1659年(万治2年)に創業し、350年以上の歴史を持つ、兵庫県・菊正宗酒造が培ってきたのは、生酛造りをはじめとした確かな酒造技術だけではありません。ビジョンとして掲げる「伝統と革新」を体現するように、醸造に関する研究や販売ルートの開拓など、若手社員たちがそれぞれの領域で、日々みずからの業務に邁進しています。

なぜ彼らは、日本酒という一見保守的な業界へ飛び込んだのでしょうか。そして、どんなことを考えながら働いているのでしょうか。若者たちの"リアル"な声に迫りました。

今回集まっていただいたのは、写真左から、総合研究所・砂田啓輔さん(26歳)、海外事業部 海外事業課・京極慎平さん(30歳)、広域量販部 西日本営業所 第一チーム・高瀬博規さん(29歳)の3名です。

日本酒の第一印象は最悪!?衝撃だった菊正宗の"真摯さ"

─ どんなきっかけで、菊正宗に就職したのですか?

高瀬:僕の前職は、異業種も異業種。東京のIT企業で、受注がメインの営業でした。ただ、クライアントの要望に左右されるばかりで......。自分たちの商品を自信をもって販売できるような、歴史のあるメーカーに就職したいと思っていたところで、菊正宗の求人を見つけたんです。

京極:面接みたいやな、固い固い(笑)。僕は、インターネット広告会社で働いていました。退職した後、語学留学のためにサンフランシスコへ渡ったんです。そこでたまたま、地域活性化に取り組んでいる団体と出会い、地元の良いものを発信していくのがおもしろいなぁと思って、現地でインターンをしたんです。日本でもそんなふうに仕事ができたら良いなと考えて、菊正宗の採用を受けました。菊正宗を初めて飲んだのは、サンフランシスコだったんですよ。そこで「あ、日本酒ってこんなに美味いんや」って、感動したんです。

高瀬:京極さんも面接みたいですよ!しかも、そんなドラマみたいな話!(笑)

談笑する菊正宗の若手社員

砂田:僕は、単純にお酒が好きやったんです。大学4年生のときと大学院の研究室では発酵工学を専攻して、3年間、酵母の研究をしていました。その知識が活かせる企業を考えると、日本酒やビールなどの酒造メーカーに就職したいなぁと。それで受かったのが、菊正宗でした。

─ 菊正宗の印象は入社前後で変わりましたか?

京極:学生のときはちょうど焼酎ブームだったので、焼酎ばかり飲んでいたんですよ。それこそ、"酔うため"に日本酒を飲むことはあっても、自分から積極的に飲もうとは思いませんでした。だからこそ、サンフランシスコで飲んだ菊正宗が美味しくて、本当にビックリしたんですよ。入社前は単なる"日本酒メーカー"としか思っていませんでしたが、この規模でこれだけ真摯にお酒を醸しているのは本当にすごいなぁと。

砂田:学生時代にバイトをしていた、お酒にこだわっている個人の居酒屋で、勉強がてらよく飲ませてもらっていました。その店に通年で置かれていたのが、菊正宗の上撰やったんです。冷やにするか燗酒にするか、どんな料理と組み合わせるかによって、味わいが変わるのがおもしろいなぁと思っていました。入社してから、醸造の工程を初めて学んだときは、こんなに手間暇かけて造ってるのかと衝撃でしたね。そりゃ、美味しいはずやんって。

高瀬:学生のときはむちゃくちゃな飲み方をしていたので、日本酒自体の印象はあまりよくなかったんですよね。菊正宗に対しても、いくつかある日本酒メーカーのひとつくらいにしか思っていなくて。でも、菊正宗のブランド力は、入社してから日々実感しています。酒販店だけでなく、一般のお客様にも多くのファンがいらっしゃいますし、他メーカーの方々からも「菊正宗は良いものを造ってるよね」と、よく言われるんです。プライベートで外食するときも、ついつい、菊正宗が置いてある店を選んでしまいますね。

京極:もう「菊正宗がNo.1だ」と感じる舌になってるんですよね(笑)。海外の和食レストランに行くと、どこも日本よりも濃い味付けなんです。だから、スッキリした味わいの純米樽酒がよく合うんですよ。

キクマサの良さについて語る海外事業部 海外事業課・京極慎平さん

日本酒には無限の可能性......キクマサだからできる挑戦

─ どんな仕事にやりがいを感じますか?

砂田:菊正宗が創業以来、ずっとこだわって造り続けている「生酛」は本当に奥が深いんですよ。まだわかっていないことが多いからこそ、研究対象としておもしろいし、やりがいもあります。

高瀬:僕はいま大阪エリアを担当していて、他の大手メーカーと競争をするなかで「良いお酒を売っている」と、胸を張って営業できるのがありがたいですね。単純な価格競争には負けてしまうかもしれないけど、「やっぱり菊正宗は美味い」とおっしゃってくれるバイヤーの方々に支えられています。ただ、東京都内や大阪、兵庫は強いですが、それ以外のエリアではまだ認知度が低いところもあって、菊正宗を置いていない小売店もまだあるので、これから開拓の余地があると思っています。

京極:日本酒の国内消費は厳しい状況になっていますが、海外への輸出が伸びているので、可能性は無限大だと思います。海外での需要は和食レストランがほとんどですが、日本でも寿司屋でワインが飲めるように、イタリアンやフレンチに日本酒を合わせてもいいはずじゃないですか。どんなレストランにも日本酒が置かれるようになって、そのラインアップのひとつに菊正宗の名前を入れたいですよね。

─ 働いているなかで、何か悩みはありますか?

