなさんも、ほろ酔いモードでご機嫌です。

守るものは大事にしつつ、チャレンジし続ける

素敵なマリアージュをレクチャーしていただきながら、渡會さんの日本酒に対する思いを伺いました。

日本酒について語る岩村醸造の社長・渡會充晃さん

─ 造り手として、どのような酒造りを意識していますか。

「酒蔵に生まれたこともあって、小さなころから蔵を継ぐことを考えてきました。ただ、昔ながらの造り方や売り方では、すべてが今の時代に合うわけではありません。だからこそ、守るべきものを大事にしつつ、変えなければならないところはお客さんのニーズに合わせてチャレンジしていきたいですね。

日本酒ブームといわれるなかでも、全体的な生産量や消費量は減っています。娯楽が少なかった昔は、早く帰って家で飲むのが当たり前でしたが、現代においては、日本酒の競合は他のお酒だけではないんですよね。映画だったり、イベントだったり......時間を楽しむような娯楽が増えているので、それらには負けていられないと思っています」

岩村醸造の社長・渡會充晃さん

─ 例年2~3月に行われる蔵開きは、1日に1,000人の参加者が訪れるほど人気だそうですね。

「蔵開きは約30年前から新酒のお披露目として行なっています。町を挙げたお祭りのようなイベントとして認知されているのは、本当にうれしいです。地元の方々はもちろん、岩村町以外の方々にどうやって美味しい日本酒を楽しんでもらおうかと考えていると、準備の大変さも忘れてしまいますね」

─ おすすめのお酒の楽しみ方を教えてください。

「単体で飲むのも良いですが、料理との組み合わせで楽しむのがおすすめですね。料理とのマリアージュは、ワインの世界では当たり前のこと。『日本酒だから和食』という組み合わせではなく、今回のツアーで試したような新しい組み合わせで、日本酒の幅を広げていきたいと思います」

伝統を受け継ぎながら、新しいことにも挑戦している岩村醸造。恵那市を訪れる際に、ぜひ立ち寄ってみてください。

(文/spool)

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