長野県の若手蔵元後継者5人が最近結成した酒蔵ユニットをご紹介します。その名も「59醸(ゴクジョウ)」。

昭和59年度生まれの5人が、「まだ知名度の低い我々のお酒を、いろいろな話題づくりを通して広くアピールしていこう」と活動を始めています。全員が30~31歳と若く、固定観念を持たずに、新たな酒造りや日本酒宣伝に取り組んでいくそうです。彼らの熱い思いを伺いました。

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全員が昭和59年度生まれのユニット!その名も59醸

今回のユニットに参加したのは長野県北部にある酒蔵です。
角口酒造店(かどぐちしゅぞうてん)/飯山市、西飯田酒造店(にしいいだしゅぞうてん)/長野市、東飯田酒造(ひがしいいだしゅぞうてん)/長野市、丸世酒造店(まるせしゅぞうてん)/中野市、沓掛酒造(くつかけしゅぞう)/上田市の5蔵の跡取り息子さんたちです。
ユニット結成を仕掛けたのは角口酒造店の村松裕也さん。
彼はすでに6年前に25歳の若さで蔵元杜氏となり、酒造りにまい進しています。

日々の活動を通してできた他県の蔵元後継者の友人には、村松さんと同世代の人がたくさんいます。
そこでふと、
「長野県内でも探せば同い年の蔵元後継者がいるのではないか」と思いついて、調べたところ、長野県内だけでも5人いたのです。
早速、4人に声を掛けて、提案したところ、すぐに賛意を得られ、今年(2015年)1月に59醸を結成しました。

同じ条件の元、蔵の個性を反映させた酒を醸す

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活動の第1弾として企画したのが、酒米などのスペックを決めてお酒を造ることでした。
近年、酒蔵ユニットが各地に誕生していますが、酒造りのやり方としては、
「酒造りの工程を参加者が分担してひとつの酒を造る」という手法と、「スペックを決めて、各蔵がそれぞれ醸して味を競い合う」のどちらかです。

59醸は「全員が小さな蔵で冬場自分の蔵を離れることは難しい。お題を決めて、それぞれが酒を造る方が無理がない」ということで、1年目全量長野県産美山錦の59%精米の純米吟醸酒としました。
さらに生酒ではなく火入れ殺菌。
原酒ではなく加水してアルコール度数は15度を守る、としています。

同じスペックでお酒を造るとなれば、仲間といえども、1番おいしい酒を造りたいのは人情です。
メンバーはそれぞれ蔵に戻って、秘策を練り、美酒を醸しました。
どんな思いで醸し、搾ったお酒への感想などについて、お1人ずつからお話を伺いました。

5蔵それぞれの想い

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まずは丸世酒造店の5代目、関晋司さんです。
関さんは昭和59年10月21日生まれ。

大学では畜産学を学び、東京で営業職を経験していましたが、「自分の造ったものを売りたい」という思いが募って家業を継いでいます。

「うちの蔵のメインの商品は3段仕込みで終わらせず、4段目にもち米を入れて、軟らかい味わいを実現しています。
ところが今回のお題ではもち米を入れることはできません。

でも、それならいい機会だから、いつものうちのお酒よりも辛めのすっきりとした味わいを基本に、得意とするまるい味わいを加味して仕上げてみようと考えました。搾ってみた結果は、春の時期ではまだ味乗りが不足気味で、ちょっと失敗でした。ただ、時間が経過して秋口になってだんだん味が乗ってきていますので、いまは飲みごろです。

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2番手は沓掛酒造の18代目、沓掛正敏さんです。
沓掛さんは昭和59年11月13日生まれ。

高校卒業後、音楽の教師を目指して音大に進学。
家業は弟さんが継いでいたので、戻る必要はなかったのですが、業界の不振を耳にするにつれ、自らも関与しなければと帰蔵。
弟さんが造りを担当し、沓掛さんは経営面を見ています。

