「北海の灘」旭川の代表的な老舗蔵
北海道の道北にある旭川市は、明治から大正にかけて「北海の灘」と呼ばれるほど酒造業が盛んな地でした。明治24年に永山地区へ屯田兵が入植し、それに追従した札幌の酒造業者・笠原喜助氏が笠原酒造店を開設したのが発端と言われています。
その後、明治31年に旭川-滝川間に鉄道が開通し、地域は急速に発展します。明治32(1899)年、小檜山鉄三郎氏が小檜山酒造場を創業。これが現在の高砂酒造です。
明治末期になると、旭川の酒造業者は14を数え、札幌や小樽をしのぐほどになりました。しかし昭和19年、太平洋戦争も後期になったころ、国は清酒製造業企業整備要綱に則って市内11の酒造場を一元化。旭川酒類工業株式会社が創立されました。
旭川酒類工業に参加していた小檜山酒造は戦後、昭和24(1949)年に復活し、同41(1966)年に現在の高砂酒造と改名します。現在の主要銘柄は「国士無双」。昭和50年に発売され、淡麗辛口ブームの波に乗って北海道で大ヒット。全国にも名をとどろかせました。
本社工場は、昭和4年築のコンクリート建築。鉄筋コンクリートの酒蔵では全国で3番目に古いそうです。明治42年築の明治蔵は「旭川景観賞」を受賞。ショッピングなどもできるため観光客も多く訪れています。現在は約3000石を生産しているとのこと。
アイスドームで搾る人気の雫酒
今回紹介する「一夜雫」は、まさに“北海道”を活かした酒。かつて、冬は氷点下30℃が珍しくなかった厳寒の地・旭川の特色を活かしたお酒を造ろうと、アイスドームの中で酒袋をつるした"雫酒"を毎年醸してきました。アイスドームはなるべく寒い夜、蔵の敷地内で、直径10m、高さ2.7mのビニールを膨らませ、ノズルで雪と氷を吹き付けます。これを二晩続けると、約15cmの厚さの室ができあがります。氷点下15℃以下になる旭川だからこそのなせる業。氷室内は氷点下2℃、湿度90%に保たれ、清酒の酸化や香りの蒸発を防げるメリットもあり、ゆっくりと搾る"袋搾り"が可能な環境となるのです。
この「一夜雫」の大吟醸は、兵庫県の特等山田錦を35%まで磨いています。完熟メロンのようなフルーティーな香りが印象的。口に含むと、同じくフルーティーな含み香と山田錦の旨みや甘味が上品に広がります。凝縮された旨みですが、なめらかで透明感あふれる飲み口です。まさに綺麗な大吟醸、王道の味わい。後口も適度な余韻を残し、スッと消えていきます。香り高いので、酒肴と合わせるよりも単品で呑みたい一品です。酒器はワイングラスが合うかもしれません。
温暖化により27BYをもって製造中止
平成2年から製造・販売していた「一夜雫」ですが、今季から生産を打ち切っています。旭川も温暖化により、降雪量の減少や2月の降雨など雪氷室の製作・維持が困難になってきたことから、断念せざるをえなかったようです。蔵元では原酒の在庫が無くなり次第販売終了となります。北海道の酒販店ではまだ見かけますので、北海道旅行の際は注目してみてはいかがでしょうか?
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