毎年10月にアメリカ・ネバダ州ラスベガスで行われている、日系コミュニティの秋祭り「Aki Matsuri Japanese Festival」(以下、秋祭り)も今年で12回目。ラスベガスから車で20分ほど走ったところにある町・ヘンダーソンのウォーターストリートプラザで、2021年10月23日(土)に開催されました。

「Sake Pavilion(酒パビリオン)」の会場

(撮影:May Coffman)

秋祭りの会場は、まさに日本のお祭りのような雰囲気で、お隣のカリフォルニア州やアリゾナ州からも遊びに来る人もいるほど。日本文化を体験できるライブパフォーマンスやワークショップ、地元日本食レストランによる屋台などが並びます。

秋祭りの人気コンテンツのひとつが、 日本酒を中心に焼酎や泡盛などがテイスティングできる「Sake Pavilion(酒パビリオン)」です。

ラスベガスの日本酒ファン200名が集結

「Sake Pavilion(酒パビリオン)」の会場

日本酒をもっと知りたい人と、日本酒をさらに広めたい人が一堂に会する、この「Sake Pavilion」。日本酒ファンにとっては、プレゼンテーションやテイスティングを通して、知識を深めることができる絶好の機会です。

イベント当日は、会場オープンの午後4時前には、すでに入り口前に列ができるほどの人気ぶりでした。来場者は200人ほどで、ネバダ州の飲酒可能年齢を超えている20代からシニアまで幅広い世代、ひとりでの参加から仲間連れ、カップルやご夫婦などさまざまです。

「Sake Pavilion(酒パビリオン)」の日本酒ブース

会場には、お酒やおつまみが用意されていて、DJや着物姿のサービススタッフが雰囲気を盛り上げています。

新型コロナ感染防止の対策もしっかり取られ、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の定めたガイドラインに従い、飲食時を除いてマスク着用と手指の消毒などが義務付けられています。ソーシャルディスタンスを保てるように、カクテルテーブルの数は例年に比べて少なくしたそうです。

「Sake Pavilion(酒パビリオン)」の日本酒ブース

(撮影:Ryan Okada)

これまでは、升に入った日本酒を、各自スポイトで自分のテイスティングカップに入れて試飲していましたが、今年は各ブースの前に並び、日本酒をカップに注いでもらう方法が取られました。

アーロン・ダイスさん(撮影:May Coffman)

アーロン・ダイスさん(撮影:May Coffman)

このイベントの企画・運営を担当した飲料ディストリビューター・Tian Beverage社のアーロン・ダイスさんは、試飲用の銘柄選びについて次のように話します。

「試飲のメインである日本酒は、『Akabu Junmai Ginjo(赤武 純米吟醸)』や『Sohomare Tuxedo (惣譽生酛 純米大吟醸)』など、30種類ほど用意しました。このイベントでは、日本酒未体験の人から普段よく飲んでいる人まで、幅広い層の人たちに楽しんでもらえることが大事なので、輸入業者やホールセラーの協力を得て、さまざまな銘柄をバランスよくセレクトしました」

日本酒のさまざまな飲み方や楽しみ方を提案

クリス・ジョンソンさん(撮影:May Coffman)

クリス・ジョンソンさん(撮影:May Coffman)

2019年に続き、今回もサポートに訪れたのが、酒サムライであり、コンサルティング会社「The Sake Ninja(酒ニンジャ)」の代表として世界中を飛び回っている、クリス・ジョンソンさん。

「秋祭りの各イベントのなかでも、とりわけ『Sake Pavilion』は素晴らしいですね。日本酒ファンから初心者の方まで、多くのラスベガスの人たちが楽しんでいるのがよくわかります」と言いながら、参加者のテイスティングカップに日本酒を注ぎ、飛び交う質問によどみなく答えていました。

ブースを訪れた初心者には、「日本酒にはさまざまな味わいや表情があります。寿司店や鉄板焼きレストランなどで『Hot Sake (熱燗)』を飲んだことがあるなら、『Junmai』『Ginjo』『Daiginjo』などのカテゴリーの日本酒もぜひ一度試してみてください。バーやレストランに出かけて、スタッフやソムリエに日本酒について聞くのもいいでしょう」と、アドバイスすることが多いのだそう。

ラスベガスでもレストランのドリンクメニューに日本酒の銘柄が並ぶようになりましたが、居酒屋や高級レストランなど一部を除けば、「Hot Sake」しか選べないお店もまだ多いのも事実。

