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「日本酒はかっこいい!」ということをもっと当たり前に ―― 平和酒造・山本典正が見つめる未来 


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和歌山県・平和酒造の日本酒「紀土」。前回の記事冒頭でも紹介したように、2014年と2015年に「IWC(インターナショナルワインチャレンジ)」で受賞を果たし、さらに2016年4月には、日本酒ファンが一番おいしいお酒を選ぶ「第3回 松尾大社 酒-1グランプリ」で見事グランプリに輝いた、今もっとも勢いのある人気銘柄のひとつです。

代表取締役専務の山本典正さんは、こうした栄誉を喜ばしく受け取りながらも「コンテストは自分の蔵のお酒を客観的に評価してもらえるので、品質を上げるためのひとつの基準という位置づけですね」と、あくまで冷静です。

山本さんが目指すものは、どうやらコンテストに入賞することよりもっと先にある様子。連載第2回目は、山本さんが見つめる日本酒の未来についてお話を伺います。

若き仲間たちと始めた「若手の夜明け」

山本さんは平和酒造の当主という顔を持つ一方で、日本酒の価値を啓蒙するさまざまなイベント運営にも携わっています。そのひとつが、2007年から始まった「若手の夜明け」。地方の蔵元たち30蔵ほどが集まり、1000~3000人規模の来場者に日本酒を振る舞う企画です。特徴的なのは、提供する蔵元も来場者も20,30代がメインということ。

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「若手の夜明け」には人気の若手蔵元が一同に介する

著書『ものづくりの理想郷』(インプレス社)の中で山本さんは、「日本酒は『おいしい』ということ、『日本にしかない製造法で造られている世界に誇れるべき酒である』ということに気づいてもらうのが『若手の夜明け』の最大の目的」と語っています。

「日本酒の試飲会というものがそれまであまりなかったので、それなら自分たちで作っていこう! と始めたのが『若手の夜明け』です。お客様を目の前にした試飲会を、日本酒の酒蔵が開くということはほぼありませんでした。酒造組合などがやることはあっても、自発的に有志が、それも若い蔵たちが立ち上げたというのがおそらく初めてで、周囲からもとても温かく応援してもらえて、自分たちの力になっていったという実感があります。もちろんファンも獲得できたし、お客様と話をしながらお酒のレベルを上げていくことができた。もともと知り合いだった蔵元同士で始めたんですが、その会をきっかけにより関係が深まりました。たくさんの若手の蔵元たちと、みんなで成長していったという感覚はすごくありますね」

「若手の夜明け」以外にも、東京・青山のマルシェで「AOYAMA SAKE FLEA(アオヤマサケフリー)」という日本酒マーケットを開いたり、DJイベントのウェルカムドリンクで日本酒を振る舞ったりと、山本さんのアプローチは多岐に渡ります。

日本酒業界の先頭を走りチャレンジし続ける、その姿を他の蔵に見てもらう

2015年の春からは『HEIWA CRAFT(ヘイワクラフト)』というクラフトビールの製造も開始しました。日本酒の酒蔵としては異例のことですが、これは「冬しか酒造りをしない=一年を通しての仕事が少ない」という、酒蔵の問題点に対するひとつの解決策。一年中酒造りができる蔵をつくるための一歩です。

こうしたさまざまな革新的な取り組みは、山本さんのどのような思いから生まれてくるのでしょうか。

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「日本酒そのものや日本酒産業を、価値づけられる存在になりたい。それは日本酒というプロダクトとしての価値はもちろんなんですけど、平和酒造だけではなく日本酒の酒蔵全体を、より近代的なものに変えていきたいと思っているんです。そのためには、日本酒業界の先頭を走ってチャレンジし続け、まわりの酒蔵さんに私たちの取り組みを見てもらうこと、それが一番かなと思っています。日本酒の酒蔵って、伝統を守るのも新しいことを大事にするために、ともすると保守的になっていると思うんですよね。だから、全国の酒蔵基準の目で見ると、うちの蔵はかなりオフェンシブというか、変わった酒蔵に映っているのかもしれない。でも、そういう姿を見てもらえればと思っています」

平和酒造が目指すのは、「日本酒の再・価値定義」。日本の若者だけでなく世界にも日本酒ファンを増やすため、山本さんは今後もさまざまな提案やイベントの主催を画策しているとのこと。しかし、日本酒の新たな楽しみ方や価値観をデモンストレーションするための一番の方法は「良いお酒を造ること」だと言います。

「おいしいお酒を造れば、そのお酒が一番の営業マン、伝道師になってくれる。どんなシチュエーションでも楽しめる日本酒を造って、『日本酒はこのシチュエーションのここでしか飲んではダメ』という日本酒に対する思い込みを取り壊してあげる、それが自分たちのやりたいことの一つでもあります」

若く有能な人材が業界自体を活性化させる

山本さんの変革に影響を受けた酒蔵も少なくありません。そのひとつが、蔵人の雇用への取り組み。平和酒造では日本酒の酒蔵としては珍しく、社員の新卒採用を積極的に行っています。山本さんの著書の中ではその理由や採用方法が語られ、それを参考に「うちの蔵でも新卒採用を始めた」という報告が相次いでいるそうです。多数の応募の中から実際に社員になれるのはほんの数人、もしくは採用ゼロという年もあり、採用に投じる時間もお金も蔵の負担になります。それでも、根底には「日本酒のイメージを変えたい」という山本さんの強い思いがあるのです。

