最近「日本酒は健康に良い」という情報をよく見聞きするようになりました。日本酒には、アミノ酸をはじめとする700種類もの栄養成分が含まれているため、日本酒が健康に及ぼす肯定的な影響についての情報が、ネットを中心に多く流布しています。

いち日本酒ファンとしては、願ったり叶ったりでしょう。しかし、医学的な観点からみた本当のことを知りたいですよね。そこで今回、『酒好き医師が教える最高の飲み方』(日経BP社刊)を監修した日本酒好きの医師・浅部伸一先生に、お酒にまつわる素朴な疑問を聞いてみました。

浅部伸一先生(自治医科大学付属さいたま医療センター)

「日本酒は百薬の長」って、本当?

"適量の飲酒は身体に良い"という意味のことわざ「酒は百薬の長」。日本酒は「百薬の長」であると言えるのでしょうか。

浅部先生に真実を聞いてみると「『百薬の長』であるとは言えません。むしろ、害のほうが多い」と、一刀両断されてしまいました。いったい、どういうことなのでしょうか。

飲酒でリスクが高まる病気のほうが圧倒的に多い

飲酒量と健康リスクの関係は、グラフにするとさまざまなパターンになることが報告されています。そのひとつに「飲酒量がある閾値を超えて増加すると死亡率が高まるが、その閾値に達するまでは、飲酒量が増えるほど死亡率が低下する」ことを示す「Jカーブパターン」があります。したがって、適量のお酒を飲んでいる人は、お酒をまったく飲まない人や大量に飲む人に比べて、死亡率が低くなるのです。

出典:Circulation. 2007;116:1306-1317.

出典:Circulation. 2007 ; 116 : 1306-1317.

このJカーブパターンが「酒は百薬の長」と言われる裏付けになっているのではないかと、浅部先生は言います。

しかし、Jカーブパターンが当てはまるのは一部の病気のみ。心筋梗塞などの病気に対しては、適量を飲んでいる人の発症リスクが下がるのではないか言われている反面、脳卒中や肝臓・膵臓の病気などについては、リスクが上がることがわかっています。特に、がんのリスクは飲めば飲むほど高まってしまうのだそう。

日本酒はアミノ酸をはじめとする700種類以上の栄養成分を含んでいるため、他のお酒と比べて健康に良いと思われがちですが、基本的にはアルコール(正確には、エタノールという物質)をどのくらい摂取しているかが重要であるため、お酒の種類はあまり関係がないと言われているそうです。

※ ちなみに、厚生労働省が指標にしているアルコール摂取量の適量は、純アルコール換算で、1日あたりおよそ20g

お酒の楽しみと健康を両立させる飲み方を

「日本酒から摂取できるアミノ酸の量なんて、たかがしれています」と、浅部先生。アミノ酸などの栄養成分は、健康的な食生活をしていれば、充分な量を摂取することができるのだとか。

たとえば、朝食がパンやジュースのみなど、食事が偏っている人は常態的にアミノ酸やタンパク質が足りないため、サプリメントでアミノ酸を補うことによる効果はあるでしょう。しかし、栄養バランスの取れた食事をしている人にとって、アミノ酸は充分に足りているので、サプリメントで摂取する効果は乏しいと考えられます。

日本酒も同じ。多くの栄養素については、過剰に摂取して効果があるという医学的な検証結果はありません。

「日本酒が健康に良いかどうか、まだ決着がついていない部分もたくさんあるので、言い切るのは難しいです。日本酒に含まれるアミノ酸がどれほど健康に良いのかについては、意見が分かれるところですね」

免罪符のように日本酒を飲めば健康に良いということはありませんが、これは長い目で見た場合の話です。

どんな食べ物でも食べ過ぎは良くありません。米の食べ過ぎは糖尿病につながると言われていますが、それでも米を食べることが悪いと言い切れないように、日本酒も適量を守っていれば、急激にリスクが高まるということはないのだそう。

「楽しくお酒を飲むことと健康を維持することが両立できるような飲み方をすることが必要ですね」と、浅部先生は言います。

最後にもうひとつ、日本酒に限らず、お酒が健康に良いと言われる根拠のひとつが、飲酒による"ストレス解消"です。しかし残念ながら、この点については正確に計測することが難しく、根拠となるデータはまだ存在しないとのことでした。

◎参考文献

  • 『酒好き医師が教える最高の飲み方』(著者:葉石かおり、監修:浅部伸一/日経BP社)
  • 最新医学のエビデンスをもとに、お酒の正しい飲み方を指南した一冊。お酒の楽しみ方はもちろん、健康や美容との関係など、お酒を飲む人が抱く素朴な疑問に回答を示し、多くの読者から高い評価を得ている。

(取材協力/葉石かおり)
(文/乃木章)

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