滋賀県にある琵琶湖の北西部・高島市の湖岸近くにある上原酒造。ここで7月22,23日の2日間にわたって「初呑み切り」が行われました。
「呑み切り」とは、冬に仕込んで貯蔵したお酒がどの程度熟成したか、どのように味わいが変化したかなどを確認する蔵の大切な行事。樽(タンク)の吞み口の封印を切ることから「呑み切り」と呼ばれ、特にその年に初めて行う「呑み切り」のことを「初呑み切り」といいます。
手間を惜しまない、ていねいな造りにこだわる
1862年から創業している上原酒造は"旨口"の味わいにこだわる蔵で、全生産量の約70%が山廃仕込み。さらに酵母の添加は一切行わず、長年蔵に住みついている蔵付の天然酵母を、低温(9℃以下)で1ヶ月近くかけてじっくりと育てています。
上槽には、木槽の天秤しぼりを採用。
石の重みでじっくりと加圧しながらお酒を搾っていきます。圧搾機を使えば1日で終わる作業を、3日間かけて行っているのだとか。
圧搾機でお酒を搾っている時期もありましたが、ゆっくりと圧力をかける方が雑味のない旨口のお酒になりやすいため、大吟醸酒を含めた全量を木槽天秤しぼりにかけています。夏場には木槽や天秤棒、タンクに上るはしごなど、すべての木製品に防虫・防腐効果のある柿渋を塗っているのだそう。
仕込みは木桶で行い、蒸米に使う甑(こしき)も木製のものを使っています。
木製の甑は、しばらく使わないと木が乾燥して縮んでしまい隙間ができるため、水や湯を入れたりかけたりして水分を吸わせることで少しずつ膨張させ、隙間をなくしているのだとか。
一般参加が可能な、上原酒造の初呑み切り
初呑み切りは蔵にとって重要な行事のため、関係者だけで行われることが一般的です。しかし上原酒造では、広く意見を聞きたいという考えのもと、20年近く前から一般の方々にも開放しています。
例年2日間開催され、200~250名の参加があるのだとか。イベントではなく仕事の延長として行っているため、現時点では参加費などの徴収はしていません。なんと今年は2日間で287名と、過去最高の参加者数だったそう。酒販店や飲食店の人も参加されていましたが、ほとんどが一般消費者だったようですね。
すでに出荷されているお酒をはじめ、タンク貯蔵(熟成中で未出荷)のお酒や瓶貯蔵のお酒など、約50種類をきき酒しました。
きき酒が始まると、並んでいるお酒の一覧とアンケートが渡されます。アンケートには、タンク貯蔵酒の中から気に入った1本を選ぶ項目がありました。これは「ひやおろし」を選考するためのもの。今年のアンケート結果では、玉栄を使った11BYの特別純米酒が一番人気でした。候補に上がったお酒を9月に再びきき酒し、「ひやおろし」として発売するものを決定します。
初呑み切りの後は、蔵のショップで買い物をすることもできました。
ショップの中には比良山系の伏流水が湧き出す水場があります。このあたりでは「川端(かばた)」とよばれ、多くの家庭にあるのだそう。もちろんこの水は、お酒を造る仕込み水として利用されています。
蔵の重要な行事「初呑み切り」を体験したことで、種類による味や香りの違い、熟成させたお酒の魅力を感じることができました。このような取り組みを通して、多くの方が日本酒の奥深さを知り、ファンが拡大していくことを期待しています。
(文/天田知之)