造り手としてまだ経験が浅い20代だけで造る日本酒として、2014年に誕生した日本酒「二才の醸(にさいのかもし)」。
その特徴のひとつが、造り手が30代になる前に、次の20代の酒蔵に銘柄ごとバトンを渡すリレースタイルで引き継がれることです。そして今回、3代目である茨城・青木酒造の青木知佐さんから、4代目となる新潟・天領盃酒造の加登仙一さんへとバトンが渡りました。
加登さんはどのような思いを込めて「二才の醸」の造りに挑んだのか。引き継ぎの経緯とあわせてお伝えします。
蔵から蔵へと受け継がれるブランド
「二才の醸」は、2014年に埼玉・石井酒造から生まれた銘柄です。26歳のときに8代目の蔵元に就任した石井酒造の石井誠さんは、酒造業界の社長に年長者が多いことから、周囲から「青二才」と陰で言われることがあり、肩身の狭い思いをしていたといいます。
そんなとき、「20代でもおいしい酒が造れるところを見せよう」と誕生させたのが「二才の醸」。「青二才」の「青」をあえてつけないことで、「若くても胸を張って酒造りに挑戦する」との想いが込められています。
しかし、2回目の造りを終えたところで、「自分が30歳になったら、もう青二才とは言えない。かといって、せっかく立ち上げた銘柄を終わらせるのはもったいない」と頭を悩ませた石井さん。
そこで、20代だけで酒造りができる酒蔵に銘柄を譲渡することを決め、新潟県・宝山酒造の渡辺桂太さんが2代目に就任しました。
石井酒造の石井さんから銘柄を引き継ぎ、2代目として2回の造りを無事に終えた宝山酒造の渡辺さん。3代目のバトンは茨城・青木酒造の青木知佐さんに渡りました。
しかし、青木酒造には、青木さん以外に20代の造り手ががいなかったため、SNSなどを利用して酒造りに参加したい20代を集め、これまでとは異なる造りに挑みます。「二才の醸」の3代目として酒造りを終えた、青木さんは次のように話してくれました。
「計2回の造りには、のべ40人の20代が参加してくれました。日本酒に興味を持っている若者は思っていたよりたくさんいるんだなと感じましたね。お酒の出来も満足のいく仕上がりでしたし、参加してくれたメンバーとは、その後も交流があります。本当に『二才の醸』を引き継いでよかったです」
20代だからこそできる酒造りに挑戦
2019BYの「二才の醸」が完成したあと、青木さんは4代目を探すために動き出します。ところが、「蔵元やその家族が20代の酒蔵」と考えると候補が少なく、なかなか決まりません。
そこに追い討ちをかけたのは、新型コロナウイルス感染症の拡大。「こんな状況で、4代目のバトンを受け取ってくれる人はいないのでは」と、青木さんの不安は大きくなっていきました
そこで、初代の石井誠さんに相談すると、「24歳で蔵を買収した天領盃酒造の加登仙一さんはどうだろう」とアドバイスをもらいます。そこで、2020年4月、青木さんは天領盃酒造の加登さんに4代目の就任を依頼しました。
加登さんは、2018年3月に天領盃酒造を個人で買収し、24歳にして全国最年少蔵元となった人物。もともとは証券会社に勤めていましたが、「自分で日本酒の事業を手掛けたい」との思いが募り、酒蔵の買収を決意しました。
加登さんがオーナーに就任してからは酒蔵の立て直しを進める一方で、体制が変わる前から続く主力銘柄「天領盃」とは別に、特約店限定で流通する「雅楽代(うたしろ)」を2019年の春にリリース。それからは「雅楽代」を軌道に乗せるため、加登さんは奔走します。青木さんから声を掛けられたのは、ちょうどそんな時期でした。
当時の天領盃酒造には、27歳の加登さんのほかに、20代の蔵人が2人在籍していました。栃木県出身・29歳の荒井諒さんと、兵庫県出身・21歳の中山龍樹さんです。加登さんは4代目就任の依頼について次のように振り返ります。
「『雅楽代』の販売に力を入れなければならない時期に加えて、新たな銘柄を引き継ぐことへのプレッシャーもあり、引き受けるかどうかは本当に悩みました。でも、『二才の醸』は20代だけが挑戦できる酒造りだし、まだ経験が少ない蔵人にとって、3人で責任を持って仕込むことは貴重な経験になる。そう考えて、4代目を引き受けることを決めました」
酒造りのテーマは「都会」と「地方」
新たな「二才の醸」のコンセプトを考え始めた天領盃酒造の3人。「20代だけで造る」という最大の特徴を活かして、20代の心境を酒造りに重ね合わせることにしました。
「20代前半は熱量にあふれていて、都会での活躍を夢見ると思うんです。それが20代後半になると、尖った部分が丸くなっていって、落ち着いた雰囲気が出てくる。そこで、前者をイメージしたお酒を『メトロポリス(都会)』、後者を『プロビンス(地方)』として、2種類のお酒を造ることにしました。
目指す味わいは、甘口のお酒です。『メトロポリス』はフレッシュで初々しく、かつ活性度の高い無濾過生原酒として今春に発売。『プロビンス』は『メトロポリス』の火入れ酒をベースに、天領盃酒造のほかのお酒とブレンドし、角が取れたまろやかなお酒として秋口に発売予定です」
3人で力をあわせて造った「二才の醸 ~metropolis~」は2021年3月末に完成し、「雅楽代」と同じ流通ルートで4月中旬に販売されました。
その完成度について、加登さんは「口に含んだ直後はボリュームがあって滑らかですが、そのあとの余韻は酸味の影響もあり、意外とすっきりしています。ちょっと甘過ぎるかなと心配しましたが、うまくまとめることができました。この経験はこれからの酒造りにも役立ちそうです」と話します。
加登さんは、「二才の醸」のブランド価値をさらに高めるために、SNSを使った発信も積極的に進めています。飲み手と造り手の距離をもっと近づけて、5代目を引き継ぐまでには「二才の醸」のファンを育て、銘柄と一緒に引き継げたらと考えているそうです。
20代だけで造る日本酒「二才の醸」がこれからどのように広がり、若い日本酒ファンを魅了していくのか期待が高まります。
(取材・文:空太郎/編集:SAKETIMES)