2018年5月、オーストラリアのシドニーで「Discover Aged Sake」という日本酒セミナーが開催されました。
セミナーのテーマは古酒。教材として用意される日本酒はどんなものなのか、どんな人が講師を務めるのか、どんな人が参加するのか......その様子を取材しました。
講師を務めるのは、豪州の日本酒エキスパート
シドニーの中心街から電車で西へ進み、スタンモア駅で下車。そこから歩いて1分ほどの商店街に、日本の刃物や調理器具を扱う「Chef's Armoury」という店があります。そのなかに併設された日本酒専門店「Sake Shop」が、今回のセミナー会場です。
会場に着くと、セミナーの参加者たちが、陳列された和包丁や砥石、そして冷蔵庫に入った日本酒を眺めながら待っていました。
開場の時間になると、大きな窓から差し込む光が気持ち良い、開放感のあるサロンに案内されました。参加者は13名です。
講師を務めるリー・ハドソンさんは、ロンドンに本部を置く世界最大のワイン教育機関「WSET」の日本酒講師の資格をもつオーストラリア人。シェフやソムリエなどの仕事を経験し、現在は「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」SAKE部門の審査員としても活躍しています。
ハドソンさんは、およそ3年前からオーストラリアで日本酒の人気が高まっている様子をみて、2017年10月に国内初の「WSET SAKE講座」を始めました。
また、日本貿易振興機構(JETRO)が日本酒造組合中央会に所属する17酒蔵とともに開催した「日本酒商談会 in シドニー」では、地元の飲食関係者に、日本酒とワインの違いや西洋料理とのペアリングについて詳しく解説するなど、現地の日本酒エキスパートとして知られています。
毎年の来日で酒蔵を訪れ、日本酒を楽しんでいるハドソンさん。酒蔵との付き合いを生かして、日本酒の輸入にも取り組んでいられます。
熟成年数の異なる古酒を飲み比べ
ウェルカムドリンクの「千羽鶴 大吟醸 古酒」がひとりひとりのテイスティンググラスに注がれ、セミナーが始まりました。日本酒を味わいながら、ハドソンさんが日本の酒蔵を訪問したときの体験談を話します。
続いて登場したのは「達磨正宗」の熟成古酒。3年、5年、10年熟成のお酒について、香りや味わいのコメントを聞きながら、ひとつずつていねいにテイスティングをしていきます。
それぞれのお酒に合わせて、「生ハムバゲット」「チキンとベジマイトのサンドイッチ」「タスマニア州キングアイランド産のスモーク・チェダーチーズ」などのおつまみがペアリングとして供されました。
最後は「花美蔵 福来純 梅味醂」を、ロックでテイスティング。こちらは、シドニーでトップクラスのレストランでも使われているのだそうです。
「日本の食文化をもっと深く知りたい」
参加者のみなさんに、日本酒セミナーに参加したきっかけを伺いました。
30代くらいの男女3人グループは、男性2人が職場の元同僚で、シドニーの和食店で日本酒を飲んで興味をもち、それから時々飲むようになったのだとか。しかし、店へ行くだけでは日本酒の詳しい情報を得られないため、インターネットでこのセミナーを見つけて参加したとのこと。
「熟成年数が異なる日本酒を比較したのは初めて。色と味わいの変化がはっきりとわかって、とても興味深かった」と話していました。
ボーイフレンドに誘われて参加したという看護師の女性は、日本酒を飲んだ経験がほとんどなかったようでしたが「美味しかったわ」とニッコリ。
「WSET Sake Level 1」を受講したばかりというトーマスさん(写真左)と、シドニーの和食レストランが大好きで、そこで日本酒を飲むようになったニックさん(写真右)は、お互いのテイスティングコメントを熱心に披露し合っていました。トーマスさんは「WSET Sakeの上級講座も受けるつもりです」と、とても前向きです。
50代のケビンさんは、広島や京都を何度か訪れるうちに、すっかり日本酒のとりこになったそうです。
ウィスキーをよく飲んでいるそうで、ジャパニーズウィスキーの大ファンなのだとか。ニックさんやトーマスさんとともに、日本のウィスキーに関する情報を交換していました。「日本の食文化をもっと深く知りたい」という思いが感じられます。
ご主人とふたりで参加していた女性は、出張で40回近く日本を訪れたことがある日本通。今年の秋にまた日本を訪れるようで、「お決まりの観光コースではない、スペシャルな旅をしたい」と、酒蔵ツアーなどについて、ハドソンさんに熱心な質問を投げかけていました。
オーストラリアに広がる日本酒の魅力
イギリス文化に強い影響を受けているオーストラリアには、ウィスキーの文化が根付いています。近年、ロンドンで流行しているジンも、シドニーで大人気。ウィスキーのような色調や香味をもつ古酒は、シドニーの人たちにとって、一般的な日本酒よりも馴染みやすいのかもしれません。
オーストラリアの物価は比較的高いですが、ワインについては、リーズナブルなものからプレミアムなものまで、オーストラリア産の商品からフランス産などの輸入品まで、シドニー市内では手軽に購入することができます。一方で、日本酒の品ぞろえが良く、かつ適切な冷蔵管理を行なっている店はまだまだ少ないのが現状です。
今回のセミナーでは、試飲した古酒をスペシャル価格で買えるとあって、参加者の多くがまとめ買いしている様子でした。
シドニーにおいては、自宅でも日本酒を楽しむ人はまだ多くありません。
それでも、日本への観光や和食の体験を通して、その魅力に気付いたハドソンさんのような人たちが、日本の食文化を広めようと活動し、日本酒を学ぶことができる機会も少しずつ増えているようです。
(文/中大路えりか)
◎店舗情報
- Chef's Armoury / Sake Shop
- 住所:105-107 Percival Rd Stanmore NSW 2048 Australia
- 電話:(+61)2-9560-0811
- 営業時間:10:30~16:30(月~土)
- 定休日:日曜、祝日