米の収穫が終わりを迎え、酒造りがいよいよ始まりました。造り手がこの時期に気になるのは、今年の酒造りを占う米の作況や出来ぐあい。さらに溶解性と呼ばれる米の酒造適性です。

はたして2018年産の酒米はどのように予測されているのでしょうか。蔵人目線でレポートします。

地震、台風、猛暑…。各地の影響は?

稲が生育中の水田2018年は、7月に西日本豪雨、9月に台風が発生し、堤防を越えた泥水で田畑に土砂の流入が見られた地域もあります。水路が破壊され、8月の幼穂形成期に水田に水が引けなかったなど被害は広範囲に及びました。

また、北海道でも地震によって水田や農機具に被害があり、食用米の作況指数は全国で100と平年並みですが、北海道は90で「不良」という結果になりました。

一方で8月の幼穂形成期からは日照りが続き、特に西日本は平年を越える暑さ。東北や北陸でも高温障害が発生しました。稲の高温障害の目安が「出穂後20日の平均気温が27度以上」とされていますが、ここ10年は当たり前のようその基準を越えているのが現状です。

かけ流しや間断灌水で水温を下げたいところですが、降水不足による渇水が追い打ちをかけます。稲は熱帯原産の植物ですが、それでも暑かったということですね。

今年の酒米は「平年並み」の溶けやすさ

発行中のもろみタンク

酒類総合研究所酒米研究会が発表している酒米の出来についての報告をみてみると、出穂期の気温が米の溶解性を左右するという点に着目されています。

米のデンプンに含まれるアミロペクチンの側鎖は、出穂期に高温だと長く、低温だと短くなります。側鎖が短いと米が軟らかく醪になった時に溶けやすくなります。そうなると、麹の酵素がデンプンをどんどんと糖に変え、酵母は増えすぎた糖を食べきれず、発酵が緩慢になります。

そこで杜氏は追水をします。水を少し足してやると酵母にも余裕が出て、アルコール発酵も堅調に進み、アルコール度数15度以上のお酒ができるわけです。

米の溶解性は、発酵だけではなく搾るときにも影響します。顕著なのは酒粕の量でしょう。同じ量の米から、できるだけ多くのお酒を造りたいのに、溶けにくい米を使ってしまうと酒粕が増えるばかりです。

稲穂が実った水田

7月のうちに出穂する五百万石など早生品種は、やや高い気温を受けて平年並みからやや溶けにくいとの予測。8月からお盆のころまでに出穂するものは、北日本では平年並みかやや溶けやすく、東日本・西日本では平年並みかやや溶けにくいと予測されました。さらに8月下旬から9月に出穂する晩生品種の西日本産山田錦は、おおむね平年並と予測され、全国的には以下のようになりました。

  • 北海道産:平年並か溶けやすい 昨年と比べてもやや溶けやすい。
  • 東北産:昨年と比べ平年並かやや溶けにくい。
  • 関東信越産:早生は平年並かやや溶けにくい。晩生品種は昨年と比べやや溶けにくい。
  • 北陸産:平年並からやや溶けにくい。昨年と比べても平年並かやや溶けにくい。
  • 東海・近畿・中国地方産:平年並かやや溶けにくい。山田錦は概ね平年並だが、昨年と比べるとやや溶けにくい。
  • 九州四国産:概ね平年並。昨年同様かやや溶けにくい。

平年並みの山田錦は、大きな収穫量減はないと予測

全国で収穫される山田錦のうち、約6割は兵庫県産です。今年は夏が暑く、高温障害や肥料切れが心配されていました。実際は、水田の水をこまめに替えて凌いだ農家も多かったそうで、暑さの影響は出たものの比較的抑えられたそうです。

また今年は粒が小さく、平成29年産ほどの特等・一等比率にはならないのではないかという話も聞こえてきました。しかしながら、粒が小さいのが功を奏し、台風の時に倒伏する被害は少なかったようで、大きな収穫量減はないとのことです。

精米された酒米

8月は平年より気温がやや高かったのですが、9月には台風が通過するなど曇天が続き、平年よりは低い気温で推移していましたが、溶けやすさとしては平年並みを見込んでいるようです。

異常気象や農政など、稲作をとりまく環境が変わりゆくなか、農家の想いも複雑なものがあるのかも知れません。蔵人としては一粒一粒、できるだけ大切にお酒を造っていきたいものです。

そろそろ30BYの新酒の便りも聞こえてきました。今年の日本酒はどんな味わいなのか。楽しみに待ちましょう。

(文/リンゴの魔術師)

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