「作(ざく)」で有名な清水清三郎商店株式会社と、国内最大規模の化学メーカー三菱化学株式会社の共同開発により、前代未聞の酒「concentration 作 凝縮H」が生まれました。
3月30日に発売開始となったこの新商品。3月14日に表参道「MIZU cafe」で行われた新商品発表会兼試飲会の様子をレポートいたします!
なぜ化学メーカーと老舗酒蔵が共同開発したのか!?
三菱化学株式会社は、株式会社三菱ケミカルホールディングス傘下にある国内最大規模の化学メーカーで、樹脂や自動車、ヘルスケアをはじめとする様々な分野で私たちの生活を支えてくれています。
日本酒とは無縁に思われる化学メーカーが、なぜ新しい商品を酒蔵と共同開発したのでしょうか?三菱化学株式会社 機能化学本部 和賀本部長より、この商品が生まれた経緯と目的についてご説明いただきました。
元々「concentration 作 凝縮H」は、2016年5月26、27日に開催された伊勢志摩サミットのために企画・開発されたお酒です。「日本の高い技術(化学)」と「日本の美味しい食文化(日本酒)」をコラボレーションさせることで、日本の技術と文化のすばらしさを海外に広くアピールしていくことを目的に商品化されたそうです。昨年はサミットで提供される分のみの生産でしたが、今年は改良を重ね、満を持して一般販売に至ったとのこと。
「化学×日本酒」とだけ聞くと、醸造のプロセスで日本酒に化学反応が起こっているのではないか…?と少し不安になってしまいますが、決してそのようなことはなく、あくまで純粋な物理的反応を用いることにより、ギュッと凝縮したお酒に仕上げているそうで、「食の安全は担保しています」と話していました。
しかし、やはり多くの酒蔵は化学メーカーと組んで商品をつくることに抵抗があったようで、応じてくれる酒蔵はほとんどなかったようです。そんな中、唯一手を挙げたのが、清水清三郎商店株式会社。1869年創業の老舗酒造です。
蔵の代表銘柄「作」に、「飲む人や出会った人たちみんなで作り上げる酒」という願いが込めたように、新しいものをつくることに躊躇しない、チャレンジ精神のある蔵でもあります。今回、このように化学メーカーとの共同開発に踏み切ったのも「作」らしい取り組みであるように思われます。
どのような化学技術を使って、どんなお酒が出来上がったの?
「concentration 作 凝縮H」はどのようなお酒なのか、機能化学本部 垣内様より、製法についてご説明いただきました。
「concentration 作 凝縮H」は、簡単に言うと「特殊なゼオライト膜を用いて水分のみ抜き取り、旨味と香りとアルコール成分を凝縮したお酒」だそうです。
ゼオライトとは「沸石(ふっせき)」を語源とする0.4ナノメートルの均一な穴が空いた素材で、一般的には有機溶剤の脱水に使用されることが多いものです。今回はその技術を醸造酒に応用した珍しい事例だそう。
お酒のように水分が多い酸性物質はゼオライト膜にとって難しい素材であり、三菱化学が「耐水性」と「耐酸性」に優れたゼオライト膜の開発に成功したことによって初めて、凝縮酒の開発が可能になったそうです。
ゼオライト膜 KonKerTM
具体的な製法としては、ゼオライト膜の外側にお酒を置き、真空ポンプで引っ張ることで、ゼオライトの穴よりも小さい水分子と、ゼオライトの穴より大きいアルコール成分や旨味成分を分離させ、お酒そのものを凝縮させているそうです。
このゼオライト膜の技術を使ってお酒を凝縮させることで、アルコール度数がなんと30%というお酒が生まれたのです!
