「谷泉×加賀鳶」と「鶴と福」を手にする、福光屋と鶴野酒造店の関係者
「谷泉×加賀鳶」と「鶴と福」を手にする、福光屋と鶴野酒造店の関係者
「谷泉×加賀鳶」と「鶴と福」を手にする、福光屋と鶴野酒造店の関係者

「共同醸造」で被災蔵の酒造りに伴走する石川県の銘酒蔵・福光屋【能登半島地震 復興支援】

2024年1月1日、石川県の能登半島を震源とした、最大震度7の大地震が発生しました。この「令和6年能登半島地震」では、能登地方を中心に、建物の倒壊や商品の破損など、複数の酒蔵が被害を受けています。

そんな中、同じ石川県の金沢市にある福光屋(代表銘柄「加賀鳶」)が、酒蔵が全壊した能登町の鶴野酒造店(代表銘柄「谷泉」)との共同醸造など、被災した酒蔵の復興支援に積極的に取り組んでいます。

福光屋の代表銘柄「加賀鳶」

6月には、鶴野酒造店から救出された酒米を使用した純米大吟醸酒「鶴と福」を、7月には、それぞれの代表銘柄をブレンドした「谷泉×加賀鳶」を発売しました。

今回は、鶴野酒造店との共同醸造を中心に、福光屋の支援活動について、杜氏の板谷和彦(いたや・かずひこ)さんに話をお伺いします。

共同醸造で復活した「谷泉」

能登半島地震が発生した時、福光屋では、いつもどおりに酒造りが行われていました。

「宿直として、私ともう1人の社員が大晦日から泊まり込んでいたんです。私は地震が起きる20分ほど前に、食事をとるために市内の自宅に戻ったところだったのですが、会社に残っていた社員と連絡をとりながら、大急ぎで酒蔵に戻りました」(板谷さん)

金沢市内でも震度5強の大きな揺れを観測し、福光屋にも、仕込み水の配管が破損する、蒸米などに使用するボイラーが壊れる、空のタンクが倒れて貯酒が困難になるなどの被害がありました。貯蔵していた日本酒には、大きな被害はありませんでしたが、醸造や貯蔵の計画を見直さなければならない状況だったそうです。

自社にも被害があるなかで、福光屋と鶴野酒造店の共同醸造が決まったのは、地震から約1ヶ月が経過した2月のことでした。

福光屋の専務取締役・福光太一郎(ふくみつ・たいちろう)さんが、鶴野酒造店の蔵元・鶴野晋太郎(つるの・しんたろう)さんにお見舞いの連絡をしたところ、倒壊した酒蔵から救出された酒米があると聞き、福光さんはその場ですぐに協力を申し出たそうです。そうして、福光屋の醸造設備を使って、鶴野酒造店が酒造りをすることになりました。

鶴野酒造店の鶴野晋太郎さん(左)と福光屋 専務取締役の福光太一郎さん(右)

鶴野酒造店の鶴野晋太郎さん(左)と福光屋 専務取締役の福光太一郎さん(右)

太一郎さんと晋太郎さんは、石川県酒造組合連合会が主催しているイベント「サケマルシェ」の実行委員会などを通して、もともと仲が良かったのだそう。さらに、板谷杜氏も講師を務める、同組合が運営している酒造りの学校に晋太郎さんが通っていたという縁もありました。

「私は釣りが趣味で、能登までドライブした時に酒蔵を訪問させてもらうこともあり、鶴野さんのお母さんとも親交がありました。『谷泉』は昔からよく飲んでいましたよ」(板谷さん)

3月に入ると、4月からの本格的な共同醸造に向けて、鶴野酒造店の杜氏・鶴野薫子(つるの・ゆきこ)さんも交えた打ち合わせがスタート。まずは、鶴野酒造店の代表銘柄「谷泉」を復活させるために、鶴野酒造店の蔵人が福光屋に出向いて共同醸造をすることになりました。

板谷杜氏はこれまでに飲んだ「谷泉」の記憶を思い起こしながら、晋太郎さんや薫子さんと話し合いを重ねていきます。

福光屋 杜氏の板谷和彦さん(左)と鶴野酒造店 杜氏の鶴野薫子さん(右)

福光屋 杜氏の板谷和彦さん(左)と鶴野酒造店 杜氏の鶴野薫子さん(右)

倒壊した酒蔵から救出された酒米は、石川県産の山田錦と五百万石。決して万全とはいえない環境にさらされていたため、そのなかでどうやって「谷泉」を再現するのか、板谷杜氏は苦心したといいます。

本格的な酒造りが始まると、薫子さんはほとんど毎日のように福光屋の酒蔵を訪れ、作業に取り組みました。晋太郎さんは「酒造りをしている間は、“被災者”であることが少し和らぐんですよ」と、当時を振り返ります。

そして完成した「谷泉」の日本酒。無事に全員が納得する仕上がりになりました。

「能登というと荒々しい海のイメージがあるかもしれませんが、鶴野酒造店の近海は穏やかなんです。そのせいか、特に杜氏の薫子さんは穏やかな性格で、発酵も繊細で緩やか。いっしょに作業してみて、この人たちが造るからこそ、『谷泉』のおいしさがあったんだと感じましたね」(板谷さん)

「支援醸造」ではなく「共同醸造」

福光屋で造られた「谷泉」は、福光屋の純米酒とブレンドした「谷泉×加賀鳶」としても販売されました。酒米の品種や精米歩合の異なる数種類の日本酒をピックアップし、どの組み合わせが良いか、晋太郎さんや薫子さんも交えて何度も試飲したそうです。

