9年連続で過去最高額を記録した日本酒の輸出総額。2018年の国別輸出額をみると、もっとも多いのは中国・香港。その額は全体の1/3を占める73億6,100万円です。

発表会のスライド資料

この現状を受けて、日本の魅力ある商品・サービスの海外需要開拓を支援する官民ファンド「クールジャパン機構」は、中国でワイン卸事業を展開する「East Meets West Fine Wines (EMW/イーエムダブリュー)」を完全子会社に持つ、「Trio Corporation International Limited (Trio/トリオ)」に投資したことを発表。同社の発行済株式の過半数(持株比率は非公開)を約22億円で取得しました。

"國酒"である日本酒の輸出量を、重点エリアの中国でさらに増やそうと現地パートナーを求めるクールジャパン機構と、高級ホテルやレストランを中心とした中国150都市のネットワークを持ち、ワインに続く主力商材を求めるEMWの思惑が一致したことから実現しました。

左から順に、Trio社 共同創業者のグレゴリー・バイオレットさん、エドワード・デュヴァルさん。クールジャパン機構 専務取締役の加藤有治さん。

左から順に、Trio社 共同創業者のグレゴリー・バイオレットさん、エドワード・デュヴァルさん。クールジャパン機構 専務取締役の加藤有治さん。

同日の発表会には、クールジャパン機構 専務取締役COO兼CIOの加藤有治さん。Trio社 共同創業者兼CEOのエドワード・デュヴァルさん、同社 共同創業者兼マネージング・パートナーのグレゴリー・バイオレットさん。さらに酒蔵とのパイプ役を務めるアドバイザーの平出淑恵さんが出席しました。

「日本酒を売る人」を育てるファンドに

発表会のスライド資料

EMWは、フランスの名門シャンパーニュ・メゾン出身のエドワードさんらによって、2003年に設立。現在は、中国主要都市である北京、上海、深セン、成都、澳門(マカオ)、香港に拠点を構え、世界15ヶ国の80ワイナリーと独占契約を結んでいます。

また、「インターコンチネンタル」「ハイアット」「フォーシーズンズ」「シャングリ・ラ」「マリオット」など、中国150都市以上の高級ホテルや、ミシュランガイドの星を獲得しているレストランを中心とする3,500以上の販売チャネルを確立しています。

今回の出資を通じて、エドワードさんは「ハイエンド商品に限定せずに、手ごろな価格で入手できる日本酒も取り扱い、中国内で日本酒の存在感を強めていきたい」と語ります。

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一方、クールジャパン機構は、中国市場を熟知したEMWの事業ノウハウを活かして、さまざまな制約条件によって中国進出を果たせていない日本の酒蔵に対し、その足がかりとなる流通・販売プラットフォームを提供していきます。

具体的には、酒蔵の歴史や各銘柄のストーリーを伝えるようなコンテンツを制作し、メディアやWEBサイトで発信。レストランオーナー、シェフ、バーテンダーといったプロ向けの試飲会や、日本酒エデュケーターや個人愛好家に向けた酒蔵ツアーの開催。国際的ワイン教育機関「WSET」認定の日本酒講座を開設。SNSで日本酒関連の情報発信。日本酒の認知度向上と愛好家とのネットワークを構築、など。日本酒啓発とマーケティングをさまざまなレイヤーにわたって進めていく計画です。

Trio社 共同創業者のエドワード・デュヴァルさん

Trio社 共同創業者のエドワード・デュヴァルさん

EMWのエドワードさんとグレゴリーさんによれば、ネットショッピングが主流の中国であっても、日本酒の認知度を上げ、ブランディングを進めるために、まずは高級ホテルやレストランでの展開に注力していくそうです。

「中国の優れた流通会社と契約して、日本酒の温度管理も徹底して中国国内で輸送ができる。また、裏面ラベルへの記載事項や商標登録についてもノウハウがあることが強み」と、エドワードさんは話します。

クールジャパン機構の加藤さんは「EMWは、中国でワインビジネスの基礎をしっかり築いており、安定したキャッシュフローが見込める。今回の出資を通じて、日本とフランスのやり方のもっとも良いところを組み合わせることでシナジーを生める」と期待を寄せました。

アドバイザーの平出淑恵さん

アドバイザーの平出淑恵さん

長年、世界に広がるワインのビジネスインフラに日本酒を乗せていく取り組みを続けてきたアドバイザーの平出さんは、今回の出資決定を心待ちにしていたといいます。

「日本酒はこれまで造ることに精一杯で、日本酒を売る人を育ててこなかった。この投資事業は、文化も言語も違う国でワインの市場を開拓してきた組織が日本酒を扱い始めることで、中国国内におけるワインの商流の中に日本酒を売る人材を育成していく事業だと思っています。ワイン産地が世界に発信されているように、日本酒を生み出している地域自体をもブランド化できる可能性も視野に入れた試みだと思うんです」と、その喜びとこれからの期待を話してくれました。

中国マーケットでのさらなる日本酒普及を目指して

日本食レストランの増加や訪日観光客増加などを背景に、中国への日本酒輸出額は拡大しているものの、多くの蔵元は信頼できる現地パートナーを見つけるのが困難なことや、継続的に販売・マーケティングを行うための拠点、人的リソースの不足などから中国進出に踏みとどまっていました。

その現状を打破することが期待されている今回の事業。EMWとクールジャパン機構が提携することによって、日本酒が中国のマーケットによりいっそう広がることが期待されます。

(文/乃木章)

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