『立ち飲みで純米酒を身近に感じて欲しい』というコンセプトの「純米酒専門店 YATA」。名古屋市の栄から始まり、東京や北海道にも店舗を拡大している人気店です。「より日本酒を楽しんでもらえるように」という思いから、各店舗では、日本酒を深く学ぶことのできるイベントが定期的に開催されています。

今回は、名古屋伏見店で行われた『熱燗を極める。』をテーマにしたイベントの様子をレポートします。

燗酒の温度と味わいの関係

燗酒というと「すぐに酔いがまわってしまう」「お酒の感じが強くなるから苦手」など、ネガティブなイメージをもっている人も少なくないかもしれません。

純米酒専門店 YATA(やた)の伊藤さん(写真左)と丹野さん(写真・右)

今回、燗酒の初心者たちにレクチャーをしてくれるのは、伏見店の店長・伊藤さん(写真左)と、先日惜しまれながら閉店した神田店でたくさんの日本酒ファンを生み出していた丹野さん(写真右)です。

日本酒には、燗に向くものと向かないものがあり、温度帯によって、味わいが大きく変化します。人間がもっている5つの味覚「甘味」「酸味」「塩辛味」「苦味」「旨味」は、温度の影響を受けやすいのだそう。

以下のグラフからもわかるように、温度が上がると甘味や旨味が際立ち、苦味の感覚が弱まっていきます。グラフにまとめてみると、とてもわかりやすいですね。

温度と味の強さの関係を示したグラフ

特に、生酛や山廃の純米酒は、燗にすると旨味のバランスが良くなって、さらに美味しく感じられるとのこと。また、日本酒を温めることで、身体が温まったり、立ち上がってくる香りでリラックスしたりできる効果もあります。

生酒やにごり酒も燗にしてみよう!

今回のイベントで用意された日本酒は、伊藤さんと丹野さんが厳選した7種類。燗酒としては馴染みのない、生酒やにごり酒などもあり、参加者一同が驚いていました。

純米酒専門店 YATA(やた)燗酒イベントに用意された7種類の日本酒

燗酒の温度は、5℃ごとに名前が付いています。今回は、違いがわかりやすい「常温(20℃)」「ぬる燗(45℃)」「熱燗(55℃)」「とびきり燗(65℃)」という4つの温度帯を飲み比べて、その違いを確かめていきます。

YATAでは、香りの違いを感じてほしいという思いから、燗酒を提供するときには平盃を使っています。平盃は口が大きく広がっているため、香りが広がりやすいのです。

ただ、口が広いぶん、お猪口よりも少し早く冷めてしまうのがデメリット。YATAのテーブルはアルミ素材のため、木製のテーブルよりもやや冷えやすいことも考慮して、通常よりも3℃ずつ高い温度で燗をつけていきます。

純米酒専門店 YATA(やた)の平盃

テーブルには、異なる温度帯を楽しむための平盃と、常温のお酒を飲むためのワイングラスが用意されていました。

平盃ひとつにつき、約40ccのお酒が注がれていきます。それぞれ4種類の温度帯で、計7種類。すべて飲み干すと、6合以上にもなります。なかなかの量ですが、参加者のみなさんは美味しそうに飲み干していました。

燗酒イベントのおつまみ3種盛

お酒そのものを楽しむのはもちろん、美味しいおつまみといっしょにいただくのも良いですね。

燗酒に合わせるおつまみは、左から順に「するめの麹漬け」「コンビーフ」「青カビのブリーチーズ」の3点。どれも、日本酒との相性がぴったりです。青カビのブリーチーズは、今回のために用意された特別な一品です。

七変化する、燗酒の味わい

いよいよ、飲み比べがスタートです。

燗酒イベントで用意された7種類の日本酒のスペック

1杯目「出羽桜 純米吟醸 出羽燦々誕生記念 生」(出羽桜酒造/山形県)

まずは山形のお酒「出羽桜」の生酒から。出羽燦々という酒米を使った香り高い、女子受けしそうな薫酒です。常温で飲むと香りが華やかで、とても美味しいです。これが温度帯でどのように変わるのでしょう?

