「丹後天酒まつり」は、京都府北部の丹後地域と中丹地域で日本酒を醸している酒蔵が一斉に蔵開きを行うイベントです。蔵見学はもちろん、丹後地方の食と日本酒を存分に楽しむことができます。また、酒蔵を周りつつ、丹後の観光地を巡ることが出来るのも魅力のひとつです。
2019年は、5月25日(土)と26日(日)の2日間にわたって開催予定の「第6回 丹後天酒まつり」。これに先駆けて、本記事では2018年の5月に開催された「第5回 丹後天酒まつり」の体験レポートをお届けします。
丹後のお酒と絶景を楽しむ、贅沢な1日目
「第5回 丹後天酒まつり」の一斉蔵開きに参加したのは8蔵です。1日目は、池田酒造(舞鶴市)、若宮酒造(綾部市)、東和酒造(福知山市)、谷口酒造(与謝野町)の4蔵で、蔵開きが行われました。
東和酒造
まず初めに紹介するのは、福知山市の郊外にある東和酒造です。昭和52年に休蔵しましたが、平成23年に復活を遂げました。現在は今川純さんが女性杜氏として酒造りを行っており、酒質もラベルもアートを感じさせてくれます。中軟水を使用し、穏やかで繊細、しっかり味わいがあり、すっきりとした酒質が特徴の酒蔵です。
東和酒造でいただいたのは「福知三萬二千石 Sweet and Sour 純米大吟醸」。
スッキリとした柑橘系の香りと華やかな果実香があり、口に含むとふくよかな旨味が広がります。果実を連想させる含み香があり、フルーツやトマトを使用したサラダに合わせたくなるようなお酒でした。
若宮酒造
次に訪れたのは、東和酒造からシャトルバスで20分ほどの場所にある若宮酒造です。若宮酒造が蔵を構える綾部市は、京都府の北部に位置する市で、絹織物で有名な街。繊維機械産業が盛んで下着メーカー「GUNZE」発祥の地で知られています。
若宮酒造は地域密着型の酒蔵で、地元の農家さんや「JA京都にのくに」と共に酒造りを行っています。本醸造酒をはじめとした味わいがしっかりしているお酒が印象的な蔵で、純米酒の出荷量が増えている中で、アル添酒にこだわった酒造りを行っています。また、軟水を活かしたスッキリしつつも、しっかりとした味わいの酒質が特徴です。
主力銘柄は「綾小町」ですが、この日いただいたのは「星降る夜の夢 大吟醸」です。すっきりとした果実香があり、爽やかな味わいでした。
池田酒造
次に伺ったのは、若宮酒造から日本海側にバスで40分ほど行った京都府舞鶴市にある池田酒造です。
舞鶴市は、日本海側の重要な国際貿易港である舞鶴港と、日本海側唯一の海上自衛隊基地がある町として知られています。池田酒造は、明治12年創業の小さな酒蔵です。地下40mから汲み上げた中軟水を使用し、少量生産で丁寧な酒造りを行っているそう。
池田酒造でいただいたお酒は、主力銘柄「純米吟醸 池雲 五百万石」。すっきりと爽やかで柔らかい飲み口、ふくよかで滑らかな旨味が特徴的でした。
池田酒造がある舞鶴市と、次に紹介する谷口酒造のある与謝野町の間に位置する宮津市は、風光明媚な宮津湾に面する観光地。日本三景の天橋立をはじめとする、魅力あるスポットがたくさん存在しています。去年訪れた際はあいにくの雨でした。今年の「丹後天酒まつり」は晴れ空の下で絶景が楽しめることを祈っています!