その度数の高さゆえ、酒税法上は「日本酒」ではなく「雑酒」に分類されてしまうそうです。醸造酒なのに、発酵では困難なレベルにまでアルコール度数と旨味を凝縮することに成功した、革新的なお酒なのですね。
日本酒の常識を覆す「concentration 作 凝縮H」の魅力
まだ見ぬ「concentration 作 凝縮H」の味わいに会場全体が胸を高鳴らせる中、「作」の蔵元である清水清三郎商店の清水社長が登場。はじめに、昨年の伊勢志摩サミットがいかに画期的で、日本酒業界にとって意義のあるものであったかを、お話いただきました。
「これまでの日本人は、外国から偉い人が来ると、フランス料理とフランスワインでおもてなしするのが正しい接待とされてきました。しかし昨年の伊勢志摩サミットでは、日本酒で乾杯をして、日本食でおもてなしをしました。これは後世の歴史にも残るほど画期的なことでしょう」と清水社長。
2008年に開催された洞爺湖サミットでは磯自慢(静岡)が乾杯酒として用いられたことが大きなニュースになりましたが、それだけ外国人に日本酒を振舞うのは珍しいこと。しかも昨年は、乾杯酒だけでなく、提供されるお酒すべてが日本酒と日本ワインだったことが、特に革新的であったそうです。
和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたように、日本の伝統的な食文化のすばらしさは、世界規模で見直されているのですね。
それでは、気になる「concentration 作 凝縮H」のお味はいったいどのようなものでしょうか。待ちに待った試飲タイムです。
ワイングラスで配られた「concentration 作 凝縮H」。
グラスに顔を近づけてみると、まるでウォッカのような、しっかりとしたアルコールの香りがして、それを嗅いでいるだけで心地よいほろ酔い気分に。
ひとしきり香りを楽しんでから一口いただいてみると、ぐわっと押し寄せる、勢いのある味に圧倒されます。アルコール度数が高いため、第一印象は蒸留酒のような味わいなのですが、口に含んだままじっくり味わってみると、確かにその味は日本酒の甘みや旨みの要素から生まれていることが分かってきます。
…とは言え、日本酒という概念が覆される、衝撃的な味わいです。
実はこのお酒をリリースするにあたり、清水社長が悩まれたポイントがあったそうです。それは、このアルコール度数30%という唯一無二のお酒を「どのようなシチュエーションで、どのような料理に合わせるべきか」、ということです。
アルコール度数が30%もあると、一般的な日本酒を飲む感覚とは大きく異なってきます。水と氷を入れれば飲みやすくなるものの、それでは凝縮酒を造った意味がありません。
そこで、悩んだ末に見出したのが「食後酒」という楽しみ方。
食後酒は、食事の後にアルコール度数の高いお酒を少量飲み、消化を促進したり、気分を切り替えたりする効果があります。「concentration 作 凝縮H」は、グラッパやレモンチェッロのような食後酒としての楽しみ方が最適なのではないかと、清水社長は提案されています。
「concentration 作 凝縮H」と合うおつまみも、いつもの日本酒のアテとは異なってきます。今回は、清水社長が選んだ、本銘柄にぴったりなおつまみをいただきました。
右から、とらやの羊羹、フレッシュチーズ&ドライパパイヤ、オーガニックロウチョコレート、奥の真ん中はコンテチーズです。
まずは、とらやの羊羹からいただきました。甘みの強い羊羹と日本酒を合わせる機会はあまりないものですが、この「concentration 作 凝縮H」と羊羹は、なかなかの好相性。羊羹の甘みにズバッとお酒が突き刺さり、潔い組み合わせです。
チョコレートは、甘さ控えめでカカオ成分が濃いタイプ。「concentration 作 凝縮H」と合わせると、カカオの苦味と旨味にお酒の魅惑的な香りと凝縮感ある旨味が絡みつき、これぞ"大人のマリアージュ"というべき奥深い世界が広がります。この組み合わせは、女性陣に大好評のようでした。
フレッシュチーズ&ドライパパイヤは、チーズのコクとパパイヤの甘い酸味が、日本酒と絶妙に融合。強く感じられた「concentration 作 凝縮H」のアルコール感が和らぎ、しみじみ味わうことができました。
コンテチーズは、ギュッとした凝縮感がお酒の凝縮感とマリアージュ。この中で唯一、甘味のないおつまみでしたが、そのボリューム感ある味わいがお酒と好相性でした。
しばらくすると、もう1杯お酒が運ばれてきました(写真左)。こちらは、「concentration 作 凝縮H」のベースとなっている純米酒「作 穂乃智(ほのとも)」。実は、「concentration 作 凝縮H」の「H」は、「穂乃智」の「H」なのだそうです。凝縮酒の開発にあたり、作シリーズのいろいろなお酒で試作をされた結果、穂乃智が最もこの製法に適しているとのことで、採用されたそうです。
穂乃智を凝縮酒と比べてながら飲んでみると、まったく違うお酒のように感じられます。穂乃智はスッキリしつつも米のコクと甘味があり、食中酒に最適な味わいです。
ちなみにこちらは、千葉県の菅原工芸硝子株式会社とのコラボレーションにより生まれた、「concentration 作 凝縮H」を美味しく飲める日本酒・リキュール用グラス「osake_glass」です。
「これからの日本酒業界、ただお酒を造るだけでなく、それを楽しむシーン・空間・シチュエーションまで提案する必要がある」という清水社長の言葉が印象的でした。
2000本限定「concentration 作 凝縮H」は3月30日から発売開始!
三菱化学が酒蔵と共同開発したのは、実は今回が2回目だそうで、今後も新しい酒蔵との共同開発を進めていくとのこと。また、ゆくゆくはワインにもこの技術を応用していく可能性もあるそうで、これからの日本酒×化学に大注目です!
「concentration 作 凝縮H」は、3月30日(木)より「はせがわ酒店パレスホテル東京店」で発売が開始されています! (税抜5,000円/375ml)
2000本のみの限定発売ですので、早めのお買い求めをお勧めします。驚くべき凝縮感に、度肝を抜かれること間違いありません。
(文/平井遥)