ワインのテイスティングでは、外観・香り・味わいを総合的に判断し、使用しているブドウの品種や産地、製造年などを推測します。しかし、日本酒の場合は、原料米の品種や産地などをテイスティングのみで言い当てることは困難です。

第3回インフィニット杯きき酒選手権の様子

日本酒における「きき酒」とは、お酒の特徴を感じ取り、その酒質を的確に表現すること。テイスティングの感覚はもちろん、製造方法に関する深い知見も必要です。

今回は、7月に東京で開催された、インフィニット・酒スクール主催の「第3回 インフィニット杯きき酒選手権」をレポートします。

現役の蔵元もうなる、難易度の高い問題

「インフィニット杯きき酒選手権」は、日本酒のテイスティング能力を試す格好の場。3回目となる今大会では、7人の選手がチャンピオンを目指しました。

第3回インフィニット杯きき酒選手権の様子

まずは予選です。出場選手は5種類の試験酒を、1分半の間にテイスティング。その後、5つの問題が出題され、司会の号令に合わせてスケッチブックに記入した回答を一斉に掲げます。

予選では、試験酒に関する以下のような問題が出されました。

  • 火入れの回数
  • アルコール添加をしているかどうか
  • 使われている酵母の種類
  • 精米歩合
  • アルコール度数
  • メーカー名 など

正解数の多かった回答者2人が決勝へ進出し、同点の場合は、順位が確定するまで追加の問題が出されます。

第3回インフィニット杯きき酒選手権の様子

予選1組目は全員が2問ずつの正解で並ぶ接戦。2組目も、ひとりが勝ち抜けた後に残りが並び、追加の問題が出される展開でした。

第3回インフィニット杯きき酒選手権の様子

決勝では3問正解で2人が並ぶ熱い戦い。最後の追加設問で勝敗が分かれました。同時開催された「若手蔵元トークバトル」に参加していた3人の蔵元も特別に参加しましたが、造り手が苦戦するほど、とても難易度の高い問題だったようです。

今年のチャンピオンは、いち日本酒ファン

厳しい戦いを勝ち抜き、第3回のチャンピオンに輝いたのは、金丸勇太さん。ゲストである株式会社せんきんの薄井一樹さんから、栄えある優勝杯が授与されました。

第3回インフィニット杯きき酒選手権でチャンピオンに輝いた金丸さんと株式会社せんきんの薄井さん

チャンピオンの金丸さんに、話を伺いました。

─ ふだん、どんな形で日本酒に関わっていますか。

いち消費者として、日本酒を通じて知り合った仲間との飲み会を楽しんでいます。仲間うちで日本酒の会を行なうときにお酒をセレクトしたり、職場の仲間と飲むときにおすすめの日本酒を持ち寄って、さりげなく日本酒の啓蒙をしたりしています。

─ なぜ、今回の選手権に参加しようと思ったのですか。

日本酒と料理のペアリングをウリにしているお店へ伺ったときに、料理との相性ではなく、好みの日本酒を出しているような印象で、日本酒と料理の味わいが必ずしも合っていないと感じてしまったんです。日本酒も料理も生かされていないことが、とても残念でした。

しかし、自分が開催した日本酒の会でも、日本酒と料理をあまり良い組み合わせで提供できず、同様の失敗をしてしまいました。その自戒から、日本酒を正確に評価できるようになりたいと思うようになったんです。

そこで、自分の力試しをするために、また、緊張感のある環境のほうがテイスティング能力の向上によりふさわしいと思い、参加しました。

─ 今後、どんな人に出場してほしいですか。

自分と同じように、科学的なテイスティングの勉強に挑戦している、もしくはそれに興味のある人たちに出場してほしいですね。個人的な好みではなく、日本酒と料理を正確に合わせられる人たちの輪がどんどん広がっていくことで、さらに楽しい日本酒ライフを送ることができるのではないかと考えています。

歴代チャンピオンが語る、きき酒の魅力

第1回・第2回のチャンピオンにも、同様の質問を投げかけてみました。

第1回チャンピオン 手塚晶之さん

インフィニット杯きき酒選手権 第1回チャンピオンの手塚晶之さん

─ ふだん、どんな形で日本酒に関わっていますか。

登戸にある手打ちそば屋「更科」の店主を務めています。

─ なぜ、きき酒選手権に参加しようと思ったのですか。

5年ほど前に日本酒を扱い始めたとき、自分が日本酒のことをいかに知らなかったのか気付かされました。

最初は「唎酒師」の資格を取得することからスタートし、その後、当時の講師だった菅田先生のスクールを知り、より深いテイスティングを勉強するために通い始めたんです。無事、スクールの最終ゴールであるプロコースを卒業することができたので、自分の実力がどれくらいのものか試してみたいと思い、参加しました。

─ これから、どんな形で日本酒と関わっていきたいですか。

日々の営業やお店で行なう日本酒会で、日本酒の魅力をお客様にきちんと伝えられていることを実感できるようになりました。今後も、私の理想である「日本酒と蕎麦・酒肴を求め、自然と人が集まるような店」を目指していきたいと思います。

─ 今後、どんな人に出場してほしいですか。

化学的な理論に基づいて日本酒の数値を判断できることは、感性や好みによってブレることのない絶対的な日本酒の味を提示できる能力だと思います。日本酒の魅力を言葉で伝えていく方々には、特に参加していただきたいですね。飲食関係者に限らず、イベントプランナーやインポーターなど、幅広い職種の方々が関わってくれるようになるとうれしいです。

第2回チャンピオン 藤原一三さん

インフィニット杯きき酒選手権 第2回チャンピオンの藤原一三さん

─ ふだん、どんな形で日本酒に関わっていますか。

赤坂見附にあるワイン居酒屋「赤坂あじる亭」に、チーズプロフェッショナル兼ソムリエとして務めています。

─ なぜ、きき酒選手権に参加しようと思ったのですか。

第1回に飛び込み参加したとき、1問も正解できずに予選敗退してしまいました。結果に打ちひしがれているなか、決勝戦で第1回チャンピオン・手塚さんの姿を目の当たりにし、素晴らしいテイスティングに胸が高鳴ったんです。それから、試行錯誤して自分のロジックを追求し、第2回に挑みました。

─ これから、どんな形で日本酒と関わっていきたいですか。

すでに日本酒を好きな方はもちろん、あまり飲んだことがないけれど興味をもっているという方々に刺激を与える活動を行なっていきたいと思っています。また、現職のつながりを生かして、日本酒の専門ではない飲食店の方々に日本酒を知っていただくために働きかけていきたいですね。

─ 今後、どんな人に出場してほしいですか。

出場するにあたって、ふだん飲まないタイプの日本酒を意識的に飲むようにしたことで、自分の好みを知ることができました。自分と同じように、あまり量は飲めないけれど日本酒を飲むのが好きという方も、勇気を出して参加すれば、新しい楽しさを発見できるきっかけになると思いますよ。

ワイングラスにはいった日本酒

日本酒への強い探究心をもつ人ならば、次期チャンピオンの栄冠を手にすることも夢ではありません。第4回のきき酒選手権は2019年夏に開催予定。腕を磨いて出場を検討してみてはいかがでしょうか。

(文/山本清子)

◎取材協力

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