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SAKEのいろは 思い込みの常識 〜その1〜 「酒は冷酒か冷や、ぬる燗がいい」

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とある日本酒居酒屋での1シーン。

「この店いろいろな酒があるけど、やっぱり熱燗だよなぁ」「えっ、そうなの?冷たい方がいいんじゃない?ワインみたいに!」「そうそう。冷酒はスッキリしてるし、冷や(常温)も呑みやすい」「いやぁ、俺はぬる燗派。体に負担がかからないし、まろやかになるから」

さて、どなたが正しいのでしょう?

冷酒だけじゃない!「吟醸酒」の愉しみ方

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良質の酒米を高精白し、杜氏が精魂込めて醸す。1980年代、「全国新酒鑑評会」などで高く評価される「吟醸酒」が注目の的に。一大ブームが起こったころ、全国各地の酒蔵で吟醸酒特有の香りを生み出す酵母や醸造方法が積極的に取り入れられ、醪に少量垂らすだけで吟醸香が立つ「吟醸香エキス」までもが使われることも。

吟醸香には「甘く爽やかでフルーティー」と表現されるように、リンゴを彷彿とさせる「カプロン酸エチル」や、バナナを思わせる「酢酸イソアミル」などの香りがあります。これらは本来、”吟味して醸す酒造り”によって備わります。しかし、結果が目的となり、香りに傾倒したものが出回ると、「香りが強すぎて苦手」→「温めるともっと鼻につく」→「冷やして飲む」という構図ができあがります。

「吟醸」という名がつく日本酒は、米・米麹のみで醸す純米吟醸・純米大吟醸と、醸造アルコールが添加される吟醸・大吟醸に分かれます。「燗酒嘉肴 壺中」では、前者の純米吟醸・純米大吟醸のみの扱いで、香りが控え目なタイプを揃えています。呑み心地がスッキリしていて柔らかく、呑み込んだ後、甘残りせず、キレもいい。これらを冷たい状態から常温、ぬる燗の40度、ときには飛び切り燗の55度前後まで温めて召し上がっていただきます。

自然の力を最大限に生かし、発酵させきって醸された純米吟醸・純米大吟醸は、鼻につく香りはありません。お燗の方法にもよりますが、温めても同じです。味や香りが壊れ、荒々しくて呑めなくなってしまうことはなく、むしろ旨味が引き出され、味が開きます。飛び切り燗まで温めた後、50度、40度と下がった時も、それぞれの温度ならではの表情が感じられて、上がっていく時の同じ温度と味わいが違うのもおもしろい。

現在、欧米では、フルーティーで香りの高い”SAKE”を冷たくして呑むのが主流のようです。口に含んだ瞬間はインパクトがあるものの、お燗をすると香りが立ちすぎることも。ですから、冷たくして呑むのは正しいかもしれません。しかし、そうしたタイプは食中酒には向かないでしょう。料理や肴の風味を、酒の香りがマスキングしてしまうからです。

冷たくするだけでなく、幅広い温度帯で愉しめるお酒の例として、たとえば「羽前白梅(うぜんしらうめ) 穂の香 H27BY」(山形・羽根田酒造)や「鯉川 特別純米 H27BY」(山形・鯉川酒造)」などがあげられます。これらのお酒は、和食なら、カキの塩辛やみそ漬け豆腐、洋食では、コロッケをはじめ、シェーブルなどのチーズを合わせると、愉しみが何倍にも広がります。

にごり酒を燗するのは御法度!?

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にごり酒は「甘重で苦手」と敬遠される方もいるかもしれません。また、にごり酒=「発泡にごり酒」「活性にごり酒」のイメージがあり、冷たくして呑む酒と思われがちです。しかし「壺中」の大定番「生酛のどぶ」(奈良・久保本家酒造)は違います。「煮酒」と言われる60度はもちろん、70度の燗をしても問題がないどころか、力強さが増し旨味が凝縮されて前に出てきます。高い温度帯で燗をしても風味が壊れないのは、完全発酵させきって醸された証です。そうした酒は、清酒でもにごり酒でも、悪酔いすることはほとんどありません。

「壺中」では、肴との兼ね合いを考え、62度前後のお燗を中心としています。しかし、「生酛のどぶ」はあらゆる温度帯で愉しめるオールマイティーな一本で、冷やして炭酸水で割る「どぶのソーダ割」は、シュワッとした口当たりとキレのよさが好評です。この他、「鯉川 純米吟醸 亀治好日うすにごり酒 H27BY」は52度前後で。「竹鶴 純米にごり酒その2 H27BY」(広島・竹鶴酒造)は58度前後まで温めます。

「鯉川 うすにごり酒」は「純米吟醸」で「にごり酒」。温めてはいけないと思われるダブルスペックですが、ぜひ、お燗でお召し上がりください。ほんのりやさしい甘味とキレが心地良く、盃が進みます。

大事なのは何度で呑むかより、どの1本をどのように呑むか

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冒頭の会話において、どなたが正しいでしょう?

もうみなさん、おわかりかと思います。いずれも一理あるものの 、「何度で呑むか」の前に「どの1本をどのように呑むか」が抜けています。

かつて「燗は三増酒専門、純米以上を燗にするのはもったいない」と言われた時代がありました。香り高い吟醸酒が注目されたり、淡麗辛口ブームやジャパナマ・キャンペーン(「燗酒=おじさんくさい」というイメージを一新するため、生酒を冷やしてグラスで呑もうというキャンペーン)の影響で、「日本酒は冷蔵庫で冷やして呑む」という概念が固定化された時期もあります。その後、「冷たいものは体を冷やす。体温より少し高めが体に優しい」と「ぬる燗」が広まり、冬は体を温めるために「熱燗」がいいという人も多くなりました。一方、55度以上にお燗するという考えは、まだ一般的ではないようです。しかし、完全発酵させた純米酒を熟成させ、適度なペースでじっくり温めると、えも言えぬ奥深い世界が体感できます。

一言に「日本酒」といっても多種多様です。酒米、精米歩合、製造方法が同じでも、酒蔵によって味わいが異なります。さらに、「壺中」に並ぶ純米酒は、同じ蔵の同じシリーズでも、醸造年度や季節・気温、開栓してからの時間経過などによって味が変化します。また、数種類呑むなら、順序や料理・肴との関係などを考えると、”適温”はその時次第。一期一会です。酒それぞれの個性により、適した温度の枠はある程度ありますが、仕上がり温度が同じでも、燗のつけ方で、飲み口が柔らかくもきつくもなります。外呑みするなら、燗番に相談してみてください。あらゆる環境を鑑みて、”この1本”を提供するのが仕事です。燗番の手による違いをお試しいただくと、新たな愉しみがみつかるかもしれません。

(文/伊藤 理絵)

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伊藤 理絵

燗酒嘉肴「壺中(こちゅう)」燗番。 温めると、旨味が引き出されまろやかになる。だから通年、お燗がお薦め。開栓後、熟成し味わいの変化が楽しめる、軽くすっきり、しっかりとした酸がある、それぞれをキーワードにお客様の好みに合わせた純米酒を提供。

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