酒屋はもちろんのこと、デパートやスーパー、コンビニにもたくさんの日本酒が並び、ネットショップを利用すれば日本全国の地酒を簡単に買うことができる時代になりました。購入の選択肢が多くなったのは喜ばしいですが、その反面、日本酒ビギナーからは「どれを買えばいいかわからない」「説明が難しい」という声も聞こえてきます。
そこで、現役の酒屋という立場から、日本酒初心者が酒屋でお酒を選ぶときのポイントを紹介します。今回は「自分のためのお酒編」です。
お酒を買うときにまず必要な、頼りになる酒屋の探し方については、前回の記事を参考にしてください。
目当てのお酒に出会う基本は「試飲」
「試飲」して選ぶ
自分が直感的に好きかどうかは、もっとも大切なポイント。酒屋によっては試飲ができる場合もあるので、まずは実際に飲んでみて、その味わいを確かめてみてください。
試飲のポイントは、鼻・口・喉のそれぞれで、お酒の味わいがどう感じられるかを確認することです。一度に多くの種類を試飲すると、さらに迷ってしまうことになるので、2, 3種類で試してみるのが良いでしょう。
季節商品を集めた試飲会や、週末の定例イベントなど、さまざまな企画を開催している酒屋も多いので、その機会を活用してみるのもおすすめです。お気に入りの酒屋があれば、ブログやSNSをチェックするようにすると、たくさん情報が入ってきますよ。
スタッフに相談してみる
店に着いたら、まずは店内をぐるっと回ってみましょう。この時点で気になるお酒があれば、それが運命の出会いになるかもしれません。どれを選べばいいのか悩んでしまったら、店のスタッフに相談するのが吉です。
「好み」を伝える
日本酒の経験がある人は、今まで飲んで美味しいと思ったお酒の銘柄や特徴を伝えてみましょう。無理に日本酒の世界の言葉で話そうとする必要はありません。「スッキリ」「甘い」「味が濃い」など、感じたままの言葉を伝えるのが一番です。
ラベルに書いてある「うすにごり」や「あらばしり」などのキーワードを覚えていれば、それをそのまま伝えるのも有効ですよ。
初心者のうちは「苦手」を伝えない
苦手な味を伝えてしまうと、その要素を含む銘柄が勧めづらくなり、選択肢がグッと減ってしまうこともあります。たとえば、「甘いのはダメ」と言われると、少し甘味を感じる辛口のお酒や、甘味を感じさせる香りのあるお酒などを、おすすめの対象から外してしまうことがあるのです。
日本酒の味わいには、多かれ少なかれ「甘酸辛苦渋(かんさんしんくじゅう)」のすべてが含まれているといわれています。ネガティブな言葉で限定しないほうが、お酒との出会いが広がります。
「シチュエーション」を伝える
飲むシチュエーションも、お酒の美味しさを決める重要な要素です。「少し肌寒い時期に花見で飲むお酒」や「夏の暑い日にキャンプで飲むお酒」など、具体的な場面をスタッフに伝えてみましょう。食事との相性はもちろん、飲むときの温度や保管方法に関するテクニックも教えてくれるかもしれません。
また、シチュエーションに日本酒を合わせることは、"飲んでいるときの気持ちと、お酒の味わいを合わせる"ということでもあります。仲間といっしょににぎやかに飲むなら、甘味と酸味のある華やかなタイプのお酒、恋人と落ち着いた気分でゆっくりと飲むなら、米の優しい甘味があるお酒など、そのときの気持ちに寄り添ってくれるのは、日本酒の魅力のひとつですね。
「合わせる料理」を伝える
もし、いっしょに食べる料理が決まっているのであれば、それを伝えてみましょう。「イカの刺身に合う冷酒」や「おでんといっしょに飲みたい熱燗」など、料理との相性を考えたおすすめの銘柄や飲み方を教えてくれます。
「おすすめ」を聞く
単刀直入に、おすすめの銘柄を聞くのもアリです。ただ、取り扱い銘柄の多い酒販店では、話を聞くスタッフによっておすすめが大きく変わることもあります。
