こんにちは、SAKETIMESライターの山口直樹です。
普段は北陸・新潟の日本酒と食材にこだわりぬいたお店「方舟」にて飲食店の現場にたっています。
今回は似た言葉ながら違った印象を与える「熟成」と「老ね(ひね)」(※老ねとは劣化のこと:ご参考に「日本酒の老香とはなにか」をご覧ください。)の違いに関して私なりに考えてみました。
皆さんはこの2つの言葉を聞いて率直にどのようなイメージを持ちますか?
肯定的表現と否定的表現
多くの方が、語感の響きや漢字の印象で「熟成」=肯定的、「老ね」=否定的なイメージを持つのではないかと思います。
まさにそれが正解で、1つの同じ現象をどのように解釈するかでこの2つの言葉の違いがあると思います。
どんな事柄でも事実は1つですが、解釈は無数に存在するのです。
製造職は減点方式、営業職は加点方式
日本酒のテイスティングは長い間、減点方式が主流でした。なぜなら、評価する人が主に製造に携わる責任者であったためです。
製造者がティスティングする場合1つの製品に対して、「欠点を全て無くしていきたい」とひたむきに考え試飲をします。究極を追求する姿は職人として尊敬に値する姿です。
故に酒の中から敢えて欠点を探し出して、次回の造りにその欠点を無くす努力をしていこうという前向きなテイスティングであっても、出てくる表現や語感は否定的になりがちです。
一方、ヨーロッパではソムリエという職業が確立されており、ソムリエ流のテイスティングが主流です。いわば営業職であるソムリエとしては、どんな事象に対してもお客様に説明する場合は肯定的表現を用いて、いかに「おいしそう」と思ってもらえるかを追求しなければなりません。故にお酒を褒める加点方式がソムリエ職のテイスティングの仕方になるのです。
立場が違う両者が1つの事象に向き合う事で2つの別々の表現が生まれたと言っても過言ではないでしょう。因みに、このどちらでも無い第3者の立場に「消費者」が居ます。消費者としての試飲は自分が好きか否か。その1点で事足りるわけです。
私なりの使い分け
ソムリエは営業職である一方で、正当なお酒の評価者でなくてはいけません。例えば、この商品を仕入れるか否かを選択する段階では、ソムリエも否定表現と肯定表現を使い分ける場合があります。
私なりの使い分けは、同じエイジングのニュアンスであっても「枯れた味わい」=「老ね」。「とろみのある味わい」=「熟成」と使い分けています。
同じ時間を経るという変化があったとしても、保管の状態や、そもそも熟成に向くお酒であるか否か?ピークを迎える前なのかピークを過ぎたのか?といった判定はワイン同様、日本酒においても行われるべきであって、実際に存在することだと思います。
人間でもいい年齢の重ね方をしていれば艶があって深みが増していきます。
一方で好ましくない年齢の重ね方を老化、老けると表現します。
お酒の表現もこれと全く同じということです。
お互いに良い歳の重ね方をして行きたいものですね。
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