同じように白濁しているお酒「どぶろく」と「にごり酒」。酒造りの工程によって生じる違いのようですが、実は、日本酒の歴史を紐解いていくと、この2つの言葉にはさらに大きな違いがあるようです。

にごり酒=白濁した日本酒

独特の酸味と舌触りで日本酒ファンの心を捉えて離さない「にごり酒」。一般的に「白濁した日本酒」のことをいいます。

日本酒造りの工程のひとつに「上槽」と呼ばれる、醪(もろみ)を固体(=酒粕)と液体分(=原酒)にわける作業があります。

アルコール発酵によってできた醪を酒袋などに入れ、圧力をかけて搾っていくのですが、ここで目の粗い酒袋を使うことで醪の中の溶けきれていない米の固体部分が原酒の中に残ります。これが白濁のもとになるのです。

酒税法上、この「醪を固体と液体にわける」工程を経なければ、「清酒」を名乗ることはできません。この工程をせずに販売に出されるものを「どぶろく」と呼ぶ場合が多いのです。この場合は清酒ではなく、「その他醸造酒」という扱いになります。

米の粒感がまるっと残っているようなものから滓酒や霞酒などの淡く濁った酒まで、日本酒の白濁の強弱はさまざまですが、「にごり酒」は、どぶろくを含め、白濁している日本酒すべてを指すことのできる言葉であるといえるでしょう。

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神事と結びつきの強い「どぶろく」

前述したように、どぶろくは「醪を個体と液体にわける」という工程を行わずに販売に出される酒を指しますが、歴史的には「豊作を祈願するための神聖な酒」という意味もあります。

飛鳥・奈良時代に行われていた豊作の祈願や収穫への感謝を示す場において、米から造った白濁酒を神様に捧げるという風習がありました。この酒を「どぶろく」と呼んでいたそうです。

また、酒が広く一般的に飲まれるようになると、自家用の酒を造って飲む家庭が増え始めました。この酒も見た目の印象から「どぶろく」と呼ばれていました。

しかし、この自家醸造酒は1899年(明治32年)に国の政策によって完全に禁止されました。現在、どぶろくの醸造が許可されているのは、飛弾の白川八幡神社などのどぶろくを用いた伝統的な神事を行ういくつかの神社に限られています。

世界遺産にも登録された白川郷では、約1300年前からどぶろくが祭礼に用いられており、現在でも毎年9月の終わりから10月にかけて、五穀豊穰・家内安全・里の平和を山の神様に祈願すべく村内の各地区の神社で「どぶろく祭」というお祭りが行われています。各神社にはいわゆる「酒蔵」があり、いしにえより受け継がれた独特の技法をもって毎年どぶろくが造られ、そして振る舞われています。

また地域産品として、「特定の場所でのみの飲用」という条件付きで醸造している地域もあります。

山形県の飯豊町では、地区内の旅館でどぶろくの醸造・提供が行われている他、どぶろくを使ったお菓子の販売などを通して地域振興を推し進めているそうです。

これらの地域は「どぶろく特区」と呼ばれ、地域振興のひとつの手段として注目を集めつつあります。

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「にごり酒」も「どぶろく」もほとんど同義で使われることが多いですが、こうして歴史的な観点から見てみると、どぶろくには深い意味があるということがわかりますね。

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