男山株式会社のイベント、「男山第38回「酒蔵開放』」が、2月14日(日)に開催されました。
当日は列島が春の嵐に見舞われるなか、普段は雪が降るはずの旭川でなんと雨。雨天は初開催以来、初めてという珍事ですが、悪天候にも関わらず今年も多くの来場が。地元の男山ファンはもちろん、同社は酒蔵見学ができる観光コースにもなっているとあって、国内外からの観光客がバスに乗り大挙して訪れます。
試飲や酒蔵見学はもちろん、平安時代の「かめ仕込み酒」も飲める!
主なプログラムは蔵元限定の酒や酒粕などの販売。種類豊富な酒の試飲や飲食コーナーも充実していて来場客は思い思いにゆっくりと楽しむことができます。
試飲コーナーは大盛況。人気のブランドや蔵元限定品が揃います。右上の写真は米麹と塩だけで作った甘酒の無料サービスの様子。
酒蔵の中ではガラス越しに工場や仕込みの風景を見学することができます。
館内では蔵の歴史や昔の酒造り道具も展示しています。当日は「こも樽」作りの実演も!
特に人が集まっているのが、オープニングで鏡開きをした樽酒、イベント特製の甕(かめ)で仕込んだ昔ながらの酒「かめ仕込み酒」の試飲コーナー。どれも無料とあって大人気。
平安時代の酒造りとは?
ところで、昔の酒とはどんなものだったのでしょうか。
平安時代初期の記録によると、米・麹・水で酒を仕込む方法が整っていたようです。その方法は奈良時代にすでにあったのですが、平安時代になると米と麹を数回に分けて仕込む、今で言う段仕込みの原型のような工夫によって酒質はより濃さを増したようです。
ちなみに、造っていたのは朝廷。当時の政治は祭事そのものであり、その際のハレの日の食事に不可欠な酒を自分で賄っていたのです。今に例えるなら宮内庁が自ら醸造所を運営しているようなものですね。したがって、ひんぱんに庶民の口に入ることはなかったそうです。
その後に発展したのが「僧坊酒」という酒。文字通り、お坊さんがお寺でお酒を作っていたのですが、これの評判が上々だったよう。そこでの酒は麹米と掛け米とも精白米を用い、酒母を使った現代に近い手法、さらに現代の清酒のような透明度により諸白(もろはく)と呼ばれました。しかし希少品ゆえ一部の貴族階級にしか行き渡らず、当時の酒の主流をしめていたのは、にごり酒だったと考えられます。
700年前の酒造りを再現! 男山の「かめ仕込み酒」
男山の甕仕込みの酒は、発酵学・醸造学の権威、小泉武夫氏の指導のもと、1355年に著された「御酒之日記」の記録をもとに醸出しました。今からおよそ700年前、14世紀の酒造りを再現したものということになります。
同社杜氏の北村さんにお話を伺いました。これを始めたのは平成7年。当時の役員が昔の酒造り道具として展示しようと甕を買ってきたのがきっかけでした。どうせなら昔のやり方で造ってみようかと試作したのが「うまい!」と評判になり、以来、イベントの名物になったのでした。
仕込みはイベント開催日に出来立ての美味しさを届けようと、タイミングを見計らって1月に開始。現代では酒母に麹・水・蒸米をそれぞれ、初添(はつぞえ)、仲添(なかぞえ)、留添(とめぞえ)と、3日に分けて仕込む三段仕込みが主流です。回数を分けるのは、徐々に量を大きくすることで、酵母の濃度が薄まらないようにして安定した発酵を図るためです。通常は初添、仲添の間に1日間、踊(おどり)と呼ぶ休みをとります。1日休んでから仕込みを続けることで酵母の増殖を促します。
対して男山が行ったのは酒母を使わない二段仕込み。初添⇒踊⇒踊⇒留添ということになります。当時の酵母は野生のものですが、スケジュールと品質の安定を図るためきょうかい酵母(協会7号)を添加しています。また、配合比率は米に対し水の割合を減らし、甘口で低アルコールの飲みやすい出来上がりを目指します。
甕一個の容量は約200リットル。現代のタンクに比べるとあまりに小さく、そのため温度に左右されやすいという弱みが。たまたまこの1月の旭川は低温が続いたため、管理には特に気を使ったそうです。
仕込みはじめてから約1ヶ月。フレッシュな炭酸の感触とともに鮮烈な酸味、濃醇な旨みある酒が出来上がりました。「美味しいので何杯でもいける」と無料試飲コーナーでは多くの人が何度もお代わりをしています。昔話には一人で一斗飲み干したなんて武勇伝もありますが、こんなに美味しく飲みやすいなら、あながちウソではないような気がします。しかし、木村杜氏いわく、「精米歩合や酵母の質が今ほど優れていなかったから、果たして味はどうだったか」 そうか、美味しい酒に恵まれているのは現代にいる私たちの方なんですね。
見た目と昔の酒というイメージから、どぶろくなの?と思われがちですが、粗くですが濾してあるので分類としては「にごり酒」となります。そうでないと税法上、清酒として販売することができません。
振舞われる甕酒は家でも楽しめるよう500ml入りのミニ甕で販売されていました。
イベントが行われる2月は、北海道内のあちらこちらでイベントが盛りだくさん。来冬、北海道観光をお考えなら、ぜひコースに加えてみてはいかがでしょうか。
(文/KOTA(コタ))
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