名古屋駅から車で約2時間。愛知県設楽町にある標高およそ1,000mの山道を登った先に、地元で広く親しまれている「蓬莱泉(ほうらいせん)」を醸す、関谷醸造があります。

関谷醸造の日本酒は、インパクトのあるラベルが特徴です。

「蓬莱泉 特別純米 可。(べし)」を始めとした、関谷酒造が醸す銘酒

辛口で飲みやすい主力商品「蓬莱泉 特別純米 可。」(写真中央)は、江戸時代の儒学者で漢詩人の菅茶山(かんさざん)が著した作品から言葉を引用したもの。『一盃人酒を呑み 三盃酒人を呑む 知らず 是れ誰の語ぞ 我輩 紳に書すべし』の『べし(=可)』が由来になっています。

自社栽培を進め、地域の問題を解決する

関谷醸造は、江戸時代から7代続く造り酒屋です。12年前から酒米の自社栽培をスタートし、現在は24ヘクタールの水田で米作りに取り組んでいます。

関谷酒造が育てている水田

蔵のある設楽町は、湧き水がきれいでとても美味しいのだそう。水田へとつながる水路には、清らかな水が流れています。

湧き水が流れる愛知県設楽町の水路

「地酒とは何か。その明確な定義はありませんが、うちの場合は、地元・愛知県三河地方で育てられた酒米を5割以上使うことを定義としています」と、社長の関谷健さんは話してくれました。

関谷酒造社長の関谷健さん

関谷醸造のこだわりは、ただ地元で酒米を栽培することだけではありません。農業を通して、地元の課題にも取り組んでいます。

「『地元の問題を解決しよう』が先ではなく、みずから酒米を作る過程で、地元の問題を解決していくことが自然な形だと思います」

設楽町では、農業に従事する農家の高齢化や後継者不足が深刻で、離農してしまう方々が増えているのだとか。関谷醸造では、米作りを続けられなくなった農家から水田を借り受けて、その地で酒米を育てています。

少量生産のオーダーメイドも可能!

2004年には、小回りのきく酒造りができる専用の施設「ほうらいせん 吟醸工房」を新設しました。一般のお客さんが酒造りを体験したり、ニーズに応じたオーダーメイドの日本酒を造ったりすることができるこの新蔵から、地酒としての「蓬莱泉」を発信しています。

席や酒造「吟醸工房」の外観

たとえば、「知り合いの農家が育てた米を50%まで磨いて、甘口だけど、最後はキリッとした味わいのお酒がほしい。ボトルは赤色で、自分でデザインしたラベルで、100本造りたい」といった、細かいオーダーも可能です。

結婚や定年退職のお祝いなど、人生の節目にぴったりな贈り物として、会社の周年行事の記念品として、飲食店のオリジナル商品として......さまざまな問い合わせが多いのだそう。

飲食店の経営にも注力!

関谷醸造は、飲食店の運営にも取り組んでいます。「SAKE BAR 圓谷(まるたに)」は、名古屋市内の歴史的な町並み「四間道(しけみち)」にある築150年の米蔵を改築してオープンした、バーとレストランが併設されている店です。

「SAKE BAR 圓谷」の外観

「関谷醸造の日本酒が楽しめる店をつくりたかったんです」と、関谷社長。日本酒はもちろんのこと、実際に酒造りに使用している自社栽培米の食用品種「チヨニシキ」を食べることができるのも、日本酒ファンにとっては魅力的です。日本酒を存分に堪能した後、炊きたてのご飯と粕汁で締めるのがおすすめです。

「SAKE BAR 圓谷」の内観

米作りを通した地域問題の解決や、消費者の気持ちに寄り添ったオーダーメイドの酒造り、そして、実際に日本酒を楽しめる場の提供など、地酒としてのこだわりが強く感じられました。

(文/黒石英真)

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