砂田:そうですねぇ......そろそろ彼女が欲しいですね。

高瀬:そら、がんばれとしか言われへんわ。

京極:せやな(笑)

談笑する菊正宗の若手社員3人

砂田:......というのは冗談として(笑)、自分のやるべき業務とやりたい業務のバランスをとるのが難しくて、どう時間をやり繰りしようかなぁと、苦心していますね。想像以上に裁量を持たせてもらっているので、研究計画を自分で決めて、責任を持ってやっていかなくてはなりません。もちろん、やりがいは大きいんですけどね。今は生酛の研究と新製品の開発をやっています。

京極:最近よく、部署に関係なく若手で集まって、"若い人に飲んでもらえるような日本酒"について、ディスカッションをしているんですよ。砂田には期待しているんですが、なかなかそこまで手が回らないみたいで。

砂田:がんばります(笑)

京極:でも、僕もやりたいことに自分が追いつけていないという実感があります。基本的に僕ひとりでヨーロッパとオセアニアを担当しているんです。それぞれの国で食習慣が違うので、「この国はこう」「あの国はこう」って試行錯誤しています。売上は堅調に伸びてきているんですが、いかんせんひとりなので、できることが限られてくる。もっとグイグイ行きたいんですけどね。

高瀬:入社から2年経って、やるべきことはひととおり見えてきたんですが、上司からは「もっと自分の色を出していけ」って言われるんですよね。これがまた、難しくて。「自分らしさってなんだろう」って考えてしまって......。今の上司は、他の部署とも積極的に情報交換をして、みずから発信して会社を動かしていける人なんです。だから、僕もそんなふうに自分から動いていかないといけないな、と。

砂田:僕も入社して2年ですけど、研究所前所長の高橋さん(現在は生産部 生産管理グループ課課長)と、山田さん(菊正宗総合研究所所長)のことは尊敬していますね。高橋さんの、「ギンパック」みたいな優れたアイデアを生み出して、それを商品化までもっていく推進力は本当にすごいと思いますし、山田所長は研究の内容を細かいところまで覚えていて、その知見の深さに頭が下がります。

京極:切に実感するのは、菊正宗の359年の重みですね。今の部署に来る前は神奈川エリアの営業を担当していたんですが、取引先のみなさんが僕の前任、前々任、さらにその前の担当者を覚えていらっしゃるんですよ。挨拶に行くと「そういや〇〇くん、元気でやってるか?」と、声をかけられて。ひとりひとりが菊正宗のバトンを繋いできて、いま僕らがそれを受け取っているんだと思うと、背筋が伸びますね。

若い世代にも日本酒を楽しんでもらいたい!

― 今の日本酒について、どう思いますか?

砂田:僕らと同年代の人にも、もっと日本酒の楽しみ方を知ってもらいたいですね。同じ価格帯でも純米酒、吟醸酒、樽酒......と味わいもさまざまで、温度によっても味が変わるし、こんなにバリエーション豊かなお酒は他にないと思うんです。

入社の経緯を語る菊正宗総合研究所・砂田啓輔さん

高瀬:今は地酒ブームもあって、若い愛好家が増えてきていますが、ごく限られた人にとっての嗜好品になってしまわないように、良い酒をできるかぎりリーズナブルに提供して、ふだんから日本酒を楽しんでもらいたいですよね。

京極:やっぱり、良くも悪くも先入観がある。日本酒が好きな人に「キクマサはいいや」って敬遠されると、心が痛むんですよ。全国的に流通している商品があるからこそ、そういうことになってしまうのかもしれないのですが、一度でいいから飲んでいただきたいなと思います。いや、悔しいんですよ。僕らも、丹精込めて美味い酒を造っている。飲んでもらったら、絶対わかってもらえるはずだと思うんですよね。

─ 将来の夢はありますか?

京極:僕はやっぱり、サンフランシスコへ行ったときのことが原点にあって。アメリカって移民の国じゃないですか。中国、イタリア、メキシコ......さまざまな国が祖国だけど、みんなサンフランシスコのことが大好きで「サンフランシスコを世界へ」という思いで活動をしていた。日本でもそんな活動ができたらいいなと思うし、僕自身もそういうことを発信できるような人間になりたいです。

高瀬:実は昨年、子どもが生まれました。父親として恥じぬように誇りを持って仕事して、20年後に菊正宗で息子と晩酌できたらいいなって思うんです。

砂田:僕はまだ、あまり将来のことまで考えていませんでした。今はまだ会社のことばかりというか、ひとつひとつの仕事が楽しくて。悔いなく人生を終えられたらいいですね。

菊正宗の若手3人海外事業部 海外事業課・京極慎平さん、広域量販部 西日本営業所 第一チーム・高瀬博規さん、総合研究所・砂田啓輔さん

3人とも関西出身とあって、終始笑いの絶えなかった今回の鼎談。「海外という未開のマーケットを開拓する仕事には楽しみしかない」とポジティブな姿勢で働く京極さん。「まだまだ謎が多く残されている生酛を、研究者人生を懸けて追究したい」と熱い思いを語ってくれた砂田さん。どうやったら自分の色をもっと出せるかと、若者らしい悩みを抱える高瀬さん。

三者三様のスタイルで仕事に取り組みながらも、一貫して感じられるのは「キクマサ」への熱い思いでした。彼らが築いていく菊正宗酒造の未来に、期待しましょう。

(取材・文/大矢幸世)

sponsored by 菊正宗酒造株式会社

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