「最近美味しかったのは〇〇」と、スタッフのマイブームから話が始まるパターンや、「今日みたいな暑い日には△△を冷やして飲むのがいいね」と、そのときの季節や天気に合わせるパターンなど、さまざまな展開が考えられます。おすすめされた銘柄をもとに、「好み」や「シチュエーション」の話を交えて、対象を絞っていくと良いでしょう。
わからない「用語」はその場で聞こう
日本酒のラベルを見ていると、「無濾過生原酒」「しぼりたて」「中取り」「日本酒度」など、初心者にとって難しい言葉がたくさん出てきます。しかし実は、"わからない"は、日本酒を知るための絶好の機会。気になった言葉があれば、その場でスタッフに聞いてみましょう。
言葉の説明のみで終わってしまった場合は「それはどんな味なんですか」など、追加の質問をしてみてください。詳しい説明を聞いて興味をもった言葉を覚えて、お酒を選ぶときの参考にしましょう。知らない言葉を少しずつ覚えていくのは、きっと楽しいはずです。
自分で探してみる
酒屋には個人経営の小さな店が多く、タイミングによっては、お酒に詳しいスタッフがいない場合もあります。そういうときは、店内の情報から「これぞ!」という1本を探しましょう。
「旬のお酒」を選ぶ
それぞれの季節に、旬の日本酒があります。季節のお酒は、そのときの気温や気候に合うのはもちろん、旬の食材や料理とも相性が良いものです。初心者でも、ラベルの雰囲気から季節のお酒に出会うことができますよ。
- 春の酒
ラベルには、桜などの花が描かれ、ピンク系の色合いが多い。味わいはやや甘味があって、スッキリとした傾向。 - 夏の酒
花火や金魚の描かれたラベルが多く、涼しげな青や緑がよく使われる。スッキリと爽快な辛口のお酒や、甘酸っぱい味わいのお酒が多い。 - 秋の酒
ラベルに描かれるのは、紅葉や稲穂。オレンジ、茶色、黄色が多い。味がのった濃いお酒が増える。 - 冬の酒:
ラベルのバリエーションはさまざま。フレッシュな味わいのお酒や、アルコール度数の高い原酒などが多い。
「飲んだことのある銘柄」から、別の種類を選ぶ
以前飲んで美味しかった銘柄から、別の種類を選ぶのもテクニックのひとつ。好みだった種類と飲み比べてみるのも楽しいですね。同じ銘柄でも、造りの違い、原料の違い、熟成期間の違いなどによっていくつもの商品があるので、ぜひ試してみてください。
「ラベル(見た目)」で選ぶ
ラベルが魅力的かどうかも大事な基準のひとつ。ラベルには、造り手の個性が強く出るだけでなく、お酒の味わいに通じる部分があることも少なくありません。若い人に向けた酒質のお酒であれば、若い人の目に留まりやすいようなデザインになっていることが多いのです。
しかし最近は、ただ目を引くためだけの"ラベル競争"が激しくなっているようで、ピカピカ光る箔文字のラベルが増えてきました。目立つ・目立たないという基準だけで判断するのは、避けたほうが賢明かもしれません。
飲み比べを楽しむ
複数の種類を飲み比べてみるのも、日本酒の楽しみ方のひとつ。一升瓶を買うのももちろんいいですが、四合瓶のお酒を複数買って飲み比べることで、それぞれの長所や短所がはっきりとわかるため、自分の好みをより理解できますよ。
たとえば、「異なる銘柄で同じ価格帯」「同じ銘柄の異なる種類」「同じ銘柄の通常商品と季節商品」などの飲み比べはビギナーにおすすめです。
わからないことは酒屋に聞こう
それでは、これまで紹介したテクニックをおさらいです。
- 「試飲」して選ぶ
- 「好み」を伝える
- 初心者のうちは「苦手」を伝えない
- 「シチュエーション」を伝える
- 「合わせる料理」を伝える
- 「おすすめ」を聞く
- わからない「用語」はその場で聞こう
- 「旬のお酒」を選ぶ
- 「飲んだことのある銘柄」から、別の種類を選ぶ
- 「ラベル(見た目)」で選ぶ
顔を合わせて直接話をしながら選べる酒屋は、日本酒をより美味しく楽しく飲むための情報を教えてくれる場所。美味しいお酒を、より美味しく飲むための手伝いをしてくれる存在です。
ぜひ、お酒を買いに、近くの酒屋を訪ねてみてください。
(文/小林健太)