こちらは知恩寺の文殊堂。「三人寄れば文殊の知恵」の"文殊"が意味する、知恵を授ける菩薩「文殊菩薩」をご本尊とする知恩寺は、奈良県にある安倍文殊院、山形県の大聖寺とならぶ日本三文殊のひとつとされています。
谷口酒造
日本三景のひとつ天橋立を望んで観光を楽しんだ後は、となりの与謝野町にある谷口酒造へ。創業は明治4年、小規模ながらバラエティーに富んだ品ぞろえが特徴で、社長自ら杜氏を務めています。
谷口酒造は地元産の山田錦に加えて、祝という酒米を使った地域密着型の酒造りを行っています。代表銘柄は「丹後王国」と「若冲」。「若冲」は有名な絵師、伊藤若冲にちなんだ銘柄です。
谷口酒造でいただいたお酒は「蕪村翁(ぶそんおう) 純米吟醸生原酒」。ふくらみのある旨味がありますが、後半はスパッとしたキレの良さが特徴的でした。和食、中華から洋食まで幅広く料理に合わせたいお酒です。
2日目は京丹後市の有名蔵へ
2日目は、木下酒造(京丹後市久美浜)、熊野酒造(京丹後市久美浜)、白杉酒造(京丹後市大宮)、与謝娘酒造(与謝野町)で蔵開きが開催されました。2日目については時間の都合上、白杉酒造を除く3蔵を周っています。
与謝娘酒造
与謝野町からスタートし、まずは前日に訪ねた谷口酒造から徒歩4分の与謝娘酒造に伺います。明治20年創業の与謝野酒造は、地元のこしひかりやブランド米を利用した酒造りで、谷口酒造同様に地域密着型の酒蔵です。
スパークリング日本酒やワイン酵母を使用したお酒、地元の果実を利用したリキュール等、古くからの日本酒造りと現代のトレンドを捉えたユニークな酒造りを行っています。
テイスティングしたのは「KAGUYA」の特別純米酒です。微炭酸を感じるドライで滑らかな飲み口で、繊細な旨味を感じます。おろしそばなど、さっぱりとした食事に合わせてみるのも良いかもしれません。
与謝野町から電車とバスを乗り継いで1時間半ほど。京丹後市へ向かいます。京丹後市は豪雪地帯に地域指定されており、かつては北前船の寄港地として栄えた歴史ある町です。また、複数の優良な海水浴場と温泉があり、中でも夕日の名所である夕日が浦は、ぜひ訪れたい観光スポットです。
木下酒造
次に訪れたのは木下酒造。天保13年創業で代表銘柄は「玉川」です。日本酒ファンならば知っている方もおおいはず。イギリス人のフィリップ・ハーパー氏が杜氏を務める有名蔵で、ラインナップには生酛や山廃を中心とした力強い旨味が特徴のお酒が並びます。
木下酒造でいただいたお酒がこちらの「玉川 人喰い岩 特別本醸造」です。すっきりシャープな飲み口で、旨味が広がります。唐揚げや干物など、比較的味がしっかりしている食べ物に合わせたくなるお酒でした。
熊野酒造
続いて伺ったのが、木下酒造から徒歩20分の場所にある熊野酒造です。代表銘柄は「久美の浦」。海がすぐそばにある酒蔵で、昭和19年創業の比較的若い酒蔵です。太平洋戦争中の企業統合で生まれ、精米歩合にこだわりを持ち、比較的香り高く優しい味わいのお酒が多いのが特徴です。
熊野酒造でいただいたお酒が、こちらの「久美の浦」の特別本醸造。穏やかな柑橘系の香りがあり、口に含むとふくよかな旨味と、すだちのような含み香が感じられました。
酒蔵を軸に、地域そのものを堪能する
今回は、オフィシャルバスツアーを利用せずに、丹後鉄道とシャトルバスで参加しました。京丹後地方は、もともと観光資源や食や酒が豊富な地域で、近年では観光列車が毎日のように走っており、観光にうってつけのエリアだと言えます。
今回はお酒と観光地の紹介となりましたが、蔵開きでは蔵ごとに地域の食ブースが設けられ、お酒、食、観光をそれぞれ存分に楽しめるイベントとなっています。ぜひ「丹後天酒まつり」をきっかけに酒蔵ツーリズムを楽しんでみてはいかがでしょうか。
(文/石黒建大)