オーストラリア最大の都市・シドニーでは、日本酒がどのように販売されているのでしょうか。
オーストラリアのワイン生産量は、世界第5位(2017年)。ビールの消費量は全体的に減少しているものの、クラフトビールが人気です。
しかし、アルコールの販売・提供に関する規制はかなり厳しく、シドニーが属するニュー・サウス・ウェールズ州(NSW)では、午後10時以降のアルコール販売が禁止され、パブやクラブでも、深夜にアルコールを提供できないのです。
公共の場における飲酒のルールや、それを破った場合の罰金や刑期も厳しく、身分証明書の提示が必要な飲酒禁止区域(Alcohol Prohibited Area)などもあります。
NSW州では、アルコールの取扱を許可されるのが難しく、かつ、専門的なトレーニングを受けなければならないため、最初からアルコールを提供しない飲食店が多いようです。日本のように、スーパーやコンビニで気軽にアルコールを買うことはできません。
アルコール規制が厳しいオーストラリアのシドニーで、町の酒屋やデパートを中心に、日本酒がどのように販売されているのかを調査しました。
日本酒がない!
シドニーの北端エリア、ロックス地区とサーキュラーキー地区は、シドニーの北部〜西部〜東部を結ぶフェリー乗り場のある港町。パークハイアット、フォーシーズンズ、シャングリラなどのラグジュアリーホテルや、トップレベルのレストランが集まる人気のスポットです。
まず最初に訪れたのは「オーストラリア・ワインセンター」
知識・経験ともに豊富なスタッフから話を聞くと「しばらく前まで、数種類の日本酒を置いていましたが、売れないので取り扱いを辞めました。日本のウイスキーなら、まだありますが......」とのことでした。
続いて、ひときわおしゃれなランガムホテルのある閑静な通りに店を構える「Kent Street Cellars」へ。シックな雰囲気の店内には、オーストラリアワインからプレステージのシャンパンまで、多くの酒が並んでいました。
しかし、レジ後方の棚に梅酒やゆず酒などのリキュールが置かれていたばかりで、一般的な日本酒はありません。
オーストラリア産の日本酒を発見
さらに、シドニー市内の北側からハーバー・ブリッジを渡って、ミルソンズ・ポイント地区へ。オペラハウスを見るには絶好のビューポイントがある人気エリアです。
「BWS Kirribilli」で日本酒を探してみると、レジ後方の棚に、オーストラリアで唯一の酒蔵であるサン・マサムネの日本酒「豪酒 Go-Shu」がありました。
シティ地区のデパートには、日本酒コーナーが!
いよいよ、シドニーの中心部へ向かいます。オフィスビル、ホテル、ブティック、ショッピングセンターなどが集まる、シティ地区です。
国内の2大デパート「デヴィッド・ジョーンズ」と「マイヤー」が、向かい合うように建っています。今回は、高級志向で充実したデリや食材を扱うフード・ホールが人気の「デヴィッド・ジョーンズ」に入ってみました。
ワインは大充実の品ぞろえです。グラス1杯からワインを味わえるサーバーには48種類ものボトルが並び、目を引きます。
売り場を探しても日本酒が見つからず、スタッフに聞いてみると、レジ内の足元にある棚に置かれていました。販売している銘柄は5種類です。
日本酒を取り扱うのは、高級志向の大手小売店
そして、シドニーの高級住宅街・モスマン地区へ。最初に訪れた北部のロックス地区から、路線バスで15分ほどの場所です。大きな邸宅が並び、目抜き通りにカフェやレストラン、グルメな食材店が並んでいる光景は、いかにもセレブな雰囲気でした。
「Dan Murphy's」は、オーストラリアに約300店舗を展開する大手小売店。シドニーでは、モスマン地区と東側のダブルベイ地区、2つの高級住宅街に店舗をもっています。価格は高めですが、ワインの品ぞろえが幅広く、取り扱っている日本酒の種類も多いようです。日本酒のアドバイスができるスタッフも常駐しています。
シドニー市内に住む、経済的に余裕のある人たちが主に日本酒を購入しているようです。
「Sake」と書かれた案内板を目印に、日本酒売り場を目指します。
販売されている日本酒は11種類でした。
スタッフがおすすめしてくれたのは「蓬莱泉 霞月 純米」。味わいや飲み頃の温度帯などが書かれたボードもありました。
このコメントを考えたという、スタッフのジョージさんに話をうかがいました。
ジョージさんがここで働き始めたのは、約1年前。それまでは、アメリカのニュージャージー州で、13年もの間、ワインビジネスに携わっていたそうです。日本酒に興味をもったのは、そのころからのようです。
アメリカで初めての日本酒ブログを開設し、講師としての活動が評価され、2007年に「酒サムライ」となったティモシー・サリヴァンさんのもとで、日本酒アドバイザーの資格を取得しました。
後日、ダブルベイ地区の「Dan Murphy's」を訪れると、こちらもセレブな食事の風景でした。
同じ系列の大手スーパー「ウールワース」の隣にあり、ハイパーマーケットとも呼ぶべき規模です。
日本酒のラインアップは、モスマン地区の店舗と同じですが、こちらのおすすめはオーストラリア産の日本酒「豪酒 Go-Shu」でした。
日本酒は、シドニーで日本酒の輸入会社「デジャヴ 酒カンパニー」を経営している落合雪乃さんからアドバイスを受けて、本部が一括でセレクトしているとのことです。
輸入業のほか、国内でプロ向けの日本酒教育や消費者向けの日本酒イベントを運営している落合さんは、2017年に「酒サムライ」を叙任。世界最大のワインコンテスト「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」のSAKE部門では、審査員を務めています。
日本人エリアにある「東京マート」
近年、英語でコミュニケーションをとれる輸入会社ができた影響で、シドニーでは、日本酒を取り扱うショップが増えつつあるようです。
シティ地区から路線バスで20分ほど郊外へ走ったノースブリッジ地区には、日本人が多く住み、日本の食材や日用品を扱う「東京マート」という専門スーパーがあります。
日本の大手輸出会社などが日本酒を卸しているようで、見慣れた銘柄がたくさんありました。スタッフはみな日本人です。
英語で商品を説明したり、酒蔵の担当者を招待した無料試飲会を開催したりするなど、地元の方々にも日本酒の魅力を伝えられるような、さまざまな取組を行っているようです。
(文/中大路えりか)