蔵から蔵へ日本酒の銘柄を譲渡する。そんな驚きの試みが行われました。

先月6月26日に開催された「石井酒造 × 宝山酒造 合同イベント『二才の醸』リリースパーティー&銘柄引継式」。石井酒造(埼玉県幸手市)が製造する、オール20代で造る銘柄「二才の醸」の第二弾発売を記念して開催されたイベントです。

「二才の醸」が誕生したのは2014年。蔵元・杜氏ともに20代という若手蔵筆頭の石井酒造が、企画・製造・販促まですべてを“20代メンバーだけでやりきる日本酒ブランド”としてプロジェクトを発起。クラウドファンディングで200万円以上の資金調達に成功し、テレビなどの取材が殺到するほどの大きな話題をよびました。

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その後、石井酒造は2015-2016にかけて「二才の醸」の第二弾プロジェクトを推進。新メンバーとして20代の酒米農家と20代の書道家を迎え、第一弾以上に"20代の力"にこだわった商品を開発。2016年2月の無濾過生原酒の先行販売を経て、今回火入れ・低温貯蔵をしたレギュラーの「二才の醸」第二弾の発売となったのです。

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そんな銘柄のお披露目イベントですから、石井酒造単独で行うのが普通というもの。しかし本イベントは、新潟県の宝山酒造との"共同開催”となりました。

イベント開催にあたって「石井酒造は、今回の造りをもって『二才の醸』を宝山酒造に引継ぐ」と語った石井酒造代表・石井誠さん。いったいどのような経緯で"銘柄の譲渡”というこれまでにない取り組みに至ったのでしょう。イベント当日の模様を振返りながら、紐解いていきましょう。

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20代が半数以上!「二才の醸」リリースパーティー開幕

東京・千駄ヶ谷で開催された「『二才の醸』リリースパーテー&銘柄引継式」。お客さんの半数以上が20代と、数ある日本酒イベントの中でも、特に若い世代が集まるイベントとなりました。

冒頭、主催の石井誠さんから「『二才の醸』は、わたしが蔵を継いでから立ち上げた新銘柄。20代だけでも、こんなにいい酒が造れるんだぞと胸を張って造りました。今回で、石井酒造が本銘柄を製造するのは最後となり、その心意気は新潟県の宝山酒造が受け継いでいくこととなりましたが、今日は存分に石井酒造の『二才の醸』を味わってください!」と挨拶があり、その味わいに期待が高まったところでいよいよカンパイ!イベントスタートです。

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第二弾の「二才の醸」は、前回純米大吟醸だったスペックをあえて純米吟醸にしています。その理由は「米の磨きに頼らず、造りで勝負したかった」からなのだそう。その自信の通り、2016年の「二才の醸」は石井酒造らしいほどよい甘みと、キレのよい後味が調和する美酒に仕上がっていました。

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ドリンクカウンターでは、石井酒造杜氏の和久田健吾さんが自らお酒をサーブしてくださいました!酒造りについて、熱心に話を聞くお客さんの姿も。

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本イベントでは、「二才の醸」に加えて石井酒造・宝山酒蔵それぞれ2銘柄が振るまわれました。

石井酒造からは、期間限定の夏酒「豊明 夏 純米吟醸 花火」と「豊明 夏 純米吟醸 向日葵」。宝山酒造からは「宝山 純米酒」「宝山 純米吟醸 コシヒカリ」。いずれも蔵の個性が光る良酒! テイストの違うお酒を自由に飲み比べられるのは、イベントならではの喜びですね。

フードのケータリングは、渋谷の日本酒ダイニング「sakeba」が担当。若い世代に人気のメニューだったこともあり、またたく間になくなってしまいました。

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「sakeba」の人気メニューのひとつ「エビとアボガドのマヨネーズ和え」

若いお客さんが多かったためか、会場はすぐに盛り上がり、活気あふれる雰囲気に。初対面の参加者同士が、石井酒造・宝山酒造のお酒を片手に打ち解けて楽しんでいるのが印象的でした。

