近年、若い日本酒ファンが増えてきました。それでも、ビギナーが初めからお気に入りの日本酒に出会うのはなかなか難しいものです。たまたま飲んだ1杯がイマイチだったからといって、それで「日本酒は美味しくない」「自分には向いていない」と判断してしまうのはもったいないですよね。
毎年開催される、もっとも歴史のあるコンテスト「全国新酒鑑評会」には、なんと800点以上もの日本酒が出品され、同じ酒蔵が造ったお酒でも、銘柄や製法が異なれば、味わいもガラッと変わります。たくさんの種類を飲み比べてみないと、お気に入りの1杯に出会うのは難しいのです。
今回は、日本酒のソムリエ「唎酒師」の視点で、無数にある日本酒のなかからお気に入りの1杯に出会うための方法を提案します。細かい分類や造り方、歴史などの難しいことは後回し。まずは「これだ!」という、ファーストインプレッションを感じることが大事です。
日本酒の表現は、辛口・甘口だけじゃない!
日本酒の味を表現するときには「辛口」「甘口」という言葉がよく使われます。
日本酒造りは微生物である麹菌と酵母の力を借りて行います。まず、麹菌によって米が糖化され 、それを酵母がパクパクと食べることで、アルコール発酵が進むのです。酵母の働きを早く止めると糖分が多く残った甘口に、放っておくと糖分の少ない辛口になります。
しかし、日本酒の味を決める要素は、米・水・麹・酵母・製法などたくさんあるため、実際に辛口・甘口という言葉だけで日本酒の味を表現することはできません。
日本酒のソムリエ「唎酒師」を認定している、日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)では、日本酒の香りや味を「爽酒」「薫酒」「醇酒」「熟酒」の4タイプに分類しています。
どんなタイプの日本酒が好きなのかを理解することで、お気に入りの1杯に出会える確率がきっと高まりますよ。
- 薫酒(くんしゅ)
果実を思わせるフルーティーな香りのあるタイプ。 - 爽酒(そうしゅ)
味わいがもっともシンプルなタイプ。香りは控えめで、軽快な味わい。 - 醇酒(じゅんしゅ)
米の旨味を感じさせるタイプ。ふくよかな香りとコクのある味わいが特徴。 - 熟酒(じゅくしゅ)
熟成させることによって生まれる、複雑で重厚な香りをもつタイプ。どっしりとしたボリューム感のある味わい。
同じタイプに分類されるお酒でも、香りが高いか低いか、味が濃いか淡いかによって、その香味はさまざま。まずは、ざっくりとどのタイプが好きなのかを知り、それを基準にしてお酒を飲み比べてみると、日本酒の多様性がはっきりとわかります。
お気に入りの1杯に出会うための方法
自分の好みに合った日本酒に出会えるためには、大きくわけて3つ。「居酒屋で飲み比べる」「日本酒イベントに行く」「酒屋で試飲する」です。
居酒屋で飲み比べる
居酒屋のなかでも、全国各地の地酒がまんべんなく飲める店がおすすめです。近年は、日本酒に興味をもっている人が増えてきたせいか、日本酒を専門に取り扱う居酒屋や、おしゃれな日本酒バーがあちこちで見られるようになりました。さまざまな日本酒を飲み比べるだけでなく、料理との相性を感じることができるのも、居酒屋の魅力です。
今回は、"全国の日本酒を飲み比べられる"という観点で、2店を紹介します。
- 日本酒原価酒蔵
各地の人気銘柄をリーズナブルな価格で楽しむことができる、日本酒好きに大人気の居酒屋です。都内を中心に多くの店舗を展開しているのも魅力。秋葉原と新橋にある系列店「きさらぎ」では、47都道府県すべての日本酒を味わえる飲み放題プランを用意しています。 - KURAND SAKE MARKET
小規模の蔵を中心に、厳選された全国の日本酒が100種類以上そろっています。料理の持ち込みができる、時間制限なしの飲み放題がなんと3000円。軽く飲みたいという人には、1杯500円のちょい飲みもおすすめです。池袋や新宿、横浜など、アクセスの良いエリアに店舗があるのもうれしいですね。
日本酒イベントに行く
居酒屋で日本酒を飲み比べて自分の好きな味がわかってきたら、次は日本酒イベントに行ってみましょう。「〇〇県の日本酒が好き」「フレッシュな味わいが良い」など、自分の好みに合ったテーマのイベントを探してみるのがおすすめです。
各都道府県にある酒造組合が主催するものや、さまざまな蔵の新酒が一同に集まったものなど、さまざまなジャンルのイベントがあります。お気に入りの銘柄があれば、居酒屋などに蔵の関係者を呼んで開催する「酒の会」に行ってみるのも良いですね。日本酒イベントを探すときに役立つのが「日本酒カレンダー」。全国各地の日本酒イベントがほぼ網羅されています。
酒屋で試飲する
居酒屋や日本酒イベントを通して、自分の好みの1杯に出会えたら、次のステップへ。酒屋でお酒を買ってみましょう。
酒蔵のホームページには、酒屋のリストが掲載されていることが多いので、ぜひお気に入りの銘柄を置いている近所の酒屋を探してみてください。スタッフとの会話が新しい出会いのきっかけになるかもしれませんよ。
日本酒初心者でも行きやすい酒屋を2つ紹介します。
- 未来日本酒店 DAIKANYAMA (代官山)
オンラインショップやイベントなどを通して日本酒販売を行なっていた「未来日本酒店」が2017年7月にオープンした酒屋。発泡酒は「SPARKLING」、熟成酒は「VINTAGE」、果実酒は「DESERT」など、初心者でもわかりやすいようなジャンル分けがされていて、それぞれの日本酒に味の特徴を表現したチャートがついています。1杯300円からテイスティングできる気軽さも魅力です。 - 伊勢五本店 中目黒店 (中目黒)
300年以上の歴史を誇る「伊勢五本店」が2015年11月にオープンした2号店。酒屋とは思えないスタイリッシュな外観で、日本酒だけで300~400種類の取り扱いがあります。角打ちのカウンターもあり、季節のおすすめ銘柄を手づくりのおつまみといっしょに楽しむことができます。千駄木にある本店でも試飲することができます。
好みの日本酒を見つけるためには、居酒屋やイベント、そして酒屋を利用して、飲み比べをしてみるのが一番。みなさんが自分のお気に入りの1杯に出会えますように。
(文/乃木章)