「Hot Sake」だけではなく、さまざまな種類のお酒や飲み方があることを知ってもらうことが、日本酒を楽しむための最初の一歩となるようです。

3種類ほど用意されたおつまみの中でも人気があったのは、なんと「おにぎり」。食べやすさと衛生面を考えて、ひとつずつラップで包んでありました。

シゲユキさん(写真左)とクリスさん

シゲユキさん(写真左)とクリスさん

クリスさんと熱心に話をしていた参加者のシゲユキさんは、「日本酒のことはいつも日本人のおばあちゃんに教えてもらっていて、家でもたまに飲んでいる」のだそう。「このイベントはたくさんの種類の日本酒を試せて、お酒の知識も増えるとても良い機会」と、シゲユキさん。

堀米大樹さん(撮影:May Coffman)

堀米大樹さん(撮影:May Coffman)

「Sake Pavilion」を共催している在サンフランシスコ日本国総領事館(以下、総領事館)の堀米大樹さんは、リアルイベントとして開催できたことについて、次のように話してくれました。

「アメリカでの日本の酒類への関心の高まりを受けて、総領事館としても、ますますこの流れを後押ししたいという思いがあります。また、特に飲食業界のみなさんがコロナ禍の影響で大変厳しい状況にあることや、リアルイベントの開催を強く望む声をたくさんお聞きするにつけ、業界を盛り上げるサポートをしたいと考えていました。関係者のみなさんのご協力によって、今回もこうやって開催できたことをうれしく思います」

パンデミックに負けずに、日本酒の魅力を発信

コロナ禍でラスベガスでは約15か月の外出自粛期間が続き、レストランをはじめ、ビジネスやイベントなどの本格的に再開できたのは2021年6月ごろから。以前と同じとまではいかないものの、やっと普段の生活が戻りつつあります。

日本酒ブース(撮影:May Coffman)

(撮影:May Coffman)

そんな、ラスベガスの日本酒業界とは、現在、どんな状況なのでしょうか。

「コロナ禍では日本酒業界も他の業界と同じように、輸出入、輸送、供給、全ての面で苦しい状況が続いてきました。とはいえ、私たちのように日本酒の流通に携わるビジネスは、お客様が必要としているお酒を提供し続けるという責任を負っています。大変なこともあるとは思いますが、私は自信を持って挑戦していきますし、それを誇りに思っています」と、アーロンさん

クリスさんは、「パンデミックの中、レストランは閉まり、日本酒が手に入りにくい状態でした。日本酒はあらゆる料理と相性が良く、さまざまな温度で飲めて、風味もバラエティに富んでいるので、幅広い消費者へとアピールできます。これからの業界は回復していきますし、以前よりも強い体質になると確信しています」と、力強く語ってくれました。

海外向けの日本酒パンフレット(撮影:Ryan Okada)

(撮影:Ryan Okada)

総領事館の堀米さんは、「農林水産物の輸出促進、中でも日本酒を含む酒類の輸出は、さらに促進していくべき重要な品目として位置付けています」と、輸出品としての日本酒の重要性を話します。

奇しくも、「Sake Pavilion」が開催される直前の10月15日に、麹菌を使った日本の「伝統的な酒造り」の技術が無形文化財として登録されるというニュースがありました。

試飲イベントに参加するアメリカの方々のうち、日本酒の持つストーリーやコンセプトに興味を持つ方が多いと感じるそうで、「無形文化財に登録されたといった話題も海外市場で日本酒をPRするうえで力強い後押しになる」と、堀米さん。

「一方でアメリカでは、現地の文化やニーズに合わせて発展した新しいスタイルでの日本酒の楽しみ方も広がり始めています。伝統的な日本酒の普及とあわせて、両方から促進していきたい」と、今後の展望を話します。

お祭りのエンターテイメントのひとつとして日本酒体験を楽しめる「Sake Pavilion」は、ラスベガスの秋祭りならではの催し。2年ぶりの再開はラスベガスに日本酒を広める側の人たちにとっても、活気を取り戻す良い機会となったようです。

彼らのような人たちが、日本酒の持つストーリーやコンセプトを的確に伝えていくことで、日本酒はラスベガスで確実に広がりを見せていくことでしょう。

(取材・文:石川葉子/編集:SAKETIMES)

編集部のおすすめ記事