兵庫県篠山市で毎年開かれる酒造関係者対象にした兵庫県酒造大学講座が、今年も開催されました。一時は4,100名ほどいた出稼ぎの蔵人の技術向上を目的に、蔵入り前の夏の時期に行われてきた本講座も、なんと113回目の開催。つまり113年の歴史がある講座なのです。

酒造りから一般教養まで幅広く学ぶ2日間

sake_g_syuzoudaigaku_00

今年の参加者は120名ほどで、そのほとんどが兵庫県各地の酒造会社の社員のみなさんです。ですが、中には酒造関係以外の一般参加者の姿もありました。平日の開催にもかかわらず熱心に日本酒の知識を高めたいという人たちがいることは、日本酒業界にとって心強いことです。

酒類総合研究所からお越しいただいた講師の吉田先生の「良酒を造るのは愛情である。愛情の対義語は無関心です」という一言がとても印象的でした。

この数十年、日本人が自国の酒文化にあまりにも無関心であったことが、日本酒業界を縮小させる大きな要因だったと思います。つまり日本人の日本酒に対する愛情が消費者にも生産者にも欠けていたということです。しかし、少しずつ日本酒に対する愛情を持った方が増え始め、多くの関心を集めていることは事実でしょう。

しかしながら、ようやく関心を集め出した日本酒業界にして、"知識不足"がゆえの誤った情報を各種メディアで見かけることがあります。一般の方が日本酒のことをもっと知ろうとしている中、"専門家"を名乗る人たちが偏った見識で日本酒をミスリードしていくことがないよう、私自身も、さらなる知識の研鑽が必要だと感じます。

sake_g_syuzoudaigaku_02

講義は2日間おこなわれます。原料処理から麹作り、酒母、もろみ管理、上槽後の処理などの各酒造工程に関する内容から、酒類業界、一般教養についてまで幅広い知識を身につけていきます。

"普通の晩酌で楽しめる"を大切にする丹波杜氏

講義終了後には、春に行われた「きき酒会」の成績発表と永年勤続者への表彰状授与が行われました。

丹波杜氏組合では、醸造技能の成績優秀者を選定するにあたって「普通酒の部」と「純米酒の部」を審査していますが、「純米酒の部」よりも「普通酒の部」での成績を上位と定めています。これは丹波杜氏と灘の酒造会社が、第二次世界大戦時の原料米不足から生じた様々な経験をもとに、一般の人がいつも気軽に楽しめるお酒こそ最も大切にいていこうとした姿勢の表れです。

最近は大吟醸酒や吟醸酒の生産が伸び、そのニーズに伴う多種多様な酒造り技術が求められていますが、コストパフォーマンスに優れた"普段の晩酌で楽しめる日本酒"を届けることに、丹波杜氏の想いがあるのです。

幅広い人へ日本酒を届けるために

丹波杜氏組合員の勤める会社の多くは、灘や丹波に工場を持つ伏見の大手酒造メーカーです。大手であっても、機械によるオートメーションで酒造りが行われているわけではありません。年間醸造で大量生産を行う部署もあれば、地方の造り酒屋と同じように、冬場に手間を掛けた仕込みを行っている部署もあるのです。

また低価格な日本酒でも、それが"いい加減な造り"ということは決してなく、むしろ、持てる技術を最大限活かすことで"高品質で低価格"なお酒を実現しています。

普段、発泡酒や酎ハイなどを楽しむ方々に対して、同じような価格帯の日本酒を提供し、選んでいただくことには意義があると思います。米とともに文化を育んできた日本人が、米を原料にした酒をできるだけ幅広い層に届けることも、日本酒業界の使命ではないでしょうか。

純米酒であっても、アルコール添加した酒であっても、ときには増醸酒ですら、それぞれの役割において人々にアルコール飲料の楽しみをつくることは意義があり、より多くの人が親しめて、笑顔になるような酒こそが"本当の良酒"であると私は考えます。

丹波杜氏の先人の残した伝統は、日本酒とともにこれからも受け継いで行かなければなりません。丹波杜氏という日本の酒造りを支えてきた職人集団の、技術だけでない伝統や文化を多くの人に伝えるべく、これからも活動していきたいと思います。

(文/湊洋志)

関連記事