福光屋と鶴野酒造店の共同醸造酒「谷泉×加賀鳶」

ブレンドの比率について、板谷杜氏は「最初から1:1と決めていた」と話します。

「今回の共同醸造は復興支援を目的としていますが、私たちは事業の規模などに関係なく、あくまでも対等の立場で醸造することを大事にしました。だからこそ、『支援醸造』ではなく『共同醸造』なんです」(板谷さん)

福光屋と鶴野酒造店の共同醸造酒「鶴と福」

また、同じ復興支援酒である「鶴と福」では、鶴野酒造店としては経験が少ない華やかな純米大吟醸酒に挑戦しました。さらに、福光屋と鶴野酒造店がそれぞれでよく使用している酵母をブレンド。晋太郎さんや薫子さんにとっては、酵母のブレンドも初めての経験でした。

「3月に打ち合わせをした時に、酒蔵が全壊したという逆境の中でも『いつか能登に戻って酒造りをする』という強い意志を感じました。ふたりとも、酒蔵が再建した時によりおいしい日本酒を造れるように、共同醸造を通して新しい酒造りを学びたいと話していたんです」(板谷さん)

そもそも、他の酒蔵といっしょに酒造りをすること自体が、福光屋にとっても新しい挑戦。板谷杜氏も、晋太郎さんや薫子さんとともに、どんな仕上がりになるのか、ドキドキしながら取り組んだそうです。

福光屋と鶴野酒造店の共同醸造の様子

それぞれ6月と7月に発売された「鶴と福」と「谷泉×加賀鳶」の売れ行きは好調で、いずれも年内に完売する見込みだそうです。さらに、10月に入ってから、新たな日本酒の仕込みがスタートしています。

「これまでに発売した『鶴と福』や『谷泉×加賀鳶』は全国の日本酒ファンに向けた商品でしたが、地元の方々からも、また『谷泉』を飲みたいという声をいただいていました。地元のお祭りが復活したりしている中で、能登の文化を残していく意味でも、地元の方々に気軽に飲んでいただける『谷泉』もつくっていきたいんです」(晋太郎さん)

「鶴野酒造店が復活するまでには、少なくとも7〜8年がかかると聞いています。特別な商品だけでなく、いつもの商品もしっかりと造ることで、『谷泉』が続いていってほしいと考えています」(板谷さん)

酒蔵として、ひとりの人間として支援していく

福光屋は共同醸造だけでなく、石川県工業試験場や石川県立大学と連携して、倒壊した鶴野酒造店の蔵内に残っていた、酒造りに必要な微生物や菌などの保護にも取り組んでいます。

3月には、北陸新幹線の延伸を記念して「福正宗 ひゃくまんボトル 純米大吟醸原酒」をリニューアル発売、さらに「福正宗 かがやき金沢 純米吟醸 純金箔入」の販売を再開し、どちらも売上の一部を義援金として寄付しました。

福光屋の外観

また、能登町の数馬酒造の醪(もろみ)や輪島市の清水酒造店の貯蔵酒を救出するなど、さまざまな支援活動に取り組んできました。今後の復興支援について、板谷杜氏は「福光屋の設備や知見が必要ならば、喜んでお手伝いしたい」と話します。

「先日、改めて能登に行きましたが、現地の復興はまだまだ手付かずで、言葉にならないくらいの悲惨な状況が続いています。酒蔵としての仕事を通しての支援だけでなく、ひとりの人間としてのお手伝いも含め、継続していく必要があると感じています」(板谷さん)

能登半島地震から9ヶ月以上が経過したいま、被災した酒蔵の現状を知る機会は少なくなってきています。しかしその一方で、9月下旬に記録的な豪雨が被災地を襲い、さらに深刻な状況となっています。酒蔵の人的被害は報告されていませんが、地震と大雨の二重被災で、復興にはさらなる時間がかかりそうです。

そんな中、石川県酒造組合連合会によるイベント「サケマルシェ」が、10月5日(土)に金沢市内で開催。今年は「酒蔵復興支援」をテーマに、能登半島地震が発生してから初めて、石川県内の酒蔵が一堂に会する場となりました。

鶴野酒造店の鶴野晋太郎さんと鶴野薫子さん

鶴野酒造店のブースでは、共同醸造の「鶴と福」や「谷泉×加賀鳶」も提供されていました。

2024年の「サケマルシェ」の様子

商品の購入だけでなく、こうしたイベントへの参加も、被災した酒蔵の復興を支援する方法のひとつ。自分自身にとって無理のない方法で、継続的な支援をお願いします。

義援金の受付情報

現在、能登半島地震からの復興を目指して、石川県酒造組合連合会と日本酒造組合中央会が、義援金を受け付けています。

石川県酒造組合連合会

  • 銀行名:北國(ホッコク)銀行
  • 支店名:金沢城北(カナザワジョウホク)支店
  • 口座種別:普通
  • 口座番号:036977
  • 口座名義:ケンシュゾウクミアイレン
  • 注意事項:寄付金控除の対象にはなりませんので、ご了承ください。

日本酒造組合中央会

  • 銀行名:三井住友銀行
  • 支店名:日比谷支店
  • 口座種別:普通
  • 口座番号:8646691
  • 口座名:ニホンシュゾウクミアイチュウオウカイ ギエンキンクチ
  • 備考:
    ・寄付金控除の対象にはなりませんので、ご了承ください。
    ・法人からの義援金については、損金算入限度額の範囲内で損金算入の対象となりますので、ご留意ください。
    ・義援金に対する受領証が必要な場合は、別紙の様式で日本酒造組合中央会までご連絡ください。

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