福岡県田川郡の福智町(ふくちまち)が、まちづくりの一環として、クラフトサケ醸造所の誘致を発表しました。現在、造り手を募集しています。
クラフトサケとは、日本酒の製造方法をもとに、果物をはじめとする副原料を加えて発酵させるなどのアレンジを取り入れることで、これまでにない香りや味わいを生み出す新しいジャンルです。近年、日本酒造りの経験者が新しい醸造所を立ち上げる事例が増え、盛り上がりを見せています。
そんな中、福智町がクラフトサケ醸造所の誘致を行うのは、どうしてでしょうか。今回のプロジェクトに込めた想いについて、まちづくり総合政策課の担当者に話を聞きました。
登山ファンに人気の「福智山」を擁する、自然が豊かな町
福智町は、福岡県の中心部に位置する、人口が2万1,000人ほどの町。町名の由来にもなっている標高901メートルの福智山は、年間20万人を超える登山客が訪れるなど、九州地方を代表する山のひとつです。また、戦国武将の細川忠興(ほそかわ・ただおき)が築城した小倉城に伝統的工芸品「上野焼(あがのやき)」を納めていた“陶の里”としても知られています。
かつては炭鉱が主な産業でしたが、日本の主要エネルギーが石炭から石油に移行した昭和のエネルギー革命の影響で、すべての炭鉱が閉山。以降は人口も減少し、町の活力はだんだん失われていきました。
現在の福智町は、2006年に金田町・方城町・赤池町の3町が合併して誕生しました。産業の中心は農業にシフトし、梨やいちごなどの果物のほか、米も特産品となっています。
特に上野地区は「水源の森百選」のひとつである福智山の麓に位置し、福智山の水源林から湧き出る水に恵まれています。福智山系の清流で育てられた安全で美味しい「上野の里米」は、ほのかな甘みが特徴で、香り・味・粘りのバランスが良く、ふっくらとした炊きあがりが自慢です。主に「夢つくし」「元気つくし」「ヒノヒカリ」という品種が栽培されています。
クラフトサケによる地域活性化を目指して
福智町は、福智山の登山客をはじめとする観光客が福智町の魅力を充分に感じられるように、飲食や宿泊など、なるべく長く滞在してもらえるようなコンテンツを提供したいと考えていました。そんな中、まちづくり総合政策課から、「酒蔵ができれば、新しい観光資源になるのではないか」というアイデアが生まれたのだとか。
「福智町の特産品である上野焼は茶器が中心ですが、酒器も作られています。地元の酒と器で相乗効果が生まれ、酒蔵を中心に、町を盛り上げられるのではないかと考えました」(福智町 まちづくり総合政策課)
ところが、実際に調べてみると、日本酒の製造免許の新規発行は事実上不可能なため、酒蔵の新設は難しいことがわかりました。既存の酒蔵の事業継承も選択肢に挙がりましたが、良い案件には巡り会えません。
そんな時、まちづくり総合政策課の担当者さんは、秋田県男鹿市のクラフトサケ醸造所「稲とアガベ醸造所」の代表・岡住修兵さんのインタビュー記事に出会いました。
「たまたま読んでいた雑誌に載っていたのですが、『こんな方法があるんだ』と衝撃を受けました。また、岡住さんが取り組んでいる、クラフトサケを通じた男鹿市の地域振興には共感することばかりでした。福智町にもたくさんの農家さんがいるので、酒造りを通じて、農家さんの収入が増加したり、新しい雇用が発生したりするのは理想的です。
最初は『日本酒が難しいからクラフトサケにしよう』という気持ちでしたが、いまは『クラフトサケならではの魅力を通じて、福智町の魅力を発信していきたい』と感じています。福智町特産の赤池梨やあまおうを副原料として使うことができれば、この町ならではの地酒ができるかもしれません」
資金面・販売面の充実したサポート
「地元に醸造所があり、自分たちの“地元の酒”があるというのは、福智町にとって大きな誇りになると思います」と語る担当者さん。クラフトサケ醸造所の誘致に大きな期待をふくらませる福智町は、資金面から販売面まで、さまざまなサポート体制を整える予定です。
資金の面では、総務省の地方スタートアップ支援制度「ローカル10000プロジェクト」や、福智町独自の「ふるさと納税活用型 事業所設置奨励金」などを組み合わせることで、初期費用の最大90%の補助を受けられる可能性があります。また、「地域おこし協力隊」に任用されれば、年間480万円の活動費が支給されます。
また、完成した商品をふるさと納税の返礼品に加えるなど、販売の面でもサポートします。春と秋に開催しているイベント「春の陶器まつり」や「秋の窯開き」に合わせて、クラフトサケと上野焼の酒器をセット販売するなどのアイデアもあるのだとか。
求めるものは「情熱」と「自由な発想」
春には桜が咲き誇り、夏になると蛍が飛び交い、秋には紅葉が楽しめるなど、自然が豊かな福智町。そんな魅力のある町を、クラフトサケを通して盛り上げたい。今回のプロジェクトには、そんな思いが込められています。
「最近は、地元の若い方が立ち上げたキャンプ場『7世代 CAMP』がオープンしたほか、上野焼の後継者を育成するための計画も進んでいます。クラフトサケ醸造所ができることで、福智町がさらに活性化し、また新しい取り組みが生まれるような好循環を実現したいと思っています。
今回の誘致は、クラフトサケに対する情熱や自由な発想があり、福智町の未来をいっしょに考えてくださる方に応募していただきたいです。お互いに相談しながらサポートしていきたいと思っていますので、積極的にチャレンジしていただきたいですね」
オーナーとしてクラフトサケ醸造所をオープンしたい人にとっては、自治体からのサポートを受けられる絶好の機会となる今回の募集。クラフトサケと福智町の未来のために、ぜひ応募してみてはいかがでしょうか。
(取材・文:Saki Kimura/編集:SAKETIMES)
◎募集概要
- 募集内容:福岡県田川郡の福智町でクラフトサケ醸造所を開設したい個人・企業を募集
- 応募期間:2023年12月22日(金)まで
- 応募条件:
・飲む人に感動を与えるクラフトサケを造る自信と志のある方
・クラフトサケの事業を通して、地域活性化に貢献できる方
※応募条件の詳細は、福智町の公式サイトの募集要項をご覧ください。 - 応募方法:
提案書を作成し、下記の応募先にメール、持参、郵送のいずれかで送付してください。 - 応募先・問い合わせ先:
福智町役場 まちづくり総合政策課 政策推進係
(〒822-1292 福岡県福智町金田937-2)
電話:0947-22-7766
メールアドレス: fg0500@town.fukuchi.lg.jp
※この記事における「クラフトサケ」は、クラフトサケブリュワリー協会の定義をもとにした、「日本酒の製造技術をベースにしながら、従来の日本酒にはない味や香りが楽しめる醸造酒」という意味です。フルーツやハーブなどの副原料を発酵過程で取り入れた「ボタニカルSAKE」や、もろみを搾る工程を経ない「どぶろく」の一部などが、それにあたります。酒税法上では「清酒」ではなく、「その他の醸造酒」や「雑酒」などに区分されます。
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