「僕は蒸したお米を運んだり、できた醪を袋で搾る時などは手伝いますが、お酒造りの根幹は知りません。
でも、今回の59醸への誘いがあった時に、是非造りにも挑戦したいと考えました。
杜氏である弟には「無理じゃないかなあ」いわれてしまいましたが、そこを拝み倒して、支援を受けながら造りました。
出来上がったお酒は純米吟醸酒と考えると香りが少ないし、加水してやや薄い印象にもなってしまいました。
それでも、うちの蔵のお酒の特徴である五味のバランスがいい酒質のゾーンには入っていると思います。
来季以降はさらに勉強して腕を上げます。」

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3番手は東飯田酒造店の6代目、飯田淳さんです。
飯田さんは昭和59年11月24日生まれ。
元々家業を継ぐ気はなかったそうですが、繁忙期に頼まれて手伝っているうちに、だんだんと酒造りにのめりこんで、気づくと後継者になっていたそうです。

「59醸のお酒は若い日本酒入門者を意識して造ろうというのが共通のコンセプトなので、味が濃いよりも、すっきりとした淡麗の酒質を狙いました。
ところが、仕込みの途中の追い水でちょっとミスをしてしまい、発酵が停滞して焦りました。
それでもなんとか搾れましたが、やはり、狙ったよりも淡麗な味わいでした。
純米吟醸造りはほぼ初体験に近かったので、酵母選びでも悩みましたし、苦労が多かったです。」

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4番手は西飯田酒造店の9代目、飯田一基さんです。
飯田さんは昭和60年4月1日生まれ。
東京農業大学で花酵母を研究し、卒業後は花酵母で有名な茨城県の来福酒造で修業。
その後、蔵に戻って花酵母を使ったお酒を造っています。

「同じスペックでの競争でもあるので、記憶に残ってもらえる1番いい酒を造りたいと思いました。
同時に、毎回チャレンジもしたいと考えたんです。
そこで今回は2種類の花酵母のブレンドで酒母を造りました。
ベコニアとオシロイバナの混合です。
できた酒母はまずまずの仕上がりでしたが、もうちょっとやれたかなという気持ちも残りました。
搾ったお酒は甘さの部分ではうまく表現できたと思いますが、花酵母の特徴を十分に加えることが今度の課題です。」

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しんがりは角口酒造店の6代目、村松裕也さん。
昭和59年7月31日生まれです。
村松さんは杜氏に就任以来、この6年間で蔵のお酒の質を大幅に向上させるとともに、ラベルのデザインを一新させ、
多彩な商品企画も展開するなど、矢継ぎ早にいろいろなことに手をつけています。

5年後、10年後に市場に並ぶ純米吟醸酒をイメージしながら、造りに挑みました。
純米吟醸酒は数種類造っていますが、美山錦でやるのは6年ぶり。
吟醸だから香りにこだわり、落ち着きある華やかな香りを目指して、うまくできました。
バランスの取れたいい仕上がりでしたが、しいていえば、もう少しドライな味でもよかったかなとも思っています。」

5人がお互いを刺激しあって、成長していきたい

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59醸は造ったお酒を売るだけではなく、蔵の宣伝に活用することも強く意識しており、5月には出来上がったお酒を披露するイベントを長野と東京で開き、大盛況でした。
さらに、9月には長野で半年寝かせて秋上がりした59醸のお酒を飲んでもらうイベントも長野で開いています。

さて、2シーズン目となる今度の冬の59醸のお題は、長野県産ひとごこちの59%精米の純米吟醸酒と決まりました。
ひとごこちというお米はふくよかな味わいになりやすいといわれており、切れの良さが特徴の美山錦とは真逆のタイプです。
そんなお米を使って5人がどのような酒質のお酒を醸すのか、いまから楽しみでなりません。

酒蔵ユニット「59醸」は活動期間を10年に区切っています。
「10年間、5人でお互いを刺激し合ってそれぞれの蔵の酒質のレベルと売り上げも引き上げて、解散するときには各自が蔵の堂々たる大黒柱になっていることを目指しています。」と村松さん。

彼らのこれからの活躍を期待したいと思います。

 

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