丹野さん曰く「燗の温度が保たれていれば、冷めても美味しい。でも出羽桜のような香りが高い薫酒は高温だと香りが飛んでしまうので、美味しく感じにくくなる。」とのこと。

たしかに、ぬる燗(45℃)の方がお酒の個性や香りが残り、常温とはまた違った美味しさがある気がしました。熱燗(55℃)やとびきり燗(65℃)まで温度が上がったものは、常温で華やかだった香りがせず、後味に苦味のようなえぐみを感じました。同じお酒でもここまで変わってしまうのですね。

2杯目「玉柏 吟醸」(蔵元やまだ/岐阜県)

次は岐阜のお酒「玉柏」。酒米には山田錦を使った爽酒です。こちらは常温で飲んだ時は香りよりもスッキリとした味わいが印象的でした。ぬる燗にすると平杯の効果もあり、香りが先ほどよりも広がります。他の温度帯は「出羽桜」と同じく、このお酒らしさが薄まってしまう印象でした。

3杯目「不老泉 山廃純米吟醸 備前雄町 無ろ過生原酒」(上原酒造/滋賀県)

続いては滋賀のお酒「不老泉」です。こちらは山廃独特の酸味とどっしり感があります。山廃の酸味が苦手な人もいらっしゃるかもしれませんが、こちらはぬる燗、熱燗にすると本当に美味しい。酸味よりお米の味が強くなる印象で、おつまみのするめの麹漬けやコーンビーフとバッチリ合いました。こうやって温度を変えて、おつまみを組み合わせるとお酒を楽しみ方も広がりますね。

4杯目「山陰東郷 生酛純米 玉栄 原酒」(福羅酒造/鳥取県)

こちらは鳥取のお酒「山陰東郷」。玉栄という酒米を100%使い、生酛造りで仕上げたお酒です。こちらも「不老泉」と同じく醇酒。どっしりとした味わいはそのまま飲むよりも少し軽く感じられて料理とも合いそうです。個人的にはこのお酒は熱燗(55℃)が一番美味しいな、と感じました。青カビのブルーチーズをおつまみにお酒が進みます。

5杯目「満天星 純米吟醸 原酒 21BY」(諏訪酒造/鳥取県)

こちらは9年も寝かせた熟成酒。熟成酒はあまり温度を上げなくても、比較的美味しく仕上がるそうです。こちらには急遽配られたビターチョコレートとともに。日本酒とチョコレートを合わせるのはとても難しいそうですが、ほどよい苦味がぬる燗や熱燗ととても良く合います。

お燗は、長い時間寝かせる熟成の作用を即興でやっているようなもの。熟成させているお酒だからこその美味しさなのですね。

燗酒イベントのおつまみ(コンビーフとチョコレート)

6杯目「竹泉 にごり純米」(田治米合名会社/兵庫県)

こちらは兵庫のお酒「竹泉」。「どんとこい米」というなんだか頼もしい名前の米を65%精米して醸したにごり酒です。「まさかにごり酒のお燗なんて!」とドキドキでしたが、お米の甘さが際立つような印象です。こちらもミルクチョコレートとも良く合います。

7杯目「春鹿 極味 本醸造」(今西清兵衛商店/奈良県)

続いては奈良のお酒「春鹿」です。こちらは今までとは別の飲み方を試してみました。燗つけをする時に、鮭とばを一片、ちろりに入れてつけてみます。

鮭とばを加えた燗酒

簡単なのに、燗酒の温かさとの相乗効果で、鮭とばの良い香りがより引き立ちます。ヒレ酒や骨酒のようなイメージでしょうか。温めていく過程で香りとダシが出て、なんとも言えない美味しさです。厚めの鰹節でも、同じようにできるそうですよ。

ハードルが高いと思っていた燗酒ですが、その味わいやおつまみとの組み合わせなど、とても興味深く楽しめました。香り高い薫酒や爽酒はぬる燗で、味わい深い醇酒や何年も寝かせた熟酒酒は熱燗にすると、より飲みやすくなりますね。

日本酒を美味しく楽しめる燗酒は、冬の寒い時期だけでなく、暖かくなってきた時期にもおすすめです。

◎店舗情報「YATA 名古屋伏見店」

  • 住所:愛知県名古屋市中区錦2-7-29 GOTO BLD2 2F
  • 電話:052-201-3534
  • 営業時間:15:00~23:00(L.O. 22:30)
  • 定休日:日曜日
  • 公式Facebookページ

(文/spool)

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