今回は、北海道の酒造り事情をお伝えします。近年、北海道の酒が大きく変わっている、という話です。

米どころ・北海道では酒米が穫れない?

まずは、私が呑兵衛として駆け出しだった頃の話を。

時は平成の初め頃。各地の銘酒を取り揃え、メニューでは酒の名前に産地を併記する店が増えてきました。いわゆる地酒ブームです。

ラベルを見ると原材料の欄に「山田錦」とか「五百万石」と書いてあるものがあります。それを米の名だと教えてくれたのは、通っていた居酒屋のオヤジさんでした。そうか、酒は米から造るもの。米の名前が書いてあっても不思議はない。コンビニのおにぎりだってコシヒカリ使用とか書いてある。
「北海道は米がたくさん穫れるから酒には困らないね」
そう私が言うとオヤジさんが違うよという顔で首を振ります。
「残念ながらそうはいかない」
酒造りには酒米という専用の米を使うのだとオヤジさんは言います。しかし同じ品種を北海道で栽培しようにも寒冷地ゆえ育たないのだとか。

日本酒は米から造る、という事くらいしか知らない私には新しい話でした。
「北海道にも酒蔵があるけど、酒米はどうしてるの?」
「内地(北海道では本州のことをこう呼ぶ人が多い)から買ってくるのさ」
なるほど。北海道は日本トップクラスの米どころ。だがそれは普段食卓で食べる「食米」のことで、「酒米」は然にあらずということか。話はよくわかった。それにしても北海道の米で造った酒がないというのは寂しい。地酒がもてはやされてもこれでは何か物足りない。本来、地酒というのは地元の原料で醸した酒のことではないか。思いは募ります。

北海道産の酒米を使った地酒が呑みたい

そんなことがあってから十数年後のある日、酒屋でびっくり。

あるじゃないですか。北海道産の米で造った酒が!
ラベルには北海道産の米を使用したと、ちゃんと記されています。
北海道内で研究開発が進められていた酒造好適米が新たな品種として認められ、生産が開始されたとは何とめでたい。地産地消に着目していた酒蔵によって、北海道産の酒米を使った新たな地酒が誕生していたのでした。
酒屋の主人が言うには、酒蔵では新製品だけでなく既存商品の原材料を北海道産へとチェンジする動きも活発になっているとのこと。

■北海道の酒造好適米
吟風(ぎんぷう)
心白が大きくはっきりした品種で、芳醇なお酒が期待できます。北海道産のお米を原料にしたお酒造りが広がるきっかけとなった品種です。
彗星(すいせい)
良質な酒米であることを示す、タンパク質含有量の低さが特徴で、淡麗な味わいのお酒が期待できます。千粒重(形の整った玄米1000粒当たりの重さ)が重く、大粒で、収量性が高いのも魅力です。
きたしずく
心白発現がよく、千粒重が重い多収の品種です。雑味が少なく、やわらかい味わいのお酒が期待できます。耐冷性が高く、安定生産に貢献できる点も大きな特徴です。

出典:北海道米販売拡大委員会HP「北海道米Love

■北海道の酒米作付の推移
平成10年 道産初の酒米「初雫」作付開始
平成12年 「吟風」作付開始
平成18年 「彗星」作付開始
平成26年 「きたしずく」作付開始
※「初雫」は平成18年以降作付なし

参考資料:農水省「米穀の品種作付状況」

杜氏のあいだでは「味の吟風」「キレの彗星」などと言われ個性が評価されているようです。その二大銘柄に対して雑味がなく柔らかな味わいと脚光を浴びているのが「きたしずく」。行く末が大いに楽しみです。

昔、北海道になかったものが今ある。これは実に大きな変化です。

酒は楽しむというより親しむもの。「地産地消」「身土不二」という言葉の通り呑むたびに身体に良い気がします。
また、日本の各地で新たな酒造好適米が開発されている様子。私と同じ思いで地酒を楽しんでいる方も多いことでしょう。

(KOTA(コタ))

【関連】 地産地消ブームの中で変化していく日本酒売場
【関連】 意外と知らない!「にごり酒」と「どぶろく」の違いとは?

日本酒の魅力を、すべての人へ – SAKETIMES