SAKETIMESライターの津川苑葉です!
「周囲の女子がスイーツを注文する中、一人だけ熱燗で粘っている」……それが津川。
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バレンタインを翌週末に控えた2月7日、人々の喧騒で賑わう銀座。
世界初の日本酒カクテル専門店SAKE HALL HIBIYA BARにて、ショートショート作家 田丸雅智「海酒」のコラボレーションイベントが開催されました。
「海酒」とは、ショートショート界の若き旗手、田丸雅智(たまる まさとも)による作品の1つ。この幻想的な作品において、「海酒」は主人公に故郷の海を思い出させる最も大切な役割を果たしています。(※ショートショート「海酒」田丸雅智インタビュー(前編)をご参照ください。)
全国各地の海が味わえるという「海酒」の世界
「SAKE HALL HIBIYA BAR」の日本酒カクテルではどのように表現されるのでしょうか?
イベント当日、「SAKE HALL HIBIYA BAR」のドアを開けると「海酒」の生みの親、田丸雅智さんが出迎えてくれました。
少し緊張気味ながら、誠実さを感じさせる笑顔の田丸さん。「海酒」インスパイアカクテルを味わうのは田丸さんも初めてとのことで、『海酒をどう表現していただけるのか……僕も気になっています。』と語ってくれました。
まずは田丸さんを囲んでのトークショー。参加者はほぼ全員が田丸作品のファンであり、家族のように親密な雰囲気が感じられます。
編集者と共にデビューのきっかけや、著書の「夢巻(ゆめまき)」、そして「海酒」が収められている「海色の壜(うみいろのびん)」(ともに出版芸術社)などについて語られました。
お話のお供には「サキニック(日本酒ベースのカクテルの1種)」、純米酒「五橋(ごきょう)」です。「五橋」は田丸さんの故郷である愛媛の海を挟んで向こう側、山口県の酒井酒造株式会社で醸されており、錦川の伏流軟水(ふくりゅうなんすい)特有のソフトで香り高い酒質が特徴です。
今回のカクテルは全て酒井酒造のお酒が使用されていました
「SAKE HALL HIBIYA BAR」の日本酒カクテルの最大の特徴は、日本酒の味わいがしっかりと楽しめる点です。特にサキニックは基酒(もとざけ※日本酒カクテルベース専用日本酒)をソーダとトニックウォーターで割り、柑橘のピールで香りづけしたシンプルなカクテルです。この、基酒を変えることで酒の特徴が味わえます。
五橋のサキニックは、炭酸のすっきりとしたのどごしと柑橘の引き締まった香りの中にも、山口の軟水で醸された豊かでまろみのある酒の味わいが感じられました。サキニックと、五橋の純米酒で言葉もますます滑らかになった田丸さんの声に、参加者の華やいだ声が重なります。
『今年は、4社以上からの出版が決まっています。』
そんな田丸さんの報告に、ひときわ大きな歓声があがりました。いち早く田丸さんの才能を見出し応援し続けてきたファンにとっては、「とうとう……」という気持ちが強いのでしょう。
盛り上がりをみせる参加者の前に、次のお酒がやってきました。作中で主人公が注文した海酒の産地「三津」は田丸さんの故郷に実在する愛媛の浜辺です。この三津浜を飛行機から見下ろすと、海と浜辺とみかん畑の3色にくっきりと分かれて見えるのだそう。
この光景をイメージして創られたカクテルが「三津浜」です。
目に沁みるようなブルーに輝く酒は三津の海を、グラスの縁のわずかに緑がかったシュガーは浜辺を、伊予柑ピールはみかん畑を表しています。伊予柑の香りの中に五橋のふくよかな香りが重なりあい、渾然一体となる瞬間。
のどかな三津浜の風景がふと目に浮かぶようです。
『田舎の海を思い出す味。初めて飲んだのに懐かしい。』と、田丸さんをはじめ、参加者も大絶賛でした。
『作品を読んで“しょっぱい”イメージが感じられなかったので、浜辺はシュガーで表現してみました。』と語るのは日比谷Barのプロデューサーである山本利晴さん。
田丸さんは以前、ある企画を通して「MOTOZAKE」をテーマにしたショートショートを書きました。
その際のご縁により、本日のイベントが開催されることになったのだそう。酒と文学の出逢いが混ざり合い、新たな味わいが生まれる。このイベント自体が、まさに日本酒カクテルのような相乗効果をもたらしているようです。
※「三津浜」を飲みたいという方は、SAKE HALL HIBIYA BARにて『「海酒」イベントのカクテルをください!』と注文していただけると味わいを再現してくださるそうです!
田丸さんの創作に対する基本姿勢と日本酒との共通項
『「たまたま出来た」が嫌いなんです。ねらい通りにウケて、ねらい通りに伝わる。これが理想です。もともと自分が理系だからなのでしょうね』
ショートショートは文字数に限りがあるだけに、枠組みをしっかりと作らなければ良いものは出来ません。
日本酒造りも杜氏による綿密な「酒質設計」、つまりどんな味わいの酒をつくりたいか、そのためにどんな原料を使用し、工程をたどればよいのかという綿密な設計が必要とされます。
日本酒と田丸さんのショートショートとの意外な共通項が、だんだんと浮かびあがってきました。
伊予柑のフレッシュカクテルは、田丸さんの故郷、愛媛の名産品である旬の伊予柑をつぶし、基酒(五橋)を注いだものです。伊予柑のとがりすぎず丸みのある酸味の後、五橋の風味がふんわりと広がり、疲れた喉を潤してくれました。
参加者の心がほぐれ、いっそう和やかな雰囲気となった頃。
今回のメインイベントの一つである「海酒」の漬け込みが始まりました。
「錦川(「五橋」の酒粕から作られた粕取り焼酎)」へ、海に深くかかわる「あるもの」を漬けこむというもの。
この「あるもの」……なんだかわかるでしょうか?気になる方はぜひ、ショートショート「海酒」を読んでみてください。田丸さんの手により付け込まれた「海酒」は、1年の後に開封される予定です。
「1年の熟成の後、『海酒』と田丸雅智にはどんな変化がもたらされているのか……」デザートの発泡純米酒「ねね」(酒井酒造)にバニラアイスを浮かべた「日本酒版クリームソーダ」をいただきながら、そんな思いを巡らせた参加者もいたことでしょう。
豊かな発想が精巧に組立てられた田丸雅智のショートショート。
現在の作品が、山田錦を磨きに磨いて作り上げられた大吟醸ならば、1年の後にはふくよかな広がりと深みを感じさせる、熟成古酒のような味わいを醸しているかもしれません。
田丸さんのショートショートには、文学好きばかりでなく日本酒好きをも楽しませる香りと味わいが含まれているかのようでした。
ショートショートファンも日本酒好きも、今後の田丸雅智さんの活躍に注目です!
※本イベントのオリジナルカクテルは当日限定です。サキニックや日本酒をアレンジしたカクテルは「SAKE HALL HIBIYA BAR」で飲めます。
【協力】
・株式会社 出版芸術社
・「SAKE HALL HIBIYA BAR」
・田丸雅智個人サイト「海のかけら」
・株式会社 環境開発計画
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