正月の「お屠蘇」で始まり、春には桜を見ながらの「花見酒」、秋には月見をしながらの「月見酒」、冬は「ひれ酒」でほっと温まる。日本酒には、昔から四季の移ろいに関連した楽しみ方があります。
9月の「重陽(ちょうよう)の節句」に楽しむ「菊酒(きくざけ」も、そのひとつ。最近では、見かけることも少なくなりましたが、その由来と楽しみ方をご紹介します。
9月9日は長寿を願う「重陽の節句」
「節句」というと、3月3日の「桃の節句」や5月5日の「端午の節句」を思い浮かべる方が多いと思います。節句は、もともと中国から奈良時代に伝えられた風習で、伝統的な年中行事を行う季節の節目となる日のことです。
1年を通してさまざまな節句が存在していましたが、江戸時代に、幕府がそのうちの5つを公的な祝日として定めました。それが「人日の節句(1/7)」「上巳の節句(3/3)」「端午の節句(5/5)」「七夕の節句(7/7)」「重陽の節句(9/9)」の五節句です。
古代中国の陰陽思想では、奇数は「陽数」、偶数は「陰数」と考えられ、五節句は、3月3日や5月5日のように奇数(=陰数)が重なる日が選ばれています。1月には七草、3月は桃、5月は菖蒲、7月は笹竹、9月は菊と、五節句には季節に応じた植物を食したり、飾ったりすることで邪気を払っていました。
9月9日は、最も大きな陽数である「9」が重なることから「重陽の節句」と呼ばれています。この日には長寿を願うお祓いが行われ、菊の花が邪気を払い長寿に効くと信じられていたので、菊の花びらを浮かべた「菊酒」を飲む風習がありました。
江戸時代中期に書かれた動・植物学書『本朝食鑑』(ほんちょうしょっかん)によれば、2種類の「菊酒」の作り方の記述があります。ひとつは、菊の花びらを浸した水で酒の仕込みをするもの。もうひとつは、梅酒などを造る時の要領で、氷砂糖と一緒に寝かせた菊の花びらを焼酎に漬け込むものです。
他にも、蒸した菊の花びらに酒を注ぎ一晩置くなどの方法があったと伝わっています。
日本一の銘酒と言われた「加賀の菊酒」
石川県で造られる清酒は、戦国時代以前から「加賀の菊酒」として日本一の銘酒といわれてきました。
石川県白山市の手取川の上流には、昔からイワギク、リュウノウギク、ヤマシロギクなどの野生菊が群生し、その滴りを受けて流れる手取川の水は菊水として尊ばれていました。この菊水で醸造した酒が「加賀の菊酒」です。菊水が尊ばれるのは中国の仙道の影響で、菊の滴を集めた水は特別の力があり、不老長寿の薬になると信じられていたようです。
豊臣秀吉がその最晩年の1598年に京都の醍醐寺で行った「醍醐の花見」で諸国の銘酒が集められましたが、その第一に「加賀の菊酒」が挙げられたと記されています。
現在は、石川県白山地区の複数の蔵元が「白山菊酒」として、「加賀の菊酒」の伝統と技術を継承しています。
今では、少しなじみが薄くなった「菊酒」ですが、9月9日の「重陽の節句」にあわせて、日本酒に菊を浮かべて楽しんではいかがでしょうか。
(文/SAKETIMES編集部)