2020年5月に迎える「久保田」発売35周年と会社設立100周年に向けて、ブランドリニューアルを着々と進めている朝日酒造。
そんな久保田の展望を語るトークセッションが、2020年1月、渋谷パルコにある「未来日本酒店/KUBOTA SAKE BAR」で行われました。
トークに参加したのは、朝日酒造のマーケティング部部長・渡邉大輔さん、未来日本酒店の代表・山本祐也さん、SAKETIMES編集長・小池潤の3名です。
「未来日本酒店/KUBOTA SAKE BAR」は、AIを用いた日本酒の味覚判定サービス「YUMMY SAKE」を展開する酒屋・未来日本酒店と朝日酒造のコラボ店。まさに、久保田の新たな展開を象徴する場所です。
若い世代の集まった会場でどんなトークが繰り広げられたのでしょうか。イベントの様子をレポートします。
「久保田 純米大吟醸」で乾杯
朝日酒造・渡邉さんの「今日は楽しみましょう!」という掛け声でイベントがスタート。乾杯酒は「久保田 純米大吟醸」です。
「わー!とても良い香り!」と歓声があがるほどの華やかな香りが特徴的な「久保田 純米大吟醸」は、久保田ブランドのなかでも新しい商品。「ぜひ、乾杯のシーンで飲んでほしい」と渡邉さんは語ります。
未来日本酒店は小〜中規模の酒蔵が造る、挑戦的で新しい銘柄を重視してセレクトしている酒販店。対して久保田は、全国に展開するクラシックな銘柄という印象です。そのふたつが協業して出店することはとても意外です。
「久保田に対する印象は?」という質問に「久保田は、"淡麗辛口"のパイオニアだと思っています」と山本さん。
「たとえばバンドでいうと、ビートルズであったりブルーハーツであったり......各カテゴリーのパイオニアがいて、久保田もそのひとつです。未来日本酒店は新しいプレイヤーの日本酒を中心に扱う店ですが、テッパンの商品も必要です」
「今回のように『久保田』と『未来日本酒店』、ふたつの看板で店舗を構えたのはなぜでしょう?」という小池の質問に、山本さんはふたつのきっかけがあったと話します。
「ひとつは渋谷パルコという場所。これまでに来店していただいた方々とは異なるお客様が多く、同じフロアにある飲食店もバラエティーにあふれている。ここで、多様なお客様に変化のあるクラフト酒を提案する場合、久保田がど真ん中のコンテンツになるのではないかと考えました。
もうひとつは、未来日本酒店で取り組んでいるYUMMY SAKE。これは10種類の日本酒を評価して自分の好みをAIで判定するサービスで、日本酒のジャケ買いの成功率を上げます。日本酒初心者がラベルで味わいを判断するのは難しいので、そのお手伝いをする役割ですね。
久保田はブランディングイメージが確立されています。米の味がしっかりとしている淡麗辛口、そういった印象をもっている方は多いでしょう。しかしそのなかで、実験的なお酒も数多くあります。探求しがいのあるブランドなので、YUMMY SAKEとしていっしょに新しい挑戦をしてみたいと考えました」
こうして、「未来日本酒店/KUBOTA SAKE BAR」がオープンすることになったのです。
変えていく久保田、守るべき久保田
「あらためて、"久保田って美味しいよね"と言ってもらえることをゴールに進めています」と、2019年9月ごろから始まったブランドリニューアルについて語る渡邉さん。
「お客様の声を集めると『久保田って、聞いたことはあるけれど実際にどんなお酒かわからない』という意見が多かったんです。これは改善しなければならない。ただし、昔から久保田をご愛飲していただいている方々を裏切らないよう、試行錯誤しながら新商品を展開しています。
最近の新商品でいうと、2019年10月に『久保田 千寿 純米吟醸』、2020年1月に『久保田 千寿 吟醸生原酒』を発売しました。千寿のすっきりとして食事に合う味わいをそのままに、四季の旬を感じてほしいと考えています」
「新しい挑戦を進めるなかで、久保田の"変わらない部分"はありますか?」という小池の質問に、「何を守るべきか、何を変えないのか。徹底的に社内で話し合いました。もっとも難しく、もっとも大事なことなんです」と答える渡邉さん。
「いちばん大事にしているのは飲み手の声です。千寿であれば、すっきりとした味わいで食事と合わせやすく、手の届きやすい価格にすること。萬寿であれば、深みのある味わいで、飲んだシチュエーションが記憶に残るような商品にすること。このイメージは裏切ってはいけません」
実際にテイスティングをすると、「千寿 純米吟醸」は柔らかいフルーティーな香りがあり、口に含むとすっきりした酸が立ち、軽快な味わい。水飴のような甘みがあり、最後は軽い苦みを伴いつつフィニッシュするお酒でした。
「千寿 吟醸生原酒」は強めのアタックで、甘さと苦みと刺激が最後まで続くボリューム感のあるお酒。生原酒らしいフレッシュさを感じます。
久保田の印象は変わらず、しかし、こんな一面をもっていたのかと驚かされるお酒でした。
「新しい挑戦に対して恐怖心はありませんでしたか?」と問われると、「実際に『久保田 純米大吟醸』は、淡麗辛口の久保田とはイメージが真逆の香り高いお酒になっています。このお酒が評価されたことで、『久保田も変わっていいんだ』という自信に繋がりました」と渡邉さん。
販売者の立場として、山本さんは久保田のリニューアルをどのように感じているのでしょうか。
「大事なのは、これまでと同じように、酒米に五百万石を使っているということ。表現は変えるものの根本は変わっていないのが良いですね。基本的に、お酒は食事と一緒に楽しむもの。良い意味での脇役。食事を引き立ててくれる点は変わらない部分ですね」
8種類の久保田とおつまみのペアリング
「未来日本酒店では久保田とおつまみのペアリングを提案していますが、メニュー開発はどのように進めていったのですか?」と小池。
渡邉さんは「ストレートではなく、カクテルとして提供するほうがおもしろいのではないかという話になりました。考案されたものを試飲したところ、『日本酒=和』という固定観念を覆せるかもしれないと実感したのです」と話します。
イベントでは、久保田とのペアリングを確かめるためのおつまみが提供されました。濃醇な脂のサラミと苦味のある「チーズ」、脂がしっかりのった「〆鯖」、しっかりとした塩気とレモンの酸味が効いている「鶏皮」の3品です。
8種類の久保田を試飲しながら、「千寿と〆鯖がいいかも?」「原酒はサラミがいいかな?」など、参加者同士の会話が生まれ、会場内は和やかな雰囲気になりました。
2020年は、久保田のアニバーサリーイヤー
「これからも新しいプロジェクトを立ち上げていきます」という渡邉さんの言葉に、参加者も期待を寄せている様子でした。
「クラシックなイメージだったが、新しさを感じた」「ラインナップが多くて驚きました。また飲みたいと思うほど美味しかった」などの声が聞かれ、若い世代が新しい久保田に興味を示してくれたようです。
「お客様の反応を直接見られたのがとても良かったです。久保田を知らない人たちとの接点をつくることができたと思います。舵取りは難しいですが、もっと新しいことにチャレンジしたいですね」と、渡邉さんは今回のイベントに手応えを感じていました。
「今年は朝日酒造も久保田もアニバーサリーを迎える"久保田イヤー"になりますね」と、小池が語ったように、2020年は久保田のさらなる進化が見られる年になりそうです。
(文/まゆみ)