「前職で人材系の会社に勤めていて思ったんですが、ベンチャー業界ってモチベーションの高い有能な若者が入ってきますよね。それによってその業界・業種自体が活性化することもあるじゃないですか。日本酒業界は真逆だったんです。僕にとって酒蔵の営業マンというと、もう50歳近い恰幅のいいおじさんがネクタイを締めてお酒のイベントに出て、お客様が来てもつっけんどんな態度でやる気がなくて……みたいな、そういうイメージ。果たしてそんなので日本酒業界は良くなるのかといったら、おそらく無理ですよね。前職の情熱あふれるメンバーが取り組んでいる姿を見ていたのですごくギャップを感じて、これは若い人材を入れて変えられるところだなと思ったんです」

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平和酒造の蔵人たち。若く、活気あるメンバーが揃う

チャレンジ精神旺盛な若者を求めて、平和酒造の新卒採用は毎年行われています。「ものづくりや酒造りがしたい」「平和酒造なら新しいことができそう」という志を持って、全国から多くの応募が集まるそうです。

「日本酒はかっこいい飲み物」という価値観を膨らませたい

地酒ブームや山本さんのような若手蔵元の台頭により、最近では「日本酒=おじさんが飲む古臭いもの」という従来のイメージから見直されつつあります。平和酒造に限らず、今後日本酒業界全体が目指していくのは、どんな未来だと山本さんは考えているのでしょうか。

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「やっぱり『日本酒ってかっこいい飲み物だよ』ということが、もっと当たり前になっていくようにしたいですね。おそらく7,8年前に『日本酒ってかっこいい飲み物ですよ』と言っても納得してもらえなかったと思うけど、いまは割とストンと落ちてくる。それをもっと普通なことにしていきたいんです。もちろんワインやシャンパン、ウイスキーも素晴らしいんですけど、『我々が育んできた日本酒文化、日本酒というもの自体がすごくかっこいい飲み物なんですよ』と、その価値観をもっと膨らませられたらと思っています。『若手の夜明け』を始めた当初、一緒に立ち上げたメンバーとも『日本酒って本当にかっこいい飲み物なのに、誰もそんなこと思っていなくて悔しいね』という話はしていました。同じ考えの蔵元も多いと思います」

日本酒業界の中では、いまの日本酒ブームは2020年の東京オリンピックまでではないか、とも言われています。ただ日本の酒造りの歴史や文化的な価値を啓蒙するだけでは、クラシック音楽や歌舞伎のように、対象となる年齢層を上げる行為にもつながりかねません。山本さんは、そうした日本酒業界のやり方を変えて、若い年齢層にも“日本酒ってお洒落な飲み物でかっこいい“というイメージを持ってもらい、「いまのブームが去ったとしても、日本酒に対してかつてのようなネガティブイメージがない状況にしたい」と語ります。

「ブームが終わって日本酒の価値が一旦横ばいになったとしても、次のブームが来るのをちゃんと作っていける業界にすればいいんです。東京オリンピックまでは日本酒はかっこいいけど、それ以降はかっこ悪くてダサい飲み物になるかと言ったら、そんなことはないですよね。その横ばいとブームを繰り返していくうちに、徐々に日本酒の価値が上がっていって、『日本酒ってすごくかっこいい!』という価値観が日本で育まれていければ、それこそ僕たちの狙うところなんです」

働くことは人生そのもの。1000億積まれてもやめるつもりはない

ベンチャー企業への入社、新しい梅酒や日本酒造り、クラフトビール参入、若手社員の採用……これまでさまざまなことに挑戦してきた山本さんですが、その歩みが止まることはありません。常に平和酒造や日本酒業界、お酒を楽しむ消費者のために、一歩先の未来を見据えています。

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「直近で言えば、よその酒蔵さんがやっていないことをやりたい。よく成功の方程式はひとつしかないと言いますが、僕はいくつもあると思っているんです。当然、他の酒蔵さんが通ったルートを追いかければ安全ですし、その先頭にいる人が成功していれば、その後追いをするのは簡単でおいしい戦略だと思うんですね。でも、後ろを歩いているだけではその酒蔵さんを抜くことはないし、それ以上の価値は生まれないと思うんです。僕は新しいルートを開拓することで、次の蔵元さんたちを引っ張っていくようなルートを作りたい。日本酒の新たなルートを開拓することが、日本酒にとっての肉づけになると思うんです。だからこれからも、新しいチャレンジはどんどんやっていきたいですね」

最後に山本さんの仕事観を伺うと、力強い言葉が返ってきました。

「僕にとって会社経営や働くことというのは、人生そのものです。幼少期からの思い入れもあるので、どんなにお金をいただいても働くことはやめないと思います。というのは、働くことが社会に最も貢献できる方法だと思っていて、その結果として報酬を得ているという感覚なんです。ボランティアで社会貢献をするよりも、ビジネスとして働く方がずっと効率がいい。こんなに効率的なシステムを手にしているときにやめるっていうのは、やっぱりあり得ないですね。まずはこの道を走り続けたいという思いがあるので、100億積まれようが1000億積まれようが、まったくやめるつもりはないんです」

山本さんは長いインタビューの中で、常に真摯に、ときにユーモアを交えて、日本酒や日本酒業界への思いを語ってくれました。クールな語り口の随所に、熱い思いが見え隠れしていたのは言うまでもありません。革新的なことに次々と取り組む山本さんと平和酒造、次はどんな新しい挑戦に挑むのでしょうか。今後の展開にますます期待できそうです。

(取材・文/芳賀直美)

sponsored by 平和酒造株式会社

 

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