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もっと同世代に日本酒を ―― 「二才の醸」に込めた想い

会の半ばでは、石井誠さんをはじめとする「二才の醸」のプロジェクトメンバーそれぞれが、銘柄・プロジェクトについて語りました。

石井さんは「『二才の醸』は本当に苦しんで、悩んで、考えぬいて産み落とした銘柄。思い入れは誰よりもある。でも、だからこそ「次の世代に『二才の醸』の志を引継いでいって欲しいと考えました。『二才の醸』が実現したいのは、若い酒蔵が”挑戦”することで、同世代の若い人たちに日本酒に興味をもってもらうこと。そう考えると、今年杜氏の和久田が30代を迎える石井酒造ではなく、われわれよりも若い渡辺くん率いる宝山酒造にその想いを託したいと考えたんです」と、銘柄譲渡への想いを語りました。

杜氏の和久田さんは「はじめて『二才の醸』を造ったときよりも、技術的にはかなり向上している自信があります。まったく新しい銘柄をいちから造るのはプレッシャーでもありましたが、その分自分を成長させてくれたと思っています」と、杜氏ならではの造り手視点での話をいただきました。

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さらに、プロジェクト立ち上げにあたってのコンサルティングを行ったSAKETIMES代表の生駒、ラベルデザインを担当する高山淳平さん、第二弾の新メンバーとして参画した20代書道家・白石玄雨さんがコメント。白石さんは、2014年の発足当時TVのニュースでプロジェクトを知り「自分も参加したい!」とすぐに石井酒造に連絡したのだそう。

みな、「二才の醸」という銘柄に熱い想いを持っているのがひしひしと伝わってきました。

 銘柄を引き継ぐ宝山酒造の決意

一方、「二才の醸」を引き継ぐこととなった宝山酒造・次期蔵元の渡辺桂太さんは、「『二才の醸』をキッカケに、宝山酒造でも新しい挑戦をしたい」と決意を話してくださいました。

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「はじめ石井さんからお話をいただいた時は、嬉しさと同時にプレッシャーを感じました。でも、今まさに宝山酒造は変革のとき。わたしが蔵に戻るのに合わせて、農大時代の同期である若松が入社してくれました。これから蔵を盛り上げていくには、新しいアクションが必要でした。そう考えると『二才の醸』はものすごいチャンスだと思ったんです」

宝山酒造による「二才の醸」は今年の冬からになりますが、その中身は石井酒造のそれとはまったく異なるものになる予定だそう。

「魂は引継ぎますが、造るのはあくまで宝山酒造の『二才の醸』です。酒造りも、ブランド造りも、石井酒造とは違った角度から、うちらしい挑戦をしていきます。楽しみにしていてください!」

次期代表の渡辺さんは現在27歳で、営業の若松さんは26歳!これからの活躍が本当に楽しみですね。

書道家・白石玄雨さん直筆の伝承書!銘柄引継ぎ式

イベントも終盤に差し掛かったところで、いよいよ「銘柄引継ぎ式」が行われます。

「二才の醸」の引継ぎを証明する“伝承書”は、プロジェクトメンバーでもある書道家・白石玄雨さんがその場で執筆。プロ書道家による本格的な書道実演に、参加者は大興奮!

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書き上がった伝承書に、石井誠さん・渡辺桂太さん両名が“証明手形”を押していきます

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想像以上に本格的な伝承書に、やや緊張した面持ちの両名。

続いて、銘柄引継ぎの見届人として、SAKETIMES代表・生駒と、プライベートでイベント参加していた初代ミス日本酒・森田真衣さんをサプライズ指名!驚きつつも快諾のふたりが、見届人としての母印を押します。

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石井酒造、宝山酒造、そして見届人2名の押印が終わり、ここに銘柄の引継ぎが完了!

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10年、20年と続く銘柄へ ――日本酒の未来を照らす「二才の醸」

閉会にあたって、主催の石井誠さんは「『二才の醸』が“若手の挑戦”の代名詞として、何代にも渡って引き継がれていって欲しい」と語りました。それを受けた渡辺桂太さんも、時期が来たら「二才の醸」をさらに引継いでいくこと、そしてその前に、宝山酒造としての「二才の醸」ができた際には、必ずまたリリースイベントを行うことをその場で公約。会場からは本日一番の拍手が起こりました。

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地域、会社の垣根を超えて「二才の醸」という魂が何代にも渡って引き継がれていく。夢のような話ではありますが、石井酒造・宝山酒造の両名を見ていると、決してただの夢物語ではないようにも思えてきます。

もしかしたら私たちは、「二才の醸」が紡いでいく長い歴史の“最初の船出”を、見届けたのかもしれません。

(取材・文/SAKETIMES)

sponsored by 石井